(アオリイカーその4)

そんなわけで、阿波のチヌ釣り見せつけられた後で、豪州のチヌ釣りなどおこがましゅうて、、、、、おお、そうじゃった、まだ本題に入っておりませんな。
今回はイカ釣りについて書こうと思っています。
「イカ釣りとは濡れ雑巾を引き上げてくるようなものである」という月並みな文句が出そうじゃが、それはイカの王様、アオリイカを本格的にやったことがない人の妄想、暴言じゃ。老人の言うことには、一理も二理もあるものじゃ。まあ、しばらく黙って、読まっしゃい。
乗合船で、集魚灯をつけてプラスチック製のイカ角を連結や枝バリにして深みからしゃくりあげてくる。これが日本で最も一般的に知られているイカ釣りだろうと思います。対象はヤリイカ、スルメイカ、ケンサキイカなどです。
アオリイカはイカヅノのかわりに餌木(エギ)と呼ばれる一種のルアーを使って釣ります。
生きたアジを泳がせてそれに抱きついたアオリイカにカケバリを落として釣るやり方もありますが、漁獲本位の感じで私の好みではありません。
パースのアオリイカ釣りは、簡単に言えば、底の見える浅場で、昼間、といっても早朝が一番よろしいが、小船を流しながら釣ります。
ルアー竿をずらりと並べて、ルアーボックスにはいろんな種類のエギをぎっしりつめましてな。
琵琶湖のブラックバスををルアーで攻める。あの感じです。あるいはスズキのルアー釣り。つまり「動」の釣りです。
ここに至って、物識りの小、中学生あたりが、
「この爺さん、オーストラリアぼけしとるんとちゃうか。イカはジャンプしたり、テールウオークしたりしいへんがな」、と言うかもしれんの。
よろしい。ごもっとも。イカは水面でとんだり、はねたりするのは苦手じゃ。しかし、諸君、考えてもみたまえ。イカにエラ洗いしろ、というのはどだい無理な注文じゃぞ。それはあたかも、ブラックバスにとってスミを吐くのが至難のわざであるのと同様じゃ。もっとも日本のタコは、手ぬぐいを投げてやるとねじりはちまきでタコ踊りとかいうのをはじめるそうじゃが。
また、横道にそれたて。わたしゃ、大学へ出講しましても、いつもこんな調子じゃからいつまでたっても出世でけん。
そこで、エギじゃがな、エビだとか小魚の形に似せてある。ビーズ玉の目がつき、その後ろには鳥の羽でヒゲがつけてある。このヒゲは水中で微妙に揺れ動き、エビの触覚、脚、あるいは魚のヒレのようにゆらゆらする。
腹の部分には鉛にキールがついている。
このキールの位置と重さにより、真っ直ぐ底に沈むシャクリ型、ゆっくり斜めに沈んでいくシャクリ型、上層近くをゆらゆら泳ぐ曳き型の三つに大別される。
表面仕上げは「塗り」と「布巻き」の二種。
エギの形は、鹿児島型、大分型、五島型、天草型、福岡型、四国型、対馬型、沖縄型、、、、多種、多様じゃ。
オーストラリアでは大分型にもっとも人気がある。
メーカーは言わずと知れた佐賀の[Y漁具」。ゴールデンベイトでおなじみの「YS漁具」もいいのを出しておるが、いかんせん、こちらは種類が少ない。
世界にルアー多しといえども、エギほどのものはない。九州を中心として、南は沖縄から北は静岡、内房
あたりまで、各地の漁師が何百年にもわたり改良に改良を重ね、磨きに磨きをかけてきたルアー中のルアー。ルアーの最高傑作じゃ。

今から十二、三年前、やつがれ、このエギに魅入られましてな、輸入釣り具の一品目として売り込んでみることにしました。ところが、当初は売れませんでしたな。なにしろ、従来のイカヅノが百円とすれば、イカエギの方は千五百円ほどの値段ですから、小売店もさすがにしり込みする。
しばらくすると、イタリア、ギリシャ、ユーゴースラビアなどからの移民がエギの絶大な威力を認めだした。イカは彼らの大好物ですから、釣れるとなれば、価格は二の次です。小売店も在庫を置くようになってきた。
「良いものは売れる」の鉄則どおり、西オーストラリアのイカ釣りは一変しました。
東の方でも、二、三の輸入卸し業者が頑張っていました。
釣り雑誌などでも、「Y漁具」の名前がひんぱんに紹介されるようになった。
時ぞ至れり!エギを売って、売って、売りまくるのだ。
雑誌なぞに、海外での日本人青年の成功物語が時折出ていますね。ニューヨークでユダヤ人から宝石業を習い、ダイヤを売りまくって巨万の富を築いた青年。鉄板焼きレストランのチェーンを全米に広めた青木氏。ちょっと格は落ちますが、トンガ王国かどこかで金持ちの娘に言い寄り、結婚して、甲子園球場ほどもある敷地に家を建てたという若者。そういった成功物語が頭をかすめる。
よし、吾が輩もエギを何十万、何百万個と売るんじゃ。甲子園球場の十倍もある敷地に、トイレが十もある豪邸を建てるんじゃ。
夢は膨らんでいきました。
ところがですぞ、「Y漁具」さんはちゃっかりと豪州一の釣り具会社、エギのエの字もご存知ない会社と特約を結んでしまわれた。イカエギもその業者にだけは二割り以上も安い値段で出しておられる。
ある日、突然、馬鹿安値段のエギがどっと出回りました。これでは、あなた、いくら逆立ちしようが、とんぼ返りしようが、我々、売れる道理がありません。三年、四年と頑張ってエギを広めた努力は泡のごとくに消え去りました。
弱肉強食、これすなわち、世の習い。小生ごとき素人がやることは全く生彩にかけますなあ。

そんなわけで、我が家にはいまもって便所は一つしかないわい。
先日もな、小用をもよおしトイレに入ろうとしたら、息子が漫画全集などを持ち込み占領しておる。しようがないから裏庭に出ました。
ふり仰げばぬけるように青いパース晴れ。木陰からは小鳥のさえずり、インド洋から渡りくるそよ風は朝顔の花をなで、南天の葉をそよがせゆく。異郷にあれど、風流を愛するわが心変らず。
そこでやりましたぞ、久々の立ち小便。
仰角、水平、右、左、「へ」の字に、「の」の字に、、、、、童心にかえり、一心不乱。
ところが、あなた、折悪しく隣家のおばさんとお嬢さんが塀ごしにこちらを見ておったらしくてのう。叫声と共に、腐ったトマトやジャガイモが飛んできましたわい。
それ以来、「グッ、モーニング!」、挨拶しましても、おばさんはそっぽを向いてござる。お嬢さんの方はなぜかしらんが顔を赤くしてうつむいておられるわい。
2002年03月01日 17時36分19秒


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