Beloved 和尚
畳の広間に僕は座っています
もう2週間というもの、ずっとそこにいて
年上の、色んな年齢、職業の男女が自分を語るのを聴いてきました
中に、ひとりのじいさんが座っていて、半さんと呼ばれてました
ほとんど何もしゃべらずに、静かに人の話を聴いてるのか、
それとも、座ったまま寝てたのかも知れません
たまに、彼の声が聞こえると、「 いっひっひっひ・・・・ 」
と気味の悪い声で笑っています
半さんはいつも、お百姓が着るつぎの当たった野良着を着ています
そこには大学教授や、公務員や、主婦や、学生がいましたが
みんな、半さんよりは立派なお金のかかった服装ですし
語る事もその服のように飾り立てた嘘ばかりです
僕もさんざん得意になって、本で読んだ
事とか人から聞いた嘘ばっかりしゃべっています
でもさすがに2週間もしゃべると嘘のネタも切れてきます
だんだんしゃべる人は少なくなって沈黙がひろがってきます
そのとき半さんが珍しく静かな声で言いました
「 貴方は私、わたしはあなた、私は無い 」
そして、「 いっひっひっひ・・・・」
僕は恐怖に呑み込まれました
自分を守っているものが全て消えて無くなってしまって
裸で切り立った崖っぷちに立って
真っ暗闇を覗き込みました
それ以来、どこで暮らそうと何をしようと
その言葉は僕につきまといます
思い出すたびに痛みと苦悩の中にほうり込まれます
あなたに出会って
この痛みは僕の抵抗がつくりだしてると知りました
この苦悩は妊婦の産みの苦しみだということを
初めて僕は、恐怖と痛みと苦しみを受け入れて
みごもりました