家畜糞尿や生ゴミも立派なエネルギー源だ
-デンマークのバイオガス最新事情-


バイオガスとは、家畜の糞尿等の有機性廃棄物を発酵させて作るガスのことだ。畜産の盛んなデンマークでは、このバイオガスを利用したコジェネレーションによる発電と地域暖房での熱利用が盛んだ。デンマークでは、ここ10年でバイオガスの実用化のめどが立ったという。これは、家畜糞尿に加え有機性産業廃棄物を利用することによるガス発生量の増加と集中化・大型化による効率の向上が大きな要因となっている。今回は、こうした同国の先進的施設の一つであるストゥッスゴードのバイオガスプラントを取材した。同施設は、隣接するヘアニング市が運営しているもので、コンピューターによるプラント制御やパイプラインによる糞尿の運搬、家庭の生ゴミの利用など同国の中でも先進的な取り組みが行われている施設である。

■家庭の生ゴミもエネルギーに利用
「ここのバイオガス装置の優れた点は、全てのプロセスがコンピューターで制御されていることなのです。」とストゥッスゴード・バイオガスプラントでオペレーションを担当するヨーゲン氏は、自慢げに制御コンピュータを指した。コンピュータによる自動制御のおかげで、この巨大なプラントはたった2人の作業員によって24時間ノンストップで運転されている。遠隔地からの操作も可能だ。
ここでは、他にも先進的な試みが行われている。その一つは、パイプラインで5軒の農家とプラントを結び、原料となる家畜糞尿をプラントへ送る一方でガスを取り出した後のスラリーを肥料として再び農家へ送っていることだ。これにより、大型のバイオガス装置の課題であった、家畜糞尿やスラリーの輸送コストを削減することが可能となった。もう一つは、家庭から出る生ゴミを原料に加えている点である。家畜糞尿に生ゴミなどの有機性廃棄物を加えると、ガスの発生量は大幅に増加する。しかし、デンマークではこれまでは食品工場などから発生する産業系の有機性廃棄物の利用は行われていたが、収集の煩雑さから家庭の生ゴミの利用はほとんど行われていなかった。ここでは、環境政策に熱心なヘアニング市が積極的にこうした新しい試みを導入しているのである。
ここで作られたバイオガスは、3km先にあるコジェネレーション施設までパイプラインで運ばれ、電気と熱に変換される。電気は配電会社に売電されるとともに、熱は市が運営する地域暖房事業に活用され、ガスの販売収入は1ヶ月で約1800万円にも達する。

■有機性産業廃棄物の利用で実用化に達したバイオガス
現在、デンマーク国内にはこうした大型のバイオガス施設が20箇所ある。この他に、農場単位で設置されている小型のバイオガス施設が18カ所で運営されており、1998年には合計2.5ペタジュールのエネルギーを生産している。さらに、政府は2030年までにこれを20ペタジュールまで引き上げることを目標として掲げている。
このように、現在では貴重な国産エネルギーとして位置づけられているバイオガスだが、実用化への道は必ずしも平坦ではなかった。デンマークでは石油ショックをきっかけに、70年代から80年代にかけて一度バイオガスがブームになった。しかし、それらの施設は十分なガスを発生させることができず、次第に利用されなくなってしまった。しかし、このまま終わらせてしまうのはもったいないということで、1987年からエネルギー環境省が積極的に支援を始めた。同省でミスター・バイオガスと呼ばれるタフトロプ氏は、「バイオガスを実用化するために、様々なタイプの装置で検証を進めるとともに、技術的、経済的な情報の公開を徹底し、ノウハウの蓄積に努めました。この結果、10年後にようやく実用化の目処が立ったのです。」とその経緯を語ってくれた。
こうした試行錯誤の中で、バイオガスを成功させるための条件がいくつか明らかになってきた。一つ目は、原料として家畜糞尿の他に、有機性の産業廃棄物を加えることであった。これにより、原料1m3あたりのガス発生量が大幅に増加することが分かった。例えば、家畜糞尿だけでは1m3あたり20 m3のガスしか発生しないが、マーガリン工場の廃棄物は原料1m3あたり実に1000 m3ものガスを発生するのだという。こうした有機生産業廃棄物は、デンマークに数多くあるとさつ場や酪農工場、食品工場などから大量に発生する。また、これらの廃棄物を引き取る際に、1トンあたり約1000円の引き取り料を受け取ることができるから、バイオガスプラントにとっては一石二鳥である。また、工場にとっても安価に廃棄物を処理できるというメリットがあるのだ。
二つ目は、設備の大型化と制御の高度化である。採算ラインにのせるためには、経験的に1日300トン以上の原料を投入できる設備の大きさが必要だという。施設の大型化によって、専用のオペレーターの配置やコンピューターによる高度な制御が可能となり、ガス発生量が安定して多くなるというメリットがあるのだ。
この他にも、農家の人達に興味を持たせ、積極的に事業に参加してもらうことや装置の構造をできるだけシンプルにして、メンテナンス費用を抑えることがバイオガスを成功させるために、重要だということがわかった。

■安全な飲み水の確保と国産エネルギーの自給率向上が背景に
デンマークでこのようにバイオガスの利用が進められている理由の一つは、言うまでもなくエネルギーの自給率向上だ。このために、バイオガスによる発電電力や熱の引き取りも制度化されている。しかし、実は同国のバイオガスの利用にはもう一つの背景がある。それは、飲料水の安全性確保の問題だ。デンマークでは地下水を浄化せず、そのまま飲料水として利用することが法律で定められている。このために、地下水汚染防止の観点から、畑へ散布することができる家畜糞尿の量と期間が厳しく制限され、全畜産農家には9ヶ月分の家畜糞尿を貯蔵するタンクの設置が義務づけられている。この貯蔵した家畜糞尿から発生するガスを何とか活用したいというのがバイオガス利用の一つのきっかけになっている。また、デンマークでは同様の観点から耕地面積あたりに飼うことのできる家畜頭数が制限されている。だから、ガス抜きした後のスラリーが余ってしまうこともないのだ。このように、基本的に物質循環のバランスがコントロールされているからこそ、バイオガスの利用も比較的容易に進めることができたのだ。

■バイオガスで農村地域に新産業創造を
では、我が国にはバイオガスは導入することはできないのだろうか。確かに我が国でのバイオガス利用を考えたとき、いくつかの課題点を指摘することができる。一つは、現時点ではせっかくバイオガスで発電しても、その電力を電力会社が引き取ってくれず、買電収入を見込めない可能性が高いことである。また、デンマークではバイオガスで作った熱を地域暖房に利用することが一般的だが、我が国では熱をどのように有効利用するかも課題である。また、ガス抜きした後のスラリーを蒔く農地が十分確保できないということも考えられる。
我が国でも7月に家畜排泄物に関する法律が制定され、家畜糞尿の適正処理が緊急の課題となっている。しかし、現状では家畜糞尿や有機性廃棄物のリサイクルとしては、もっぱら堆肥化が中心でエネルギー利用はほとんど行われていないのが実状だ。しかし、電気と熱さえうまく活用することができれば、地域によっては堆肥化よりエネルギー源としての利用の方が有効である場合もあるに違いない。何より売電することはできなくても、自由に使うことのできる地域のエネルギー源を確保できるメリットは大きい。バイオガスが作り出す電気と熱を利用して、農村地域で新たな産業を作り出すことも夢ではないだろう。
実は、デンマークの隣国であるドイツでもバイオガスの利用が近年盛んになっている。しかし、ドイツのバイオガスプラントはデンマークとは異なり、ほとんどが個人の農家が小規模に運営しているという特徴がある。次回は、このドイツのバイオガス利用の実状についてリポートしたい。

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