エコノミカルな持続可能性をいかに実現するか?
- 持続可能な開発と森林都市の課題 -



自然環境が年々生み出すサービスの持つ経済価値は、世界全体で最低でも年間16-54兆ドルといわれている(Constanza他1997)。これは、世界の年間GDPの0.9-3倍の規模にも相当する額である。今日では、こうした自然環境が生み出す価値の大きさについては多くの人が認識するところとなっており、問題の関心は「だからどうなのか?どうしたらこうした価値を持つ自然を現実の市場経済の仕組みの中で保全し、持続可能な開発を行っていくことができるのか?」という点に移っている。
自然環境の生み出す価値と現実の市場経済システムを統合していく上での最大の課題は、こうした自然環境が生み出すベネフィットの受け手が多数のそこに居住しない人々である一方で、こうした自然環境を維持するためのコストの負担が、その自然環境の近くに住む一部の人々に極端に偏っているという『コストとベネフィットの配分』の不公正な構造にある。例えば、グローバルなレベルで見た場合、森林の炭素固定機能や原生的自然の遺伝資源保全の機能は全人類にとって多大な利益をもたらす一方で、こうした森林や原生的自然を保全するコストは一部の発展途上国、それも特にこうした自然とともに生きる経済的に恵まれない一部人々に偏る傾向がある。また、私たちはアフリカの国立公園で野生動物が保全されることによって様々な利益を享受することができるが、その国立公園の周辺に居住する人々は、ゾウやサイ等の動物に農作物を荒らされるばかりか、時には子供達が襲われるというような不利益さえ被らなければならないのだ。こうした分配の不公正の問題は、『持続可能な開発』というコンセプトを現実に実現していく上で、私たちの前に依然として立ちふさがる大きな課題となっている。
本稿では、こうした課題に挑戦する南部アフリカ、ジンバブエのCAMPFIREプロジェクトの事例を紹介するとともに、こうした自然環境の保全や持続可能な開発が直面している共通の課題と森林都市の抱える課題との関連について考察したい。

□CAMPFIREプロジェクトの背景
アフリカの自然保護の歴史は、植民地の歴史と切り離すことができない。アフリカの多くの国では、ヨーロッパの入植者が肥沃な土地を農地として占有する一方で、広大な土地を国立公園や自然保護区に指定し、その両方の土地から先住民を追い出したという歴史を持つ。こうして追い出された先住民の多くは、半乾燥・乾燥地域といった非常に脆弱な自然環境の元で暮らさざるを得なかった。そして、こうしたただでさえ脆弱な地域の環境は、多くの人が居住することによって急速に破壊され、貧困に苦しむ人々がますます自然環境へのストレスを増加させるという悪循環が生まれた。(IUCN 1999)
ジンバブエもこうした歴史の例外ではない。前世紀初頭にヨーロッパ植民者が肥沃な土地に居住し、先住民を半乾燥・乾燥地の『共有地(Communal Area)』へと追いやった。しかし、この共有地の上の野生生物などの自然資源の利用に関する権利は国が所有しており、居住者は自らの住む土地の自然資源に関する決定権を持っていなかった。現在、ジンバブエではこうした共有地に約5百万人の人々、すなわち全国民の約半数が居住している。これらの土地の大半は、雨が少ないか非常に不安定なため農業には適していない一方で、野生生物にとっては格好の生息地となっている。しかしそこに生息するゾウなどの野生生物は自然保護の観点からは望ましいものの、居住する人々にとっては農作物等に致命的なダメージをあたえる害獣でしかなく、また、追い出された国立公園や保護区内で野生動物の狩猟を続け、国立公園当局から密猟者として扱われる者も多かった。

□コンセプトと目的
こうした背景の中、共有地での自然資源の保全と開発を両立させることを目的としてCAMPFIREは開始された。CAMPFIREとは、Communal Areas Management Programme for Indigenous Resourcesの頭文字をとったものである。日本語に訳すとすれば、『自然資源のための共有地管理プログラム』といったところであろうか。1989年に正式に開始されたこの取り組みの背景には、野生生物を含む自然資源の利用・管理の権利がそこに居住する人に与えられない限り、だれもその資源を保全し持続可能に利用しようとしないという認識があった。このため、CAMPFIREでは、共有地の住民に自然資源の管理と利用の権限を委譲し、そこから得られる便益を住民に還元することで、住民の自然資源保全のインセンティブを高めるという仕組みを導入している。
具体的には、まず、コミュニティーが地方行政組織を通じ政府の野生生物局に対し、野生生物資源の管理権限を委譲するように申請する。そしてコミュニティーにその能力があると認められた場合には権利が委譲され、コミュニティーは居住地の自然資源の持続可能な利用が可能になる。1975年以降、ジンバブエでは個人の土地所有者に対してその土地の野生生物に対する所有権とその利用が認められたが、CAMPFIREプロジェクトは、ジンバブエの国土の42%を占める共有地においても、こうした権利を認めようというものである。

□具体的な活動と成果
CAMPFIREに参加するコミュニティーの収入源として、現在のところ最も重要なものは狩猟権の販売である。多くのコミュニティーが、ツアー・オペレーターにトロフィー・ハンティングやサファリの権利を売ることで収入を得ている。実際、CAMPFIREの収入の90%以上は、ゾウ、バッファロー、ライオンなどの狩猟のためにジンバブエを訪れる外国人ハンターによってもたらされている。もちろん、こうして狩猟を許される動物の数は野生動物保護局によって科学的に決定されたものであり、野生動物の絶滅につながることはない。このほかにも、ワニの卵や木材、木材以外の林産物、川砂利、昆虫などを採取し販売するケースや野生生物の生息密度が高い場所では、それらの動物をゲームリザーブや国立公園に販売し収入を得ているケースもある。
こうして得られた収入は、通常直接各家庭に還元され、各家庭やコミュニティーによってその使途が決められる。実際には、学校建設や井戸の整備、ゾウなどの野生動物から農作物を守るフェンスの整備など、コミュニティーの開発に使われることも多い。また、CAMPFIREによって、サファリやツーリストキャンプのスタッフ、ゲームスカウトやツアーガイドなどとして新たな雇用が遠隔地のコミュニティーにも創出されるようになった。このように、CAMPFIREはコミュニティーの経済的な発展と開発に大きく貢献している。
この他にも、CAMPFIREによって生まれた成果の一つに、国立公園の運営や管理計画策定に周辺住民が参加するようになったことが挙げられる。以前は、国立公園と周辺のコミュニティーの間には大きな断絶と緊張が存在したが、CAMPFIREの導入によってこうした問題も大きく改善された。以前はゾウを見つけると国立公園管理局に射殺を依頼することが多かったコミュニティーも、今ではコミュニティーの貴重な収入源として大切に扱うようになったのだという。また、コミュニティーが自然資源を管理し密猟者を監視するようになったため密猟も減少するなど、CAMPFIREは自然保全の観点からも大きな成果を挙げている。
こうしたCAMPFIREの様々な活動は、CAMPFIRE協会、国立公園・野生生物管理局、地方自治、地域・都市開発省、ジンバブエ・トラスト、アフリカ資源トラスト、WWF(世界自然保護基金)等の数多くの組織が、それぞれの得意な分野で技術的、人的、資金的なインプットを行うことによって実現している。また、CAMPFIREの成功を契機として、現在では同様の仕組みを持つ地域住民による自然資源管理のプロジェクトは、南部アフリカの他の国々にも広がっている。もちろん、CAMPFIREにはまだまだ解決すべき課題も多いが、自然環境保全のコストとベネフィットをいかに調整するかという点で先進的な取り組みの一つであることは間違いない。

□森林都市の課題と持続可能な開発
筆者は、森林都市の重要なコンセプトの一つは、森林に人が新たに定住することによって、その周辺の森林が健全に維持され続けることだと考えている。なぜなら、こうした健全な森林の存在によってはじめて森林生態系の有する各種のサービスが維持されるからである。しかし、問題はここでもそのサービスの受益者とサービスを維持するためのコストの負担者が違うかもしれないという点である。すなわち、森林都市居住者はもちろん直接的に周辺の森林環境から新鮮な空気や水といったサービスを享受することができるが、それと同時に、流域の住民や流域以外の住民も森林が健全に維持されることによって様々な生態系からのサービスを享受することになる。しかし、そのためのコストをほとんど森林都市に居住する人々が負担しなければいけないとすれば、森林都市は例えエコロジカルな面でサステイナブルであったとしても、経済的な意味でサステイナブルとなることはできないだろう。つまり、森林都市は、持続可能な開発を真摯に実現しようとしているために、持続可能な開発の有する共通の課題に直面しているように筆者には感じられる。森林都市の実現のためには、デザインや機能といったエコロジカルな面での持続可能性の研究とともに、自然環境にまつわる様々なコストとベネフィットの配分をいかに公正にするかという、経済面での持続可能性についての一層きめの細かな研究と工夫が必要とされているのではないだろうか。

【参考・引用文献等】

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