06.12.09  オオタカ    かすみがうら市

 本日は最近に珍しく曇日。小雨が降りだしてくるような空模様だった。
オオタカのような大きな鳥を撮影するのにはむしろ太陽が隠れた曇天の日が僕は好きだ。
晴天の日はどうしても、大きな鳥は飛翔する時、太陽に当たる風切羽は光ってしまって、逆に反対側の羽には陰が出来て、黒っぽく見えてしまう。
その点、曇天の日は光が平均に当たるのでやさしい光と影の映像をつくることが出来る。

しかし、陽があたらない本日のブラインドの中は寒い。夜明けから、だいぶ時間が過ぎても気温が上がらず、例によって時間つぶしの読書をしていたが寒くて集中できず、直ぐにブラインドの外を見てしまう。

近くの山々は紅葉が終わり、黒灰色の色合いが強くなり初冬の印象が深くなってきた。その山からこちらに向かって降りてくる広い平らな原野はまだ降霜が数回あったのみで、草木は夏の元気な姿をいまだにとどめている。

事実、僕の目の前のちょっとしたくぼ地になっているところの雑草地は緑色一色である。
そのくぼ地に今朝は数羽のドバトが下りて、餌を拾っていた。

と、突然斜め左からオオタカの幼鳥が飛び込んできた。いや、飛び込んできたと云う表現は当たらない。ファーと下りてきたと云った方が良い。
次には、オオタカはドバトの背中に乗って、僕のテントの方をジロリと睨んだ。いつか述べたことのある、神経質な幼鳥である。

いつだったか奴が食事中に、僕はやっとブラインドからレンズを出したのにもかかわらず、彼はそれを見て飛び去ってしまったことがある。
オオタカは食事を始めればそれに夢中になり、飛び去ることは稀なのだが、この幼鳥はそれほどナーバスだった。

僕は彼の目線を外して目の前の本を読むことにした。無論、本の中味が追えるわけがない。ただ僕は彼の視線から逃れたいだけだった。

数分が過ぎただろうか?彼は勢い良く食事を始めた。周囲をあまり気にしないで、がつがつ食べている。時々上空を気にするくらいだ。
僕はレンズをブラインドの窓から出して彼の姿に焦点を合わせた。レンズは300ミリ。距離は25m前後。
少しレンズが小さい。オオタカの幼鳥がフアインダーの中で貧弱に見える。だが僕の最近の目的は猛禽の抗争の絵である。つまり2羽の猛禽が羽を広げて喧嘩をしている映像である。
従って今、目の前にいるオオタカが羽を広げた映像が2倍の大きさとすれば2×2羽、つまり4倍の広がりがないと抗争の映像は撮影できない計算になる。
2羽が大きな羽を広げると500ミリのレンズではかなりはみだしてしまう。
しかしオオタカが飛ばない限り300ミリレンズでは小さい画像になる。そのレンズでオオタカの動きをしばらく観察していた。

すると、食事している幼鳥の脇5mのところにオオタカの成鳥が舞い降りた。前回と同じメスの成鳥勝子である。
勝子は左右の羽を広げ、喧嘩をする体勢に入っていた。

それに対して奴は両羽と尾羽を広げ眼は掴みかかるばかりに燃えたぎって、応戦の姿勢を取った。その姿は窮鼠、猫を噛むように見えた。

次に両者近か寄って、その鋭い爪で相手に掴みかかった。お互いの爪は相手に届かず、位置が入れ替わった。お互い両羽を膨らませ、隙があらば飛び掛ろうと双眸をそらさない。息つまる瞬間である。
再び地面を蹴り、両羽を広げ飛び掛った。僕は両者が寄ったところで持っていたカメラのシャッターを切った。以前は、ただ目の前の喧嘩を感動のあまりシャッターをきることを忘れて、呆然自失して何もしなかった。が、今度は冷静だった。
飛び掛り羽を広げたところで、又シャッターを夢中で切る。

喧嘩は当然勝子が勝利すると思った。
獲物は勝子のものと僕は信じて疑わなかった。しかしその勝子は2度ほどの格闘をした後、飛び下がって奴が獲物を放さないのを確認すると、上空へ消え去った。
僕はその姿を見送りながら唖然とした。

僕は驚いた。成鳥が幼鳥に負けるなんて信じられない。怪我でもしていない限り、オオタカの世界では年功序列(人間の世界)ではない、年上の者が勝つと思っていた。目の前でこの常識がひっくり返ってしまった。亀毛兎角ではないか?僕は分からなくなってしまった。

勝子が飛び去った後、奴は再び食事を開始した。
空腹なのか獲物の羽毛と一緒に肉片を飲み込んでいた。それから30分ほど過ぎた。だいぶ食事が進み彼の咽喉袋が膨らんできた。彼は時々満腹感か、遠方を眺め、考えごとをしているように見えた。

そこに再び勝子が舞い降りてきた。
次に残りの獲物に飛びかかった。
瞬間、幼鳥は飛び上がり山の方向に消えて行った。勝子は掴んだ獲物を夢中で食べ始めた。
だが、目の前の僕のブラインドに何かを感じたのか、獲物をその鋭い足爪で挟み、上空に消えた。あっという間の出来事だった。

僕はそこである程度想像したことが納得できた。

つまりあくまでも推定であるが、勝子と奴は親子ではないか。奴が執拗に獲物を放さなかった為に勝子は諦めて彼に獲物を譲ったのではないか。
2度も掴み合いの喧嘩をしたが、子のとてつもない空腹を悟り一歩下がった。
これは勝子が母親故に、子供に獲物を譲る判断を下し飛び去った。

そして山の樹木の陰から幼鳥の食事をしているところを一部始終見守っていた。
子供がソロソロ満腹になってきた頃合をみて、再び僕のテントの前に舞い降り、幼鳥と交替して食事に入った。その賢さとオオタカの親の愛情を見る。猛禽であっても成鳥した子供の餓えの痛みを自分の痛みと感じるのだろうか。

以前オオタカとノスリの抗争では、危険すれすれのところでオオタカは去った。
無益な流血戦には至らない彼らの知恵が働いたことを僕は以前記述したことがある。それよりも本日の喧嘩は派手である。肉親の戦いと見るのは皮相かも知れないがしかし迫力はあった。

だが、その迫力もうわべだけのように見える。
自宅に帰って、本日のオオタカの喧嘩を、現像した連続の写真から、僕は親子喧嘩であることを確信した。2度ほど掴み合いをしているが、お互いの間が空いている。
ご覧の写真でもお分かりのように鋭い爪は前方に、つまり相手に対して突き出さず、逆に両羽で相手を叩こうとしている。
これなら相手には怪我をさせないし、見方によっては愛情確認の抱擁とも取れる。
睨みあいにしてもお互いの空間が開きすぎている。
本日は偶然にもオオタカ親子の喧嘩を目撃し、オオタカ親子の愛情まで読み取ることができた。
 
オオタカは分からないことばかりだ。が、五里霧中の中で一つ分かると、更にその先を知りたくなる。
オオタカが喧嘩をしているとき、距離、100mほどの電柱からノスリが見ていた。文字通り高みの見物である。
荒野の中のオオタカは面白くなってきた。
 06.12.10記


   
 左、オオタカ幼鳥第1回冬羽  右オオタカ成鳥


 

 
  レンズ300ミリシャッタースピード2000分の1秒
  写真サイズ 371×261ピクセル
  写真の転用はご容赦ください。


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