環境教育で地域振興と環境再生を目指す 〜アースセンター〜
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先月号では、スレート鉱山跡地を自ら再生し、試行錯誤しながら環境教育の場を作り上げてきたC.A.T.を紹介した。今回は、約200haの炭鉱跡地を再生しながら、地域の活性化を狙う環境教育の拠点「アースセンター」の野心的な取り組みを紹介したい。C.A.T.が25年間かけて手作りで作り上げられてきたのと対照的に、アースセンターはロンドンのミレニアムドームと同様、イギリスのミレニアム委員会が支援するビッグプロジェクトとして注目されている。
■炭鉱跡地の再生で地域の活性化を図る
アースセンターは、ロンドンから北へ約280km、イギリス北部サウス・ヨークシャー地方の都市、シェフィールド郊外に位置する。シェフィールドは、かつて鉄鋼業で栄えたが、70年代に多くの工場が閉鎖となりその後は"失業の街"として知られるようになる。アースセンターのあるこのドン河渓谷周辺でも、2つの炭鉱が閉鎖され1万人以上の労働者が職を失うなど、この地域は現在でもイギリス国内で最も失業率の高い地域の一つとなっている。
1990年から構想が開始された「アースセンター」プロジェクトは、「サステイナブル・デベロップメント(持続可能な発展)」をテーマとし、100年以上にわたって続けられてきた石炭採掘で荒廃した約200haの環境を再生し、そこに持続可能な未来のモデルとなる建築物や様々な技術を展示することで、訪れた人々の持続可能な発展に対する理解を醸成し、さらに自らが自分の生活の中でそれを実践するきっかけをつくることを狙いとしている。こうした先進的な理念が認められ、1995年には5千万ポンド(約85億円)にも及ぶ資金がロンドンのミレニアムドームでも知られるミレニアム委員会から与えられることになる。この資金を元に、昨年4月に4千万ポンド(約70億円)の第一期の整備が完了した。第一期では、炭鉱跡地に表土が被覆され、約12万本の植樹が行われるとともに、「プラネット・アース・ギャラリー」や「ウォーター・ワークス」などの施設が整備され、昨年の夏、一般に公開された。今年に入り第2期工事が始まり、現在、会議場、インフォメーションセンター、ホテルなどの建設が進められている。![]()
こうしたハード面での整備と同時に、センターではこうした展示を解説する様々なガイドツアーやプログラムを行うスタッフを抱え、テキストブックをテーマ別に用意するなどソフト面にも力を入れている。現在は、まだ学生を対象とした2〜3時間のコースがほとんどであるが、ホテル等の整備が進めば、数日の泊まりがけの研修プログラムなども用意する予定であるという。
アースセンターのもう一つの目的は、このように持続可能な未来のビジョンを示すと共に地域の雇用確保と活性化を図ることにある。すなわち、自ら「持続可能な発展」のモデルとなり、環境保全と経済発展が両立する道を示すことである。現在のところ、同センターの職員は50名程度であるが、来年には100名を超える予定だ。センターで直接雇用する職員の他にも、多数の人が訪れるようになれば地域全体で数百人程度の雇用が発生することが見込まれている。さらに、アースセンターの整備にあわせ、新たにエンジニアリング企業が本社を移転する計画もあるという。将来的には、さらに周辺に展示場、グリーン・インダストリー・パーク等を整備することも構想されており、これらが完成すれば環境教育ばかりでなく環境産業の分野でもイギリスの一大拠点となることは間違いない。![]()
■「プラネット・アース・ギャラリー」と「ウォーター・ワークス」
アースセンターの敷地に入ると、すぐ目に付くのが、木の外装で覆われた巨大な施設「プラネット・アース・ギャラリー」である。建物は、断熱効果を高めるためその半分近くが丘に埋め込まれるように建築されており、太陽熱を利用した暖房とあいまってエネルギーの効率的利用を図っている。ギャラリーの中庭には、高さ6mの巨大な太陽電池パネルの天蓋が設置されることになっており、これはヨーロッパで最大のものになるという。建物の中では、地球の資源の有限性や環境問題の深刻さ、また、持続可能性の概念や技術を示す展示が行われるほか、レストランでは、地域でとれた有機食材を使ったメニューが提供される予定だ。![]()
アースセンターのもう一つの目玉が、「ウォーター・ワークス」と呼ばれる施設である。建物は全体が透過性ある素材で覆われており、その中にはまるで温室のようにバナナ等熱帯性の様々な植物が繁茂している。実は、この植物とその根に生息するバクテリアが有機物を吸収することでセンター内で発生する排水を浄化しているのだ。センター内で発生するすべての排水は、いったん施設の後ろにある巨大なタンクで嫌気性発酵させられる。その後、この建物の中に導かれこれらの植物が段階的にその汚水を浄化していく。植物によって浄化された水は、最後に魚の泳ぐタンクに送られる。このようにして浄化された水は、最終的に紫外線で雑菌などが除去され、センター内に作られた池に導かれ、植物のかん水に再利用される。さらに、センター内のトイレも、水の使用量を削減するために、飛行機で使われているのと同様な真空吸入式となっている。こうした取り組みにより、同センターでは同種の施設の20-30%にまで水使用量を低減させることを狙っている。
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■12万本の植樹による生態系の再生
約12万本の木が植えられたという敷地は、以前ここが炭鉱跡地の荒れ果てた地であったことを感じさせない。また、丘からドン川河畔にかけて、乾燥地、草地、森林、湿地といったタイプの違う生態系が再生されている。湿地生態系を再生するため池には、センター内に降った雨が流れ込むとともに「ウォーター・ワークス」で処理された排水が流れ込み、池の水はセンター内の植物のかん水に再度利用される。池の周辺に植えられたヤナギは、将来的にはセンター内の施設の暖房などの燃料として利用される予定だという。また、池の中には「ネイチャー・ワークス」と呼ばれる施設が設けられ、淡水生態系の仕組みや食物連鎖について学ぶことができるカリキュラムも用意されている。この他にも、BBCのテレビ番組で優勝したガーデニングの名人達が作った庭が作られる等変化に富んだ植栽がセンター全体に施されている。中でも、印象的なのは長崎から送られた柿の木だ。これは、原爆投下後に被爆地で生き残った柿の木からが苗木を再生し、それを世界中に広めている「柿の木プロジェクト」の一環としてここに植樹されたものである。再生と希望、平和の象徴となっているこの柿は、まさに「アースセンター」のコンセプトを体現しているかのようだ。![]()
■持続可能な発展のモデルを提示
アースセンターは、「サステイナブル・デベロップメント」、すなわち地域の経済的、社会的、生態学的な再生とその持続的な発展を同時に達成しようという野心的な試みと言えるだろう。20世紀の万博やSF小説が、科学技術の発展による夢のある未来像を提示してきたように、アースセンターは、21世紀に向けた新たな「持続可能な発展」のモデルを我々に提示しようとしている。
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