電力産業における外部性−パレート最適と死荷重−

The externalities about the electric power industry

- Pareto optimum and deadweight loss -

 

 

 

 

 

目次

1.はじめに

2.電力産業の外部性

 2−1.電力産業の外部性

 2−2.外部不経済の内部化政策

3.限界費用価格形成原理と外部性

 3−1.外部性が存在しない時の限界費用価格形成原理の下でのパレート最適

 3−2.外部性の存在によるパレート最適と独立採算

4.外部性と死荷重

 4−1.平均費用価格形成原理と死荷重

 4−2.限界費用価格形成原理と死荷重

5.終わりに

 

 

 

 

1.はじめに

 平成7年に電気事業法が改正され、電力業界も競争の時代を迎えた。かつて電力産業は規模の経済の特性を持ち、自然独占者として規制に守られながら電力を供給してきた。電力自由化によって参入してきても、その費用曲線は少なからず初めは逓減している。筆者は、電力自由化が市場の環境負荷を増大するのではないかという危惧を持った。電力発電の技術向上や採算性といった側面から自由化の方向に進んでいる。電力産業は環境負荷という外部不経済を発生している。例えば、火力発電なら二酸化炭素、原子力発電なら放射性廃棄物などが挙げられる。電力産業での外部不経済が市場にどのような影響を及ぼしているか、また費用逓減産業に外部不経済が存在している時、その外部不経済を内部化することで社会的厚生への効果を分析することを目的とする。費用曲線に外部不経済が内部化された時が本来のパレート最適となる。それがどこになるのかを見ていく。さらに費用逓減市場では価格の決定と死荷重が問題になってくる。平均費用価格形成原理と限界費用価格形成原理の2つの価格形成原理を用いた時、どちらも死荷重が存在する。価格形成の原理である平均費用と限界費用に外部性を内部化させることで、死荷重がどのように変化していくかを論じていく。

 

 

2.電力産業の外部性

 この章では、電力産業における環境負荷はどのような性質を持ち、外部不経済として市場にどのような影響を及ぼすかを論じる。また、この時の外部不経済を二酸化炭素に限定する。

 

 2−1.電力産業の外部性

 電力を生産する時、様々な環境負荷を排出する。1章でも論じたように火力発電では二酸化炭素を、原子力発電では放射性廃棄物を排出する。この時、市場では社会的に最適な供給は実現されていない。なぜなら、二酸化炭素はさほど処理されずに大気中に排出されている。放射性廃棄物は電力供給者が適正処理・保存をしているのではなく、別の事業者に委託している。その事業者も政府による補助金を受けている。二酸化炭素排出に価格が設けられ[1]、また放射性廃棄物の適正処理・保存を自己責任の下で行うことになれば、それらの費用を電力価格に内部化しなければならなくなる。

 外部不経済は電力価格だけに影響を及ぼすものではない。これらの外部不経済は市場にマイナスの便益を与えている。二酸化炭素は地球規模で深刻化している地球温暖化の原因になっている。放射性廃棄物は原子力発電や処理施設などで作業している人を被爆させたり、放射能汚染することでその地域は超長期に渡って使用できなくなったりする。これらの被害から受けるマイナスの便益はまさに外部不経済である。よって市場全体の便益はこれらの外部不経済分だけ小さいはずである。

 ここでは限界費用価格形成原理が実現されているとする。生産過程で投入される原材料や労働などの費用を私的費用とすると、図2−1の私的限界費用曲線PMCが私的費用を表した曲線になる。電力産業での外部不経済は電力を生産することで発生し、さらに私的限界費用には内部化されていない。そこで外部不経済にかかる費用を外部費用とし、それを私的限界費用に加わることで社会的限界費用が求められる。図2−1の社会的限界費用曲線SMCがそうである。

 生産にかかる外部費用は電力生産に伴って増加することがある。放射性廃棄物を例に取ってみる。放射性廃棄物の適正処理・保存には超長期間かかり、その適正処理された放射性廃棄物よりも新たに電力供給から排出される放射性廃棄物の方が多い。つまり、放射性廃棄物は累積して増加していくと考えてよい。この場合、外部不経済を内部化することによる社会的限界費用曲線の傾きは私的限界費用曲線に比べてよりゆるやかになる[2]。また、二酸化炭素のように電力供給量の増加率と外部費用の増加率が等しい場合、図2−1のように私的限界費用曲線と社会的限界費用曲線は平行している[3]

図2−1 私的限界費用と社会的平均費用

外部性が存在しない時、私的限界費用曲線と需要曲線Dとの交点から得られるパレート最適Epに設定されてしまう。これでは安い価格で過剰供給されてしまう。外部性の存在を認め、内部化が達成されることで社会的限界費用曲線と需要曲線との交点から得られるEsが本来のパレート最適となる。

命題1.電力産業に外部不経済が存在する場合、(私的)限界費用価格形成原理による価格設定はパレート最適性をもたらさない。

 

 2−2.外部不経済の内部化政策

 外部不経済を内部化させる政策には様々な方法[4]がある。ここでは排出権取引と直接規制について議論を設ける。ここで前提となるのは、二酸化炭素排出に対して費用がかかるということである。ではそれぞれについて見ていく。

排出権取引とは、それぞれの市場や産業に二酸化炭素の排出枠を設け、その排出枠の中の許容範囲で排出が可能となる。排出枠を越えた場合、排出枠に余裕のある市場から排出枠を購入するというものである。超えた分の枠の購入が外部費用に当たる。排出枠に価格が付けられていることになり、二酸化炭素に価格が付いているということになる。

直接規制とは、政府によって二酸化炭素の排出に規制をかけるものである。直接規制には排出の上限が定められているので、排出権取引の時の排出枠に相当する。直接規制の下で二酸化炭素排出を抑制させようとすれば、当然費用がかかる。これは外部費用である。

 これらの政策では互いに二酸化炭素排出に費用がかかり、二酸化炭素排出を抑制するためには設備投資費用がかかる。二酸化炭素を内部化させるには外部費用が必要となる。よって、私的費用に外部費用を内部化することで社会的費用が求められることになる。

以上、排出権取引も直接規制もそれぞれ二酸化炭素排出には費用がかかることがわかった。それではこの2つの政策の違いは何か。直接規制は政府が行うので、排出者の情報が完全であることが条件となる。しかし、排出権取引は、市場や産業に分権的に排出枠が与えられているため、完全な情報を必要としない。ここで排出権取引と直接規制の議論はテーマから外れるので割愛する[5]

 

 

3.限界費用価格形成原理と外部性

 ここでは、電力産業において限界費用価格形成原理の下で外部性が存在する時と存在しない時のパレート最適について見ていく。

 

 3−1.外部性が存在しない時の限界費用価格形成原理の下でのパレート最適

 外部性が存在しない場合、電力産業が規模の経済性を持ち、費用曲線が逓減している。この時、価格形成原理によって2つの価格決定が考えられる。平均費用価格原理と限界費用価格原理である。平均費用価格原理では、平均費用曲線と需要曲線との交点で価格・供給量が決定される。限界費用価格原理では、限界費用曲線と需要曲線との交点で価格・供給量が決定される。前者の場合、独立採算制[6]の下で価格が決定される。後者の場合、限界費用曲線と需要曲線との交点で価格・供給量が決定されており、パレート最適になっている。しかし、(社会的)限界費用形成原理で決定されるパレート最適で価格が決定されれば死荷重が存在することになる。この時、供給単位あたり平均費用曲線と限界費用曲線との差額AEだけ損失が生じる。死荷重に関しては次章で論じ、本章では(社会的)限界費用価格形成原理の時にパレート最適が達成されることに着目する。

 ここから図3−1を用いて論じる。縦軸を価格、横軸を供給量とする。電力需要の需要曲線をD、電力の平均費用曲線をAC、限界費用曲線をMCとする。電力は費用逓減している市場なので、限界費用が平均費用の下に位置している。この時、平均費用価格形成原理に基づいて価格が決定されれば価格Pa、限界費用価格形成原理に基づいて価格が決定されれば価格Pmとなる。限界費用曲線と需要曲線との交点がパレート最適Eとなる。

図3−1 限界費用価格形成と平均費用価格形成での価格

 

 3−2.外部性の存在によるパレート最適と独立採算

 上述してきたように、電力産業には外部不経済が存在している。しかし、図3−1からもわかるように、これらの費用曲線には外部性が存在していなかった。ここでは図3−1をさらに発展させる。

 図3−2は、私的限界費用曲線に外部費用が内部化されることで社会的限界費用曲線が求められていることを示している[7]。外部費用が内部化されることで限界費用曲線は上に位置している。私的限界費用曲線と需要曲線とで価格Ppm、供給量Qpmが決定され、パレート最適がEpmとなる。このパレート最適Epmは外部性を無視しているので、本当の意味でのパレート最適とはならない。社会的限界費用曲線と需要曲線とで価格Psm、供給量Qsmが決定され、パレート最適がEsmとなるとなるときが本当の意味でのパレート最適である。Esmがパレート最適になっているわけだが、まだ社会的限界費用曲線は私的平均費用曲線の下に存在している。供給単位あたりBEsmだけ損失が存在している[8]

図3−2 社会的限界費用のパレート最適と独立採算制

 

 

4.外部性と死荷重

 この章では、外部費用が費用曲線に内部化されることによる死荷重の比較を見ていく。平均費用価格形成原理と限界費用価格形成原理の両方を用いる。外部性が存在する場合、どちらの価格形成原理においても死荷重は存在する。その死荷重の比較を詳しく論じていく。

 

4−1.平均費用価格形成原理と死荷重

 電力市場の価格決定が平均費用価格形成原理に基づいている時に外部費用が内部化された時の死荷重を比較していく。

 図4−1では、逓減する費用曲線を示している。私的限界費用、私的平均費用、社会的限界費用、社会的平均費用が求められている。

平均費用価格形成を用いた時、独立採算制によって得られる価格は、限界費用価格形成原理で得られるパレート最適の時の価格に比べ高くなっている。供給量は少なくなっている。この時、私的費用曲線の操業上の損失は図4−1の△BCEpmとなっている。しかし、外部性が存在しているため、パレート最適はEsmである。よってこの時の死荷重は△BGEsmとなる。それでは外部費用が内部化された時の操業上の損失はどうなっているだろうか。(社会的)平均費用価格形成原理による操業上の損失は△AFEamとなる。外部性の存在によって、□AFGBだけさらに損失している。平均費用価格形成原理によって生じる死荷重は△BGEsmとなるから、外部性の存在を認め内部化すると、死荷重は□AFGBだけ追加的に増加する。よって全体の死荷重は△AFEsm[9]となる。

また、消費者余剰に関しても外部性によって□IJHAだけさらに損失している[10]

図4−1 平均費用価格形成原理と死荷重

命題2.(私的)平均費用価格形成原理の下では、外部費用の内部化により私的平均費用曲線が社会的平均費用曲線と一致するならば死荷重は増加する。

 

 4−2.限界費用価格形成原理と死荷重

 電力市場の価格決定が限界費用価格形成原理に基づいている時、外部費用が内部化されることで操業上の損失と死荷重の増加について比較を行う。

 図4−2では、逓減する費用曲線を示している。私的限界費用、私的平均費用、社会的限界費用、社会的平均費用が求められている。

 限界費用価格形成原理を用いた時、交点Esmがパレート最適になる。しかし、パレート最適で価格決定を行うことで操業上の損失が生じる。また、限界費用価格形成原理に基づいて決定された供給量の下では、限界費用と平均費用との差額、つまり供給単位あたりの損失が生じる。この損失と供給量をかけたものが限界費用価格形成原理における操業上の損失となる。図4−2において、□PpmEpmLPmが私的限界費用曲線での操業上の損失となっている。□PsmEsmKPsが社会的限界費用曲線での操業上の損失となっている。よって外部費用が内部化された時の操業上の損失は、□PmNKPsだけさらに損失している。つまり、外部費用の内部化でこの損失は増大する。

 パレート最適がEsmであるから、外部性を考慮せず市場で価格をPpmに設定した場合、死荷重△EsmEpmRが発生する。これにより、限界費用価格形成原理から得られる余剰はこの死荷重分だけ失うことになる。

図4−2 限界費用価格形成原理と死荷重

命題3.(私的)限界費用価格形成原理の下では、ピグー税などにより外部費用の内部化が実現するならば、(私的)限界費用曲線は社会的限界費用曲線に一致し、パレート最適をもたらす。

 

 

5.終わりに

 本稿では、電力産業が費用逓減している市場を持つとした。電力産業は代表的な外部不経済発生者である。しかし、費用逓減市場における外部性の議論は、筆者の知る限り行われてこなかった。費用逓減市場に外部不経済が存在する時、外部費用を内部化することで本来のパレート最適を得ることができる(命題1)。また、外部性を内部化するために、ここでは排出権取引と直接規制を例に挙げた。二酸化炭素を例に挙げて展開したが、市場取引を行う際、二酸化炭素の価格というものが必要になってくる。これは他の政策を行うにも必要となってくる。排出権取引の排出枠なり、直接規制の上限なり、決められた排出量を超えるものに費用を課すものである。この費用が本稿でもたびたび使用した外部費用に相当する。

 外部性が存在する時、つまり、社会的限界費用曲線と需要曲線とが交わる点がパレート最適となる。そこでは限界費用価格形成原理を用いていた。社会的限界費用曲線が私的限界費用曲線と私的平均費用曲線との間に位置している時、まだ供給単位あたりの損失が生じていた。

 費用逓減市場には死荷重が存在している。そこで平均費用価格形成原理と限界費用価格形成原理との死荷重が外部費用を内部化することによってどのようになるかを比較した。平均費用価格形成原理で、私的平均費用曲線が社会的限界費用曲線に一致するならば死荷重は増大する(命題2)。また限界費用価格形成原理で、外部費用の内部化が実現するならば、私的限界費用曲線は社会的限界費用曲線に一致し、パレート最適をもたらす(命題3)。

 電力産業は平成7年の電気事業法改正により、自由化の方向に進んでいる。自由化になることで、これまで議論してきた費用逓減とは逆の動きをする。しかし、実際に完全自由化になるまでは議論が行われている。筆者はこの自由化により環境負荷が増大するのではないかと1章で論じた。自由化によって得られるモデルは完全競争のモデルになる。完全競争の下での外部性の議論は進められている。本稿の役割としては、費用逓減市場で外部費用が内部化された(社会的)限界費用価格形成原理の時にパレート最適となる。この帰結はひとつの通過点に過ぎない。費用逓減市場では死荷重が存在しており、完全競争にない負の便益も議論しなければならない。それらを考慮した上で、電力自由化によって電力市場が競争的になり、環境負荷が増大するか否かを議論すべきである。

 

 

参考文献

 

・奥野信宏(2001)『公共経済学 第2版』岩波書店

・加藤一彦(2002)「排出権取引は環境規制手段として効果的か?」

『経済セミナー』6月号 vol.569 PP.118-119 日本評論社

・中泉真樹,鴇田忠彦(2000)『ミクロ経済学 理論と応用』東洋経済新報社

・西村和雄(1990)『ミクロ経済学』東洋経済新報社

・細田衛士(1999)『グッズとバッズの経済学』東洋経済新報社

C.D.コルスタッド著/細江守紀c敏之監訳(2001)『環境経済学入門』有斐閣

・ハル.R.ヴァリアン/佐藤隆三監訳(2000)『入門ミクロ経済学 原著第5版』剄草書房

A. B. Atkinson, J. E. Stiglitz (1980) “Lectures on Public Economics” McGRAW-HILL



[1] 例えば二酸化炭素の排出権取引が市場でなされるようになった場合。

[2] 逓増している曲線の場合、傾きは急になる。

[3] 他の産業でも二酸化炭素排出が大きな問題になっているので、以下で行う分析に対しても二酸化炭素を念頭に置く。

[4] 代表的なものにピグー税がある。

[5] 詳しくは『経済セミナー』No.569

[6] パレート最適ではないが、供給単位あたりの損失はゼロになる。

[7] 社会的平均費用曲線をここでは使用しないため省略した。

[8]外部費用がさらに増加し内部化された場合、外部費用の内部化で社会的限界費用曲線が私的平均費用曲線と同一になった時、パレート最適と独立採算が等しくなる。よって供給単位あたりの損失を被ることなく、パレート最適が達成できる。

[9]

[10]