07.1.5 オオタカ かすみがうら市 外はまだ暗い。握った車のハンドルは冷たく、県道は車の往来がない。この時間帯なら正確に30分でフイルドに着く。 畑や田圃は霜で白く光っていた。事実、ブラインドを張る草むらは霜柱で一段高くなっていた。僕は足で踏みならして、平らにして小さなブラインド をそこにのせた。 今年はツグミ類の冬鳥が沢山入ってきているので田圃は賑やかだ。それにスズメが例年より多いような気がする。朝の早いスズメが2列になって電線に長く連なっている。 ドバトは一時、少なくなって心配だったが再び戻ってきた集団が安定して飛来するようになり、その点では安堵している。 カメラの準備完了。僕はブラインドの中で、外から漏れる明るい光を目当てに本を読み始めた。 だが、ものの5分も過ぎないうちにオオタカが舞い降りてきた。メス成鳥勝子だった。 勝子はしっかりとドバトを握っていた。だが勝子の鋭い目線はこちらのブラインドから離れない。時々自分の足元でうごめくドバトを見るが、炯炯と光る厳しい眼光は僕を身動きできないほど緊張させる。「今年はそれほど甘くないからな」とその目は語っている。 このような時はこちらも目を放せない。もし目線を外したら、勝子は直ぐに飛び去ってしまう不安が心を支配する。これまでの経験で勝子から僕の姿は見えないことは分かっている。僕の頭も顔も目さえ見えないことは分かっている。だが何故だろう?勝子はそこに僕がいることを明瞭に視認している。 「お前が隠れていることは百も承知!」と勝子はその鋭い目で語っている。目ほどものを語るとは良く云ったものだ。 しばらくして勝子はドバトを食べ始めた。 僕はそこでブラインドの窓からゆっくりと300ミリのレンズを出して彼女に向けた。 しかし勝子は突然食べるのをやめて再びこちらに目線を送った。やばいと僕は思った。だがもはやレンズを元に戻すことは出来ない。 勝子はレンズが突き出されたことを認めたのだろう。 ふわーっと飛び上がり山間の方へ飛び去った。又しても勝子の警戒心の強さに驚く。 今年始めてのオオタカの撮影はこのような顛末だった。 霞ヶ浦の猛禽のTV放映の収録が12月29日に行われた。 東京からカメラマンとデレクターの二人が来て霞ヶ浦湖畔で撮影を開始した。 その日は冷たい西風が吹き荒れ、霞ヶ浦付近の田圃は猛禽が殆ど出なかった。 しかしブラインドの中からの撮影風景は撮れるので、西風をさえぎる土手の下で始めた。 僕はブラインドの中に入り三脚にカメラレンズをセットした。 だが土手の下でも、風が吹きすさび、ブラインドにうちあたり三脚もろとも飛ばされそうにになった。僕は三脚とブラインドを中から押さえ、飛ばされないように必死だった。高額のレンズとカメラを守るのに撮影どころではなかった。(大汗) デレクターもブラインドの裏側に回りブラインドが引き倒れないよう抑えてくれた。 「北海道より風が強く冷たい」とカメラマンが叫んだ。 「北海道の方が暖かく感じる」と僕 霞ヶ浦の筑波おろしの西風は冷たく感じるときがある。風は暴力的である。その後田圃の中で場面を変えて撮影を繰り広げた。 5分間番組だが色々なカットを撮るのに驚いた。 「猛禽撮影で一番心がけることは何ですか?」とデレクターが訪ねた。 僕は何処にブラインドを張るか、その場所探しですと答えた。 「その場所探しのポイントは?」とデレクター 「食痕です。」 「ショッコン?」 「猛禽が食べた残骸です。」 「なるほどそれは直ぐに見つかりますか?」と D 「この辺は良くあるところですから」 それから10分ほど食痕探しに入った。 運が良いことにまだ、新しいオオバンの羽が沢山散在している食痕を見つけた。 「見てください。これは水鳥のものです。オオタカは脚だけ残し全部食べていますね。と言うことは30分以上ここで食事をしていた。つまり落ち着いて食事できる環境にあるわけです。」と僕 このような食痕を出来るだけ探し、そこをブラインドの基点にしていくのです。 僕の説明に納得したデレクターはそれから僕が食痕を見つけるところのカットを撮りたいと言い出した。 ところが自然に、装うことは僕にとって大の苦手である。 田圃を猛禽の食痕を探しに歩いていて、不図立ち止まったところに食痕があった。膝を曲げてその羽を拾う。それだけの場面でも自然な表情となるとうまく行かない。 仕方なく応じたが、何回も演技を繰り返された。 既に見つけているものを、さも今見つけたように演じることは難しいものだ。 「早く腰を曲げすぎる」 「羽に手を伸ばすのが早すぎる」 「目が羽に向けていない」とデレクターに注文をつけられる。 このカットをとるのに2時間ぐらいかかった。 「ところでこのカット本番で流れるのですか?」と僕はこのカットを撮ったあと素朴な質問を投げかけた。 「こんなカット入れて行ったら2時間番組になるのでは」と僕。 「どのカットを採用するかどうかはプロジューサーが判断するので」とカメラマン。 一応のコンテはできており、それに応じてカットと言うパーツをいくつも作成しておく。、スタジオで選ばれたパーツをつなぎ合わせ放映可能な 完成品にしていくとデレクターが説明した。 そのあと猛禽を探しに霞ヶ浦周辺の田圃を探したが風が強く中々見つけられなかった。夕方土手下で、やっとハヤブサの幼鳥を見つけた 5分間番組を作るのに本日は8時間殆ど収録の為に時間をかけ、テープも3時間ぐらい録っただろうか。 どんな映像が放映されるか恥ずかしい面もあるが楽しみでもある、1月20日。完 07.1.08記 ![]() オオタカメス成鳥 06.12.撮影地 霞ヶ浦 戻り |