光学異性体

[目的]右旋性、左旋性の違いを簡単な実験で比較してみよう。

光学活性の実験は、旋光度を確認するのに適当な物質がなく説明が困難である。

教科書にある乳酸[α]D=3.8°、酒石酸[α]D=12°などは比旋光度も小さく、水溶液にして測定するから溶解度の限界もあり大きな旋光性は期待できない。

ただショ糖だけは[α]D=66.5°であり、測定角=濃度(g/ml)×液層の長さ(dm)×[α]Dの関係から、飽和に近い濃度で約50g/100ml、液層の長さ10p=1dmで実験すると約30°の測定角が得られる。ただ右旋性のみで同じ角度の左旋性のものは手に入らない。

そこでリモネン使って実験した。

リモネンは水に不溶だから無溶媒でリモネンそのものを試料とする。

濃度(g/ml)=d=0.84g/ml、 [α]D=120°だから、サンプル管に深さ1.5pの試料を入れると液層の長さ(dm)=0.15dmとなり、測定角=0.84×0.15×120=約15°となる。

次に右旋性、左旋性の構造を示す。不斉炭素は真ん中の一個のみである。  

 +(d)リモネン

[α]D=+120°、b.p.=176℃、d=0.84。オレンジ油、レモン油の成分。レモンの良い香りがする。1500円/25ml。芳香剤として利用されている。  

 −(l)リモネン

[α]D=−120°、b.p.=176℃、d=0.84。マツ属針葉油に存在。少し石油臭がする。3500円/5ml。

(+)リモネンと違い少し皮膚を刺激する作用があるので、注意を要する。

[実験方法]

@スライドビュアーを光源に用いて、その上に1枚目の偏光板を置く。角度の印を付ける。偏光板以外は光が漏れないように覆う。

Aサンプル管に試料を深さ1.5pになるように入れ、偏光板の上に置く。

B2枚目の偏光板をサンプル管の上に置く。

C上の偏光板を回転させて試料を通過した光と、試料を通過していない光の濃さを比較する。

次に装置図を示す。 

1枚目の偏光板をスライトビュアーの上に置いてある。スライトビュアー自体は写真に写っていない。

2枚目の偏光板を上に置く。

[実験結果]

(+)リモネンを試料として上から見た図である。

        図1                  図2                  図3

図1の矢印部分は下の偏光板 →試料→上の偏光板と通過した部分であり。青丸部分は下の偏光板→上の偏光板と通過した部分である。図1において上下の偏光板の偏光面は一致しているので明るい。図2は上の偏光板が右回りに45度回転したから青丸部分は少し暗くなっている。図3は90度回転したから青丸部分の光源の光は全て遮断されている。しかし試料を通過した光は偏光面を右回転されているから、まだ少し明るい。

         図4                 図5                  図6

90度を過ぎると青丸部分は明るくなっていくが、試料を通過した部分は図5で一番暗くなり図6から明るくなり始める。即ち図5における90度からの角度だけ試料が右回りに偏光面を回転させているのである。よって上記の計算どうり、約15度の右旋性となる。

次に(−)リモネンの結果である。上の偏光板を左向きに回転させていく図を示す。

        図7                  図8                  図9

  

        図10                図11                 図12

図11のときに試料部分は最も暗い。即ち約15度の左旋性である。

以上のように右旋性と左旋性がはっきり区別でき、構造式との対応もでき分かり易い。b.p.、密度などの物理的性質は同じだが、臭いという生理活性の違いはあるという光学異性体の特徴が分かり易く、実験材料としては最適である。

同じ方法でショ糖も容易に右旋性は分かる。

[リモネンの抽出実験]

(+)リモネンは柑橘類の果皮から抽出できる。

実験1

レモンの果皮230g(7個分、無乾燥)をミキサーで砕いて、直径数mm程度とする。1リットルフラスコに水を500ml入れ水蒸気蒸留を2時間する。その間、留液を分液ロートで受け、下層の水層部分を分離してフラスコに戻す操作を繰り返す。3.5mlの精油が取れる。旋光度を測ることで、市販されている試薬と同じ結果が得られ、(+)リモネンであることが確認できる。

水蒸気蒸留をしている。

水蒸気蒸留された液である。上層に水に不溶の精油が得られる。

実験2

グレープフルーツの果皮120g(2個分、無乾燥)で同様の実験をして、10mlの精油が得られるが、旋光性は確認できず、リモネンが得られていないことが分かる。

実験3

温州ミカンの果皮140g(6個分、無乾燥)で同様の実験をするが、精油はほとんど得られなかった。

実験4

有機溶媒で抽出する。ミキサーで砕いたレモンの果皮51g(無乾燥)を、自作ソックスレーの抽出器(化学実験操作法、緒方章著、南江堂、p330)に入れ240mlのn−ヘキサンで1時間抽出する。抽出液を蒸留してn−ヘキサンを分離すると、4.4mlの残液が得られるが、カロチン色素なども抽出されて着色している。旋光度を測定すると実験直後は1〜2度程度の右旋性がわずかにみとめられたが、25日後には分解したのか変化してみとめられなかった。実験1と比較して、レモンの量に対する抽質量は3.5/230=0.015ml/gと4.4/51=0.086ml/gとになり、溶媒抽出の方が多く取れる。これは溶媒抽出の方が、揮発しにくい油性の成分を多く抽出するからだろう。

自作ソックスレーで抽出している。溶媒のみが最上部のリービッヒ冷却管で環流し自動抽出される。

抽出液を蒸留してn−ヘキサンのみを除去する。

実験5

 ソックスレーのような自動抽出器ではなく、バッチ式で抽出を試みた。レモンの果皮50g(乾燥質量)をミキサーで破砕後、500mlの三角フラスコで200mlのn−ヘキサンと混ぜ、リービッヒ冷却管をつけて加熱煮沸。1時間還流させた。蒸留してn−ヘキサンを除去するが、ほとんど残液はなかった。実験4にくらべて、1回の抽出では精油成分は取れないことが分かった。

実験6

(−)リモネンを松葉から抽出することを試みた。黒松の針葉110g(無乾燥)をミキサーで破砕後、2時間水蒸気蒸留したがほとんど精油は得られなかった。 

まとめ

 (+) リモネンを得るには、レモンを水蒸気蒸留するのが良い。夏ミカンから抽出している文献(京大、農化実験書vol.3、産業図書、p1308〜1309)もあるが、実験はまだしていない。グレープフルーツは精油は多く取れ、柑橘臭はするが、少なくとも純水なリモネンて゜はない。温州ミカンは含量が少ない。

溶媒抽出はリモネン以外も抽出され、旋光度を測るには不向きである。

(−)リモネンは松葉に多くの含量では含まれていないようである。香料メーカーの話では、オレンジの精油には(+)が主成分であるか゜、(−)も産地の違いで含まれていることもあり、それをカラムで分離して試薬として製品化しているとのことであった。

謝辞

この実験をするにあたり京都大学人間・環境学研究科の山本行男教授に多くを教えていただきました。深く感謝申しあげます。