07.07.02  オオタカ子育て観察メモNo1     茨城県


 オオタカの観察はこれまで夏は休んできた。どうしても繁殖時期にぶつかり、オオタカに大きなストレスをかけるので、それだけは避けたかった。
だが繁殖時期の観察を避けていては、オオタカのことが全部は分からないことも自明の理であり、いつかはやらねばと思っていた。

幸いに2ヵ年に渡り、遠くからヒナの巣立ちを確認していたオオタカの巣が2個あった。それぞれ無事にヒナは2年続けて巣立ちしており、僕はこのどちらかを定点観測と撮影を兼ね固定ブラインドをつくることにした。確か昨年の11月だと思うが自宅から車で20分ほどの近い方のオオタカの巣を選んでブラインドを立てた。
その時はあまり深く考えずに自宅から近い方の利便性を考慮して選んだ。

計画から外したほうは、自宅から車で約50分かかり、きめ細かい観察をするには遠すぎると思った。だが今、考えればそこは枯れ松が大半の松林で視界が開け、撮影にも観察にも便利なところだった。

そこへは今年4月営巣を始めたかどうか確認に行っただけで後は営巣放棄を心配して全然行かなかった。(過去にも営巣中2回ぐらいのぞく程度で巣立ちの確認だけはしていた。)
そして6月中旬今年の巣立ちの確認に行ったが巣の中にはヒナはいなかった。巣立ちをしたのかそれとも失敗に終わったのか確認が取れなかった。2年間、巣立ちを確認してきたのに今年はその巣立ちを見ることが出きなかった。いずれにしても自分の怠慢であり弁解の余地はない。
もう一つの自宅から20分ほどのオオタカの繁殖は例年より遅く、ヒナの誕生が不安だった。ブラインドに入る時期を何時から開始してよいのか本当に迷った。
ヒナ誕生の時では親はエラエラしているし、もしかしたら営巣を放棄してしまう心配もあるし結局ヒナ誕生後1週間後と決めた。

関東も梅雨に入ったということだが、雨は降らず、逆に一気に真夏が押し寄せてきたような暑気に支配されるようになった。

このような時期になり、ブラインドに入ることは大変なことだった。午前4時前にブラインドに入るのだが既にオオタカの親は僕の動きを感知していた。暗い森の中に静かに入るのだが、どうしても落ち葉や草むらを踏んでいく時、小さな枯れ枝を踏んでしまう。その時のパシッと折れた音でオオタカは事の異常さに気が付き、ケッケッケッケッケッと啼き始める。僕は急いでテントの中にもぐる込む。このような観察から始めた。
以下時列的に2週間の観察を記した。

6月16日
 今朝は暗いうちからテントに入った。
  だがオオタカの親は僕がテントの中に入っているのを知っているのか巣の近くに寄ってこない。ヒナは親に言われているのか巣から頭を出さない。まして声等、出す筈がなかった。
 ブラインドテントに入り2時間経過。遠くでオオタカがピュウイピュウイと低い声で鳴いている。風が全く無い。暑い!全身から汗が噴出す。
身体が熱くほててくる。蒸し風呂の中に衣服を着たまま入っている状態だ。林の中は全然風が動いていない。
動いているものは目鼻の近くを五月蝿く飛んでいる蚊ばかりだ。虫除けスプレーをかけていない僕の耳付近を集中的に狙ってくる。シャッの中の腕が無性に痒い。無間地獄。
僕は地上20mほどのオオタカの巣を見上げた。
何本か交差している杉枝の中に半径1m前後の枯れ枝が沢山敷かれその上に緑色の杉葉が置かれているのが分かる。
その杉葉の脇の黒い影が少し動いた。ほんの少しである。急いで僕はセットしてあるレンズを、その黒い影に向けた。その黒い影は少しずつ光に当たり、白い蹴鞠のように見えてきた。オオタカのヒナである。ヒナの全体にレンズの中心をおき、ヒナの羽毛をつぶさに見た。ヒナは全体に産毛の白い綿毛で包まれているが幾分茶色の幼羽が混ざり、孵化後の日数は推定2週間ぐらいのようだ。
ヒナ誕生1週間と判断してブラインドに入ったのだが、1週間ほど違っていた。
これは全くオオタカに騙されていたのだろうか。いや騙されたというより、この1週間の天候が極端に、入梅前の涼しさが続きオオタカの親がヒナを暖めていたことがあげられる。それに僕もオオタカに対して慎重に行動していたので足を運ぶことが少なかった。1数間のずれは当然出てくるのではないか。
ヒナは羽を広げて伸びを繰り返した。
何処かで又オオタカの親がビュウイビュウイと啼いた。ヒナはゆっくりと姿を低くして黒い影だけが巣上に残った。
どうもオオタカの親にこのブラインドを不審に見られているようだ。その証拠にオオタカの親は近くに全然来ない。

 

 巣立ち2週間前のヒナ。親の言いつけを良く守り、なかなか姿を見せなかった。

 

No2

6月17日
本日も暑い。
ブラインドの中は地獄だ。
蚊の大群が窓から襲撃してくる。蚊取り線香は狭い空間なので止す事にしているが、それをよい事に遠慮しないで入ってくる。
このブラインドに入ると手足はおろか背中まで痒くなってくる。
先ほどオオタカオスがケッケッケッケッケッケッケッと鋭く鳴き、右手に消えた。
まるで僕がブラインドにいるこを承知しているようだった。
僕はそれでも緊褌一番、歴史書を読み親オオタカの飛来するのを待った。
だが2時間が限度だ。
暑くて読書など全く出来ない。
タオルが汗で湿っぽい。

 

 巣立ち12日前のヒナ 急に大きくなってきた。


6月23日
ブラインドテントに入ることはやめた。面壁九年の僧侶と自分は違う。
夏の気象を考慮しないで冬、ブラインドを立てたのが原因だ。暑さ悶絶、卒倒してしまう。
次に立てるときは自宅から遠くても松林の中にしよう。そこなら風通しが良いかも知れない。
だが今の観察は荒唐無稽のようだが、何としても続けていきたい。
テントはやめて5分間、巣の見えるところにする。
繁殖期に巣の前に立つことはオオタカに大変なストレスをかけることになるが5分間だけ、許して欲しい。
巣の見える北側のところを選ぶ。木立の下で上空からくるオオタカにはあまり見えないところだった。

だがオオタカは僕が林の中へ足を入れるとまずオスがけたたましくケッケッケッケッケッと啼き上空を飛びまわった。
それに呼応するようにメスが林の奥からビュウイビュウイと啼く。急いで
僕はレンズで巣の中を見た。ヒナ1羽、それにもう1羽の頭が見えた。
計2羽だ。
僕はそれを確認すると急いで林の外に出ようとした。
突然、オオタカのオスが僕の頭上1mほどを超低空で飛来してきた。正しく威嚇のスクランブル発進だ。
そのスピード、そして突進力、確かに僕を攻撃する意志をそのオオタカから感じた。
この時始めてオオタカに対して恐怖心が生じた。
そしてオオタカの悲壮な体当たりに近い飛行に僕は今の観察が正しいのか疑問に思った。カメラマンの理不尽な我侭な行動の何者でもない。

だが今年は、ほんの5分間の観察を許してもらう他、手立てがない。

 
 巣立ち1週間前 親に良く似てきた。

No3

6月24日
林の中に入っても、静寂が漂っている。ただ聞こえるのは遠くで鳴くヒヨドリのみ。
オオタカの親はどうしたのだろう。何処にもいない。僕の林への出入りを認めてくれたのだろうか?
それとも諦めたのだろうか?
巣を放棄してしまったのだろうか?
いや、そんなことはない。
オオタカのオスが遠くでケッケッケッケッと啼きメスが低い声でビュウイビュウイと鳴いた。
彼らはただ大きい声で啼き騒ぐのは無意味であることを知っているだけだ。 当意即妙な賢い対応に驚く。
今、僕の視界の届かないところから、僕をじっくり監視しているに違いない。
オオタカの巣をレンズでのぞく。
ヒナ2羽を辛うじて見ることができた。ヒナは親の言うことを守っているのか少しも動かない。フリーズしているようだ。
ハヤブサとは全く違う。
ハヤブサのヒナはお腹が空いていなくても何時もピーピー啼いている。親もそうだ。繁殖期を通して何時も大きな声を出している。
ハヤブサのメスなど飛ぶたびに鳴いている。ハヤブサは天衣無縫な陽気なところがある。

だがオオタカは違う。
行動も沈黙を保っている。ヒナも親の命令で、啼かなくなる。2羽のヒナは黒い影となり微動だにしない。だがその二つの影に、はさまれた真ん中あたりの影がわずかに動いたのを僕は見逃さなかった。
もう1羽の影だ。
ヒナは合計3羽。僕は確信した。
どうして彼らは情報を提供してくれないのだろうか。このように重大な情報さえ、なかなか僕にくれない。奇奇怪怪な動き。
まるで親子で隠微に暮らしているさまは忍者のようだ。
しかし今日は3羽のヒナが誕生していたことを知ったことは嬉しい。僕は更にそのわずかに動いた黒い影をレンズで舐めるように見た。だが動いた影は少しも変わらず、先ほどの動きは錯覚であったかのような不安を僕に与えた。
ケッケッケッケッケッ 、オオタカのオスが近くで啼いた。僕はそれを合図に林から出た。今度はオオタカのオスは襲って来なかった。だが近くにいることは確かだ。頭上の葉陰に隠れて僕の動きを監視している。林全体の空気が緊張している。
6月25日

仕事に行く前にオオタカの巣を見に行った。
急いで林に入り双眼鏡でのぞくとヒナが2羽、巣上に立っていた。だいぶ成鳥してきた。殆ど茶色の幼羽に変わり産毛は殆どない。不思議そうにこちらを見ていた。残りの1羽は見つからない。巣上の影は平坦で他に認められなかった。もしかしたら、2羽なのかと心配になってきた。
親の姿を双眼鏡で探したが見つからなかった。
もう一度ヒナの方に視線を向けると2羽のヒナは見えなくなっていた。杉枝の巣の影に回ったのだろう。親に姿を見せるなと強く命令されているのかもしれない。
時間があったので林の周りを歩いてみた。大木の切り株の脇に黒い初列羽の固まりの食痕があった。カラスの屍骸かもしれない。
このあたりはカラスが多くオオタカの餌になっているのだろうか。ドバトやキジバトの姿を見たことがない。
だが地面をみて歩くといろいろな食痕を見つけることが出来た。殆どが黒い羽の塊だが時々小型の鳥の羽毛の固まりもあった。
ここは見通しがきく雑木林でオオタカの調理場になっているのかもしれない。


No4
6月28日


早朝、オオタカの巣を見に行った。
巣の上2〜3mほどの高さの横枝に2羽のヒナがとまっていた。巣立ちである。3年続けて巣立ちを見ることが出来た。感動的だった。巣上で見ていたときより大きく、立派に見えた。やはりこちらが気になるのか2羽ともこちら向きだ。だが1羽は杉枝に邪魔されて全身が良く見えず、写真にならない。何とか辛抱して1枚、2羽のそろい踏みの写真が撮れた。巣立ちになればこちらも晴れて堂々と写真を撮ることが出来る。
もう1羽は見えない。やはり2羽だったのかと思う。

 

 巣立ちヒナが樹上にとまっていた。(巣上2mほどの高さ)


6月29日
早朝、オオタカの巣をのぞきに行った。
車から降りるとき、オオタカの巣の方向で大きな鳴声がするので再び車の中に入った。車の窓を全部開け、車の中でその鳴声を確かめた。
オオタカのヒナの鳴声だった。始めて騒がしく啼く、オオタカのヒナの鳴声を耳にした。こんなに大きな声で啼いたことは一度もなかった。
僕は急いでオオタカの巣まで足を運んだ。巣上の斜めの杉枝や横枝に3羽のヒナがとまり、自分の存在をアッピールしていた。やはりヒナは3羽だった。
これまで冷汗三斗の観察を続けてきたが確かに3羽のヒナの確認が出来たことは嬉しかった。

僕が巣の近くまで行くと鳴声はぴたりと止まった。だが少し遠ざかると又ビュアビュアビャアと啼き始めた。巣の周りの小枝を時々枝渡りしたり、飛んだりしていた。親が巣の上に餌を運んでくるのを待っているようだ。
少し飛ぶことが出来、オオタカの親も安心したのか、ヒナの啼くことを大目に見ているのかも知れない。
僕が双眼鏡でのぞくと、その中の1羽が杉枝の上から上空に出て遠くへ飛んで行った。その飛翔力には驚いた。やはりオオタカの子だと思った。
そろそろこのオオタカの巣とのお別れかもしれない。

 

 3羽1枚の写真に収めることが出来た。落ち着きがなく直ぐ枝渡りを始める。勿論こちらを警戒して動く。

6月30日
オオタカともお別れかと思うと感傷的になった。
しかしまだ巣の近くにいる筈と思って本日は出かけた。巣の近くの道路に車をとめて、オオタカ親子の会話に耳を傾けた
だがヒナ同士がビユアービュアービュアー。と啼き叫ぶだけだった。
巣の見えるポジシヨンまでいって見上げると巣の中に1羽、右手に1羽、そして左手に1羽離れた杉枝にとまっていた。
しきりに啼いているのは左右の巣から離れたヒナ2羽で、巣の中にいるヒナは一度も啼かなかった。巣外にいるヒナは自分の存在が不安で、自分の居場所を常に親にアッピールしているのかも知れない。
左手にいたヒナは僕を見ると、更に左手の奥に飛んだ。飛ぶとき杉の小枝に羽が触れたのだろうかポキポキと音がした。うまく飛行が出来ないのかそれとも前方不注意で小枝に触れたのは分からない。いずれにしてもオオタカの飛び方にしては粗暴な飛び方だ。
僕が静かにしていると、くだんの2羽はやがて巣上に戻ってきた。巣に着地する時はファーとおりるのではなく、どんと落ちるようで、まだ着地の未熟さが見られた。
僕がまだいることを知った1羽は再び右手の方に向かって大きく羽ばたき飛び去った。この飛翔は立派なもので親と同じような飛び方をした。
もう1羽はいきなり巣上の梢まで飛び上がった。そこは杉枝と黒い葉で覆われて姿は見えないところだった。

巣の中の1羽は一番下の子かも知れない。殆ど目線は僕の方にあった。
再び巣外の2羽が啼き始めた。

7月1日
仕事に行く途中、寄ってみた。まだ3羽、巣の近くにいた。巣の一番近くにいるヒナは沈黙を守っているがその他の2羽は力強く啼いていた。
本日は僕が行っても3羽とも逃げようとはしなかった。だがレンズを出すと姿が見いなくなるような杉葉の影に枝渡りをして隠れようとした。

それでも見える角度を見つけて撮影をした。
すると、その中の1羽は天空に向かって飛翔し、杉の梢を越え、あっという間に消え去った。
しかし遠くへ行ったわけでない。
その証拠に直ぐに飛び去った方向からビュアービュアーと啼く声が林内に伝わってきた。それからヒナ同士が啼き始めた。良く耳を澄まして聞いていると一段低い声の持ち主が加わっていた。もしかしたら親かも知れない。
しばらくその鳴声を確かめていた。
すると再び先ほどのヒナが近くに飛来してきて杉の葉陰にとまった。
巣立ちした後もしばらくは巣を中心に生活をしているようだ。 
  
 しきりにヒナが啼く。これまで静寂を保っていた森が嘘のようだ。          狩りの名手になる日はいつだろうか撮影07.07.01撮影地 茨城県
                                                   
 

追加
実は2日前から営巣前の道路にはみ出している雑技の剪定作業が始まった。
その作業の責任者の方と話をする機会があった。
冬にはこの森の道路側の杉林を道路に沿って約100mほど南に300mほど伐採する予定とのこと。
オオタカの巣まで20−30mまでの距離である。殆ど森が切り開かれオオタカの棲む森が更に小さくなってしまうことが分かった。
市内でオオタカのヒナが3羽も生またことは市民としても豊かな郷土を誇りに思う。だが来年、このオオタカの繁殖を再び見ることは多分難しい。

それを分かっていて、今何も出来ない自分が情けないと思う。
7月3日
早朝、オオタカの森へ寄った。
車の中でヒナの鳴声を確かめた。
ビュアービュアーと鳴く声がしたが遠くに感じた。巣の前まで行ったがヒナは1羽もいなかった。遠くで又ビュアービュアーとヒナが啼き
オオタカの親がケッケッケッケッと呼応した。カラスの鳴声が混じった。巣立ちはしたが、しばらく子育ての苦労は続く。
だがヒナの自立は眼の前だ。
オオタカの親に対して、ご苦労さんと言ってあげたい。 









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