ライギョ釣り
・フナ釣り用棒ウキ

兄も私も前夜の灯ブリで疲れていても翌朝は目覚しなしで暗いうちに起きられた。フライパンに米ヌカを入れて煎る。香ばしい匂いが家中に漂う。それをバケツに入れて、足音を忍ばせて家を出る。
当時は家から数分歩けば行ける池がいくつもあった。目的の池に着くと、土手の泥を手に掬ってバケツにいれ、まだ暖かみが残っている煎り糠と混ぜ合わせる。ソフトボール大の団子を数個作って、あちらこちらとポイントとおぼしき個所に投げ入れる。竿を出すのはそれからである。
ハヤ釣りには唐辛子ウキを使ったが、フナ釣りにはもっと長い棒ウキを使った。餌は縞ミミズを使う時とイモネリを使う時があった。餌をつけて振込む頃に東の空が白々と明けてくる。
釣れるのはたいてい中型のマブナであたが、狙いは大型で体高のあるゲンゴロウブナ(ヘラブナ)であった。
陽が高くなると竿を納めて家に戻る。釣ったフナは白焼きにして生臭さを取り、水分を飛ばす。それから醤油でじっくり煮るのである。フナは泥臭いなどと言われるが、頭や骨が口の中でほろりと崩れるまで煮込んだ抱卵ブナの味は格別である。かつては、秋祭りのご馳走にはこのフナの煮付けが必ずついたものである。

早朝のフナ釣りを終えて昼になるのを待ち、ライギョ釣りに出かける。
何かしら原始的で野蛮な雰囲気の釣りである。
ヘラブナ釣りや海のチヌ(黒鯛)釣りの繊細さはみじんもない。道具立てからしてまことに大まかである。
竿は近くの薮で切ってきた長くて強い竹ののべ竿でよい。それに太い凧糸をつけ、大きな針を結べば出来上がりである。竿は何メーター、道糸何号、ハリス何号、針何号などと神経質になる必要はない。
長い竹竿、強い糸、大きい針。これだけが基準である。単純明解である。ウキもオモリもいらない。
あとは餌にするカエルの確保である。釣りに行く途中、小川や用水溝の土手を歩けば、トノサマ蛙が驚いて水中に飛び込む。これをタモで掬っては木綿袋に放り込んでいけばよい。サイズは小型か中型がいい。しかし、これも一応の基準で多少の大小はあまり気にすることはない。
ただし池に着いてからは神経を使わねばならない。声高に話したり、どすどす歩き回るなど論外である。抜き足差し足である。淡水釣りにはこの抜き足差し足がついてまわる。
昼になって水温が上がると、ライギョは水面に浮かびじっとしている。これを見つけるのである。
「おい、あそこにいるぞ。あの菱の横や」
(ヒシ、って知っていますか?栗のような味でおいしいよ)
と、私。
「よし、カエル」
と、兄。
私はすばやく布袋からカエルを一匹つかみ出して渡す。
兄は大きな針をカエルの肛門のあたりの皮に刺して、針先を抜く。
子供にとってちょっと大変なのは長くて重い竹竿を繰って餌のカエルをうまくライギョの近くへ持っていくことである。
水面に下ろされたカエルはバシャバシャともがく。小振りのカエルで泳ぐ元気のないやつは竿を軽く上下にあおってライギョの鼻先で躍らせる。ほぼ例外なくライギョはガバッと飛びついてくる。
カエルをくわえて一気にぐーんと底に向かって潜っていく。
一呼吸、二呼吸。そこで竿を立てる。ぐっと針がかりしたら、私も竿に飛びつき、二人でただもうやみくもに魚を寄せるだけである。うまくいなしながらやりとりするをする、などという悠長なことはしない。なにしろ仕掛けは頑丈一点張りである。バシャバシャ暴れる五、六十センチの大物をかまわず引き寄せ、よいしょっ,とゴボウ抜きにして後ろの田んぼの中にでーんと放り投げるのである。カツオの一本釣りの要領である。淡水釣りにしては豪快な釣りであり、その豪快さだけが取り柄の遊びである。
現今のルアーを使うライギョ釣りもおもしろいが、この原始的な釣り方もそれなりの味がある。

2002年04月16日 16時15分51秒

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