第20回日本環境会議松江大会宣言

 

■第20回日本環境会議松江大会宣言■

1.  われわれは、第20回日本環境会議松江大会を、「21世紀の環境再生のために」をテーマに、宍道湖畔の「水の都」松江において開催した。大会は、3月29日のアジア国際環境会議を皮切りに30‐31日の日程で開催され、海外からの招待者10人を含む約700人が参加し、全体会と4つの分科会において熱心な報告と討論が行われた。
 日本環境会議は、1979年6月、後退しつつあった当時の環境政策を憂いた研究者、弁護士、医師、ジャーナリスト等の専門家が、公害被害者や環境保全のために闘っている地域住民たちと協力して、環境政策を前進させるために設立された。以来20年余にわたり、日本環境会議は一貫して、現場からの問題提起を大切にしつつ理論構築に努め、現在世代のみならず将来世代の環境権の確立をめざす基本的立場から、重要な局面でその都度、必要な政策提言を行ってきた。

2.  第20回大会の開催地・松江市とその周辺地域は、ねばり強い住民運動が、自然的環境と歴史的環境・文化財の保全と保存に重要な成果をおさめてきた地域である。当地では、今、人間と自然の望ましい関係づくりに向けた「環境再生」が、実践的な課題として提起されるに至っている。大会参加者は、この地域で始まっている新しい変化を、現地見学ツアーと分科会を通して確認した。
 自然的環境の保全という点では、水質汚濁が危惧された中海・宍道湖淡水化事業が1988年に凍結された。この事業凍結は、大規模国家プロジェクトが環境問題を理由に、しかも住民運動によってストップをかけられた国内最初のケースであった。これを契機に、「いったん始まった公共事業は止まらない」といわれてきた公共事業“神話”が崩れはじめ、今や公共事業の見直しは全国的な流れとなった。そして2000年、政府与党による「公共事業抜本見直し」の象徴として、中海干拓事業本庄工区が中止された。中海・宍道湖は、今、「活発な漁業が営まれ、市民が泳ぐことのできる湖」を取り戻すために、「環境再生」に向けた新たな一歩を踏み出そうとしている。
 また、大規模開発の歴史は、自然的環境と同時に歴史的環境・文化財をも破壊する歴史であったが、そのような破壊の歴史を転換する住民の新しい取り組みが、山陰地域において成果を挙げはじめている。鳥取県の妻木晩田遺跡や島根県の田和山遺跡等では、住民が主体となった文化財保存運動が、「里山の原風景を残し」、また「遺跡を市民の財産としてまちづくりに活かす」目標を掲げて取り組み、この方向を着実に前進させている。田和山遺跡では、今、自治体の遺跡復元計画の策定に住民が積極的に参画するまでになっている。そこでの住民の希望は、遺跡の近くに残る森や涌き水、植物・動物の保護に意を配り、遺跡とセットの自然・歴史学習の森・憩いの場、自然・歴史と共生する場づくりである。ここには、20世紀の文化財保存運動の到達点と21世紀の運動への展望が示されている。

3.  他方、日本の各地を見ると,20世紀に深刻化してきた公害と環境破壊は、依然として終わっていない。公害被害者の救済はなお不充分なままである。原発も根本的な対策がないまま増設されている。川辺川ダムに見るように環境破壊型公共事業も依然として強行されようとしている。ダイオキシンや環境ホルモンなどの新しい環境汚染や土壌・地下水汚染が広がっている。大量生産、大量消費、大量廃棄の20世紀型モデルが続くかぎり、公害と環境破壊は、解決されないであろう。
 環境破壊は、地域レベルにおいてもアジア的広がりにおいても、ますます深刻な段階に踏み込みつつある。「アジア国際環境会議」における各国・地域からの報告は、このことをより一層明らかにした。アジアは、人口の規模や経済活動の動向から見て、地球環境全体の現在と将来を左右する重要な位置にある。われわれは、大会を通して、日本国内のみならずアジア的広がりにおいて、公害被害者の救済と、公害・環境破壊の防止のための活動を一段と強化することの重要性を改めて確認した。
 それとともに、環境破壊の20世紀からの教訓を生かし、「環境的に維持可能な社会」(サステイナブル・ソサイティ)へと転換させることが、21世紀の課題となる。「環境的に維持可能な発展」(サステイナブル・ディベロップメント)の考え方は、今や社会的に認知されるところとなったが、さらに重要なことは、これに至る道筋と目標を理論的にも政策的にも明らかにすることである。そこに欠かせないのが、戦略的な基本課題としての「環境再生」である。

4.  日本環境会議が「環境再生」の理念を初めて提起したのは、「第19回日本環境会議川崎大会」においてであった。この大会で採択された「日本環境会議20周年宣言―環境破壊から環境再生の世紀をめざして―」は、次のように述べている。

「地域の環境再生は、公害被害者の完全救済という意味でも、安全で美しく住みよい地域の確立という環境権の側面からも、重要な環境政策の目標である。」

 本大会は、「環境再生」の具体的実践について、水島工業地域や西淀川地域などの事例のほか、中国において始まっている「生態建設」の報告を受けた。「環境再生」は、日本及びアジアにおいて、今後、最も重要な基本課題となるであろう。「環境再生」の理念と政策内容は、今後の実践によって豊かにされることであろうが、本大会において、次の基本点を確認しておくことは重要である。

(1) 環境の保全と社会の維持可能な発展を社会発展の理念とし、自然と人間との共生関係の回復及びその実現を目標とする。
(2) 地方分権と住民自治を推進し、情報公開を進める。住民の総意によって、環境保全を枠組みとした環境・生活・産業・土地利用・社会資本計画を内容とした地域総合計画を立てる。その実施のために、住民及び事業者の自発的な環境対策と環境再生事業への参加を促しつつ、法的な規制と税財政及び資金による誘導を行う。産業政策の基本を内発的発展におく。
(3) 地域づくりの基本単位を市町村レベルにおき、行政とNGO・NPOの協働によって推進する。環境教育・学習により、住民及び事業者の自発的な参加を促す。行政においては、都道府県が必要な補完事務を行い、国が技術的及び資金的支援を行う。

5.  アジアの各国・地域における環境保全の取り組みを足元から前進させ、それを基礎として、環境の再生と保全のための各国・地域間の相互協力のシステムづくりを急ぐべきである。そのような環境協力には、政府レベルのみならず、環境NGOやこれと連携する研究者・専門家レベルの相互協力と連帯が欠かせない。
 日本環境会議は、そのために、本年11月初旬に台湾で開催予定の「第6回アジア太平洋NGO環境会議」(APNEC6)を成功させ、アジア環境会議のネットワークをさらに密にし、『アジア環境白書』の刊行を続け、さらにはAPECなどの国際機関に対して政策提言できる「アジア環境協力機構」(仮称、Asian Environmental Cooperation Organization)のような新しい国際組織の提案を検討していくことを確認する。

2002年3月31日
                    第20回日本環境会議 松江大会

 

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