「花回廊」という名の庭



鳥取に「花回廊」というところがあります。
正式名称は「県立フラワーパーク とっとり花回廊」。
初めてその名を聞いた時、美しい名前とは裏腹に私が想像したのは、過疎地の自治体が人集めのために造った「村興し発想」の植物園です。
ちょっとした植物園を造り、カタカナのフラワーパークに耳ざわりの良い愛称を付け足しただけという安直な印象でした。

だから初めて現地を訪れて、花壇や川や森の“上空”に現実に長大な回廊が巡っているのを見たときは、「やられた」と思いました。
広い敷地にコンクリート製の円柱が何本も立てられ、その上に鉄骨と木でできた廊下が渡されているのです。
起伏の多い地形なので、回廊の高さは場所によっては地上30mになります。
この回廊から園内の庭や川や森を眺め、また、その先に聳える大山を眺めるのです。
「花回廊」というのは決して思いつきの愛称などではなく、コンセプトそのものだったのです。
私がやられたと思ったのは、コンセプトをそのまま形にして見せた愚直なまでのストレートさに対してです。

そして、このヒネリもハッタリもない姿勢に対する驚きは、すぐに賞賛の気持ちに変わりました。
円形回廊の中心にあたる場所には、半球型の巨大な温室があります。
鉄とガラスでできたこの温室を地球に、回廊を月の軌道に見立てることもできます。
このような巨大建造物と大山の自然の組合せの素晴らしさに、再び「やられた」と思いました。

この「花回廊」の美しさの源泉は、調和ではなく対照にあります。
鉄とガラスとコンクリートという人工物の塊は、自然の景観と調和することは決してありません。
しかし無機質の幾何学的な線の組合せが、大山の端正な美しさと麓の森の深さの印象を強めてくれるのです。
逆に他に遮るもののない自然の中で、私たちの目は否応なしに花回廊の建造物に吸い寄せられていきます。
この対照は緊張感に満ちたもので、それは紙一重のバランスの上に成り立っています。
たとえば温室が箱型やピラミッド型であれば、それだけで景観は台無しになっていたでしょう。
また既に観光施設が点在する中途半端な自然の中に「花回廊」を置いても、これほどのインパクトは生まれないでしょう。
ここが素晴らしいのは、一歩踏み違えると奈落の底に落ちてしまうことを知り尽くした微妙なデザインと、巨大建造物を受け入れるだけの包容力がある豊かな自然が組み合わされているからなのです。

「花回廊」は庭ではなくフラワーパークです。
したがって、園内には花壇だけでなく売店やピクニックエリアがあり、遊園地のように列車型の周遊バスが走っています。
また休日には、「ピロロ」と「ポロロ」というキャラクターのぬいぐるみや、大道芸人も登場します。
でも、回廊の上から鳥の目になって眺めるとき、「花回廊」も含めた大山山麓の広大な自然がまるで一つの庭のように感じられます。
ここは世界にも類がないユニークな庭だと、私は思っています。





2002年5月7日(火)




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