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(山鳩と焼き鳥ーその1) 一年ほど前のある朝だった。出勤しようとして玄関を出たとたん家の飼い猫が山鳩を襲って押えこんだのを目撃。大声で猫を叱りつけて追い払った。手傷を負った鳩は必死にもがいて私の車の下に逃げた。 手を入れてそっと鳩をつかみ出して傷を調べてみると、左の翼の付け根をひどく噛まれて出血している。 とりあえずマーキュロクロームを塗って、ウズラやセキセインコを飼っている鳥小屋にいれておいた。 二日ほどは鳥小屋の片隅にうずくまってほとんど身動きもしないので、あるいは助からないか、と思っていた。 ところが、やがて他の小鳥たちとも馴れ、左の翼をだらりとたらして小屋の中を歩き回るようになった。そして、さらに一週間もすると翼が付け根からほろりともげ落ちてしまった。 ある日の午後、庭に打ち水をしながらふと鳥小屋に目をやると、、、、、れれれ、またかあ、と私は心のうちで舌打ちをしたのであった。 以前飼っていたオスの兎が猫の弁慶(当然オスである)に熱い想いを寄せて追いかけまわし、えらく難儀をしたのを思いだしたのである。 それと同じようなことが眼前で起こっていたのである。この山鳩、何を思いけんや、メスのウズラを必死になって追いかけまわしているのである。あのオカマ兎(そんな言葉はないか?)のようにオスがオスを追っかけるのではないから、まあ、それだけはちょっと救われるのであるが、それにしても慎みがない。 このウズラ夫人、よほど志操堅固とみえ、いくら追いかけられてもウンと言わぬ。必死に逃げ回っている。 「おい、おまえ、何とかしてやれよ」 私はオスのウズラに心の裡で話しかけた。 この夫君、どうしようもない甲斐性なしで、ただおろおろ、そわそわしているだけで細君の危機に果敢に立ち向かおうとしない。そして、二、三日後、オスのウズラは精神的ストレスが極限に達したのかポックリ死んでしまった。 さあ、こうなるとメスのウズラは天下晴れての未亡人(人というのもおかしいか?)。山鳩は前にもまして必死の形相で追いかけ、思いを遂げようとしている。ウズラはただひたすらに逃げるのみ。そしてそれから二日後にこのメスのウズラもあえなく昇天してしまった。こちらの方はまちがいなく肉体的に疲労こんぱいしての過労死である。 残るは数羽のセキセインコであるが、これはさっと小屋の上方にある止まり木に飛び立ってしまうから、翼のない鳩にとってはいかんともしようがない。 裏庭には犬や猫が常時うろついているのでよほど安全とわからないかぎり鳩は来なかったが、この方翼の鳩が小屋に住むようになってからは毎日数羽の鳩が訪れるようになった。 小屋のまわりに飛び散った餌をひとしきりあさると、飛び去っていく。 ところがそのうちの一羽が終日、小屋のまわりでぐずぐずしている。どうもメスで、小屋の中にいるオスが気に入ったようなのである。金網をはさんで内と外でククッ、ククッ、とラブコールを交わしている。 いつまでもうろうろしていたら、やがては猫の餌食になりかねない。 私はこの鳩を生け捕りにして小屋の中に放してやろうと考えた。 猫に食べられるよりは狭いながらも小屋の中でオス鳩と暮らした方がいいのではないか、と考えたのである。 私は子供の頃、カゴを斜めにしてつっかい棒をし、餌につられてカゴに入った雀を捕まえて遊んだことがある。よし、これでいこう。 土曜日の昼下がり、大型のザルの片側につっかい棒をして、ナイロンの釣り糸を結び5メーターほど先の椅子に座って本を読みながら辛抱強く待つことにした。 息子がこれを見て言った。 「パパ、何をまた馬鹿げたことを始めたんですか」 「うるさい」 息子のガールフレンドもあまり好意的でない。 「おじさん、オーストラリアでは山鳩を飼うのは法律で禁止されているはずですよ」 「そんなアホな法律があってたまるか。貴重なオウムだとか、カナリヤ、十姉妹、ヒワなどが飼えて、どこにでもごろごろしている山鳩が飼えないなんて法があるか」 「規則は、規則、パパ、守った方がいいよ」 「だまれ、昔、日本にはな、大岡越前の守という人のできたお奉行さんがいてな、、、」 豪州生まれの息子に南、北町奉行だのと言ってもわかるわけがない。両腕を広げて、頭をを振り振り向こうへ行ってしまった。 翌、日曜日、目的は達成された。以後、山鳩のツガイはなかむつまじく鳥小屋で飼われている。 2002年03月07日 18時54分20秒 |