DIY感覚でバイオガス
-ドイツのバイオガス利用の現状-
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ドイツでは、現在500箇所以上のバイオガスプラントが稼働している。前回リポートしたように、デンマークでは集中化と大型化、有機性産業廃棄物の投入による高効率化の方向を目指しているのに対し、ドイツでは農場単位で運営される小規模ものがほとんどだ。装置も小型で、デンマークと異なりDIY感覚で農家の人達が自ら作り、楽しみながらバイオガスを利用している。今回は、こうしたドイツでのバイオガス利用の実状をリポートするため、ドイツ北西部のブレーマーフォルデ(Bremerv嗷de)という村でバイオガスに取り組むヨハン・ドゥッカー氏と彼の息子ハインリヒ・ドゥッカー氏の農場を訪ねた。
■バイオガスは私の夢でした
「バイオガスをやりたくて、私は何十年も待っていました。ようやく夢がかなったのです。」現在64才になるというヨハン・ドゥッカー氏は、こう語りながら嬉しそうに彼の農場にあるバイオガス装置を案内してくれた。現在、34haの農場で39頭の乳牛と36頭の子牛を飼育する彼は、ほとんど手作りでそのプラントを作り上げたのだという。容量が100m3と小型の発酵槽の断熱材には、麦ワラが使われている。バイオガスの原料には、家畜の糞尿に加えとさつ場からの廃棄物、それにワラなどの植物残滓が用いられている。家畜の糞尿以外にこうした有機性廃棄物を加えることにより、単位あたりのガス発生量は倍増する。こうして作られたバイオガスはエンジンに送られ、発電器によって電気と熱に変換される。電気は、乳牛の搾乳や家で利用され、余分な電気は電力会社に売電する。一方、熱は彼の家で使う温水を作るために使われ、夏は余った熱でプールの水を暖め近所の子ども達に開放している。
彼がバイオガスを始めるのに何十年も待たなければならなかったのには理由がある。一つには、以前は設備の値段が非常に高かったことが挙げられる。ここ数十年で、発電器やエンジンの価格は大幅に安くなった。もう一つの要因は、政府が再生可能エネルギーの電力買い取り制度を創設したことだ。現在、バイオガスで発電された電気は、1kWhあたり15.6ペニヒ(約10円)で買い取ってもらえる。彼の農場では、1998年の1年間に6万2千kWhの電気を発電し、そのうち5万kWhを売電したというから、年間約50万円の売電収入を得たことになる。
バイオガスはエコロジカルなだけではなく、今やエコノミカルなものになったのだと彼は言う。バイオガスは農家や農村地域に新しい収入源と雇用を産みながら、CO2の排出量削減に役立ち、メタンの大気中への放出を防ぐと同時に、家畜糞尿から発生する悪臭を防ぎ、化学肥料や農薬の使用量を抑制し、水質汚濁の防止にも役立つというわけである。■息子もバイオガスに夢中
ヨハン氏の息子、ハインリヒ・ドゥッカー氏もバイオガスに取り組む一人だ。彼の農場は、乳牛100頭と子牛100頭を飼育する一方、夏の間はいわゆる農家民宿も経営している。彼の農場のバイオガス装置は、発酵槽の容量が300m3で、160馬力のエンジンと22kwの発電器が2基ずつ備えられ、電気と熱を作り出している。この装置も彼が自ら組み上げたものだ。バイオガスの原料は、家畜の糞尿のみ。バイオガスで作った温水は、自宅と300m離れた奥さんの実家に送られており、過去3年間、自宅・両親の家、宿のすべての暖房や温水はバイオガスで賄ったのだという。施設の総投資額は、20万5千5百ドイツマルク。日本円に換算すると、約1200万円である。この投資は、12年から15年で回収できる見込みだという。ハインリヒ氏は、「このバイオガス装置は、自分たちで組み上げたので安上がりにできましたが、メーカーに全部頼むと2倍ぐらいの値段になるので、採算性の確保が難しくなるのです。」と実状を語ってくれた。■ドイツにおけるバイオガス利用の歴史
ドイツでは、1970年代から80年代初頭にかけて一度バイオガスのブームがあった。ドイツ南部を中心に、約60のプラントが作られたという。当時、バイオガスのプラントを手がけたメーカーは10社以上にのぼったが、その後の原油価格の低下と技術的な問題で、多くのメーカーは撤退していった。しかし、こうしたブームの中で多くの農家が自らプラントを作ったことから、農家やそれをサポートする地域の農業学校の技術者や環境保護団体の間に、バイオガスに関するノウハウが蓄積され、それが広まっていった。また、こうした動きの中で、バイオガスプラントを自分で作ろうという農家を技術的に支援するグループが誕生すると同時に、技術が洗練され、パーツが規格化されキットの形で提供されるようになり、農家が地元の労働者の手を借りながら簡単にバイオガスプラントを作ることができるような仕組みができあがったのである。この結果、1980年代半ば以降、ドイツではほとんどのバイオガスプラントを農家自らが作るようになったのだ。このような手作りのバイオガスプラントにより、コストを低減させることが可能になったのと同時に、プラントの設計や部品の供給等のサービスを行うビジネスが農村地域に生まれることになった。■地域によって異なる最適解
同じバイオガスプラントでもデンマークとドイツでは目指す方向が大きく違う。前回リポートしたように、デンマークでは集中化と大型化、自動運転や有機性産業廃棄物の積極的な投入によるガス発生量の安定的な増加により、実用化にこぎ着けた。一方、ドイツでは個々の農家の手作りによる徹底した低コスト化によってバイオガスの採算性を確保しようとしている。これには、デンマークでは、多くの自治体が地域暖房のネットワークを有していることから、バイオガスプラントを集中化・大型化することで、ここから生み出される熱を効率よく地域暖房に利用できるという事情がある。また、もともと協同組合活動などが盛んなデンマークでは、人々が共同で事業を行うという文化が定着しているということもことも理由の一つとして挙げられるだろう。
バイオガスや風力などの再生可能エネルギーは、石油などと異なりその地域にある資源を活用することから、地域ごとに最適解が異なってくることが特徴だ。これは、物理的な条件だけではない。文化的条件や社会・経済的条件の違いによっても、デンマークとドイツのバイオガスの例に見るように最適なシステムも違ってくるわけだ。家畜糞尿が大きな問題となっている我が国においても、バイオガス利用の可能性は十分あるだろう。しかし、物理的にも、文化的にも社会的・経済的にも条件の異なる我が国で、具体的にどのようなシステムが最適であるかはまだ分からない。地域によっても答えは違ってくるはずだ。我が国でも地域ごとに様々な仕組みについて試行錯誤を行うことがが必要であると同時に、それらの情報をうまく共有しながら、あせらず持続的な取り組みを続けながら答えを見つける努力を続けることが必要であろう。
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