シリウス・サイクルと白色矮星
太陽系から8.7光年のところに位置するシリウスは、夜空に見えるどの星よりも2倍近く明るい。
太陽を除けば全天で一番明るい非常に目立った星である。
古くから注目され十分観測されてきた星であり、古代のバビロニアではカク・シ・ディと呼ばれ、弓と矢をなす星座の一部つまり矢の先端ととらえられていた。
古代人にとってシリウスは重要な天体であったことから、各地で信仰の対象にされている。
特に、エジプト人はシリウスには格別の関心を抱いていた。
シリウスは毎年ナイル川の氾濫の直前に、その年ではじめてヘリアカル・ライジング(日の出直前に東の地平線上にある特定の星が上昇すること)する星であったことから、エジプト農業の循環の基準となっていた。
一年の長さがナイル川の水量変化の循環期と一致していた。
シリウスのヘリアカル・ライジングが起きる夏至の太陽が昇る6月末から約4カ月が「氾濫季」、次が農耕に適した「地の回復季」、最後が「乾季」と1年間を4カ月毎に分ける3季節が用いられた。
シリウスが日の出直前に再び地平線から上昇するのは1461年後である。
1年を365日とすると、実際の端数1/4日のずれがあるので1460年たつと再びシリウスが日の出直前に東の空に昇ってくるようになる。
古代エジプト人はこれをシリウス・サイクルと呼んでいた。
シリウスの運動を調べることで、伴星があるに違いないことがはっきりしたのは1844年、望遠鏡でこの伴星が実際に観測できたのは1862年である。
シリウスは連星系であり、目に見える星が実際上目に見えない伴星を伴っている。
連星運動の詳細な観測から伴星(シリウスB)の質量は、太陽とほとんど同じだが、その明るさは1/400と相当暗い星であることがわかった。
1915年にシリウスB のスペクトルがF型、すなわち表面温度が8,000度Kであることが発見されて大問題となった。
黒体幅射理論から、表面の単位面積あたり放射されるエネルギーは温度の4乗に比例することがわかっている。
シリウスB の明るさが、太陽(表面温度6,000度K)の1/400しかないのに表面温度が8,000度Kもあることは、その表面積が太陽の1/1200、半径は1/35であること示している。
このことはシリウスB の密度が一立方センチメートルあたり5 x 10の4乗グラムという大変な高密度を示していることになる。
直径が地球ぐらいで質量が太陽と同じくらいになるから、密度は水の13万倍、鉄の16,000倍という超高密度である。想像を絶することであるが、当然こんな物質は地球には存在しない。
このように、かなりな高温でありながら暗く、半径が非常に小さく、密度が異常に高い星を白色矮星と呼んでいる。銀河系の2%くらいの星はこの種類であると考えられている。
シリウスは2つの星が1つのセットになっており、現に見える明るい星は光度がマイナス1.5等級のシリウスA である。
伴星シリウスB の光度は10等級でシリウスA の1/10,000分の一の明るさしかないため望遠鏡を使わないと見ることができない。
シリウスの謎
英国の天文学者ロバート・テンプルが「シリウスの謎」という書籍で、シリウスに関する学問的研究を発表している。
この研究は、フランスの二人の人類学者マルセル・グリョールとジェルメン・ディータランが、1930年代からアフリカのマリ共和国でドゴン族という黒人部族の中で20年以上生活を共にして、まとめた共同研究「スーダンのシリウス信仰体系」と題する学術論文が重要な参考文献となっている。
テンプルの「シリウスの謎」では、ドゴン族の伝承とそれに関する工芸品が、現代天文学上の最新知識と非常に良く一致しているという不思議な事実を示している。
ドゴン族の伝承では、「ポ・トロ(シリウスB )」は色が白く万物の始まるところにある。
宇宙で一番小さく、一番重い星で、鉄よりも少し明るいサガラという金属でできている。
あまり重いので地上の生きものが全員力を合わせても持ち上がらないし、地上の鉄を全部合わせた以上の重さがある・・・」
ドゴン族の崇拝の対象は、全天で太陽の次に明るいシリウスAでなく、肉眼で見ることができないシリウスB であり、しかもこの星の特徴をきわめて正確に知っている。