第一回 犬の暮し

 日が昇る前から吠えるのがおいらの1日も欠かしたことのない日
課だ。おおおおおおおぅぅわわんわん。うぉぉぉぉぉちちんちん。
ぐうの音も出ない。でも、腹は「ぐうっ」と鳴る。

 ご主人様は朝が早い。早速、新聞をとりにやってきた。あんなじじ
いでも社会の動きは気になるのか。あの世に見識を持っていっても
しかたがあるまい。

 ようやく散歩だ。家を出て北に曲がると、すぐに川沿いのサイクリ
ングロードにでる。ここがお決まりのコースだ。堤防の斜面にはお
いらのヒジに届かないくらいのヨモギが伸び、川面は怪しく光ってい
る。おいらはどうも川が得意ではない。ナンだか興奮してくる。尻尾
が自分のものではないように固く硬直しているのがわかる。

 いけないこととわかりつつも、じじいを引く首輪を強くひっぱった。
よぼよぼではあるが、さすが「もと漁師」しっかり手綱は放さない。
おいらは紳士なのであちこちにマーキングをしたりはしない。
うんこも必ず決まった場所、そう野苺の群生のなかで済ますことに
している。そう、ここ、ここ、このトゲばったベビ苺のトイレでする朝の
1発目はたまらない。じじいが拾うのが大変だろうとなんだろうと構い
はしない、これはおいらの生きている印なんだ。