従業員との「環境対話」によって、世界的に有名なエコ・ホテルが誕生
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スウェーデンは、国土面積45万km2で日本の約1.2倍、欧州で4番目に広い国であるが、人口は約880万人と我が国の1割にも満たない。
以前は高福祉国家として紹介されることが多かった同国であるが、環境問題についても先進的な取り組みを行っている。
1999年1月には、これまでの15の環境関連法を統合した新しい「環境コード(環境法典)」が導入され、21世紀に向けた持続可能な社会実現への取組が官民一体となって一層強力に進められようとしている。
今回、スウェーデンを訪れた目的の一つは、こうした同国の環境問題に対する取り組みを取材するためである。まず、訪れたのは同国の首都ストックホルムにあるスカンディックホテル・スルッセン。同ホテルチェーンは、業界でも環境に対する取組を経営に積極的に取り入れている企業として世界的に知られている。
■業界で一番環境に配慮したホテルを目指す
スカンディックホテル・チェーンは、北欧を中心とした10ヶ国に約130のホテルと約7000人の従業員を擁するホテルチェーンである。同ホテルチェーンは、ホテル業界で初めてシャンプーと石鹸を使い捨てから詰め替えシステムに代え、また、すべての客室を「エコ・ルーム」に改修するプロジェクトを進めるなど、同業界で環境に対する取組を積極的に経営に取り入れている企業として世界的に知られている。
同ホテルチェーンでは、CEOローランド・ニールソン氏の指揮のもと、スウェーデンの環境団体であるナチュラル・ステップと共に1993年から改革を開始する。94年にはホテル幹部がアイスランドに集められ、「ホテル業界の中で最も環境に配慮した企業となること、また自然の条件に合わせたホテル経営を行うこと」という同社の環境目標が設定された。これに続き、翌年には5,000人の従業員全員を対象とした環境教育を実施し、その後各職場での「環境対話」が始められた。これは、従業員を小さなグループに分け、それぞれの職場の中で何が改善できるかを話し合う活動である。こうした、現場での地道な取組の中から様々なアイディアが出され、これまで2,000にものぼる取組が実現に移されてきた。
こうした、同ホテルチェーンの中でも最も成果を挙げているのが、ストックホルムの中心街の近くに位置するスカンディックホテル・スルッセンである。見た目にはごく普通に見えるこのホテルで、どの様な成果があげられているというのだろうか。ここで環境コーディネーターを務めるエミール・ガメルトフ氏に同ホテルの取組について話を伺った。■廃棄物が2年半で75%も削減
「ここスルッセンで最も誇るべき成果は、2年半で廃棄物の量が75%も削減されたことです。」と彼は胸をはった。同ホテルでは、このために地道ではあるが様々な取組が行われてきたのだという。例えば、最近では他のホテルでも見られる様になったシャンプーや石鹸の詰め替えシステム。通常、使い捨ての石鹸は一つ15gであるが、宿泊客が使う量は平均して3gに過ぎない。残りの12gと石鹸の包装紙などはこれまでごみとして捨てられていた。これを詰め替え可能な液体石鹸に代えたところ、1年間で25トンの石鹸と8.5トンのプラスチックケースの節約につながったのだという。
また、キッチンからでる生ゴミからバイオガスを作り、ホテルの食品運搬用のトラックの燃料として利用する。ガスを抜いた後のスラリーは、肥料として近所の農家に無償で提供している。この他、ビンや缶、ロウソク、プラスチックなど、ごみは徹底的に分別され、リサイクルに回される。そして、リサイクル可能なごみを全て除いた後の可燃ごみは、焼却場でサーマルリサイクルで熱が回収される。資材の購買についてもなるべくごみを出さないもの、環境に負荷を与えないものが慎重に選ばれる。その結果、以前は一月に12.5トン出ていたごみが3トンにまで減少し、ごみ処理の年間経費も約20万SEK(約280万円)から5万SEK(約70万円)まで削減することが可能になった。
この他にも、水やエネルギーの削減について、具体的な目標が設定され、各目標にはそれぞれ担当者が置かれ目標の期日が設定されている。また社員教育も継続して行われており、新入社員のために一月一回の環境研修プログラムが実施されている。各部署で行われる定例のミーティングでも、最低5分間は環境問題についての話し合いが行われる。
さらに、こうした取組の成果は従業員や宿泊客にわかりやすく伝えられる。例えば、1995年からリサイクルされた紙の量は約190トン。これは2,700本の木に相当することが、エレベーターホールの目立つ場所にわかりやすく示されている。こうした廃棄物や水、エネルギーを削減することで得られた利益の一部は、従業員に還元される。還元された利益は、97年には従業員一人当たり980SEK(約1万3千円)、98年には400SEK(約6千円)となった。
このように、同ホテルでは様々な機会を通じ、従業員が常に環境に意識を向けるような工夫がなされている。■全ての客室を「エコ・ルーム」に
こうした同ホテルの環境への取組の中でもユニークなのが、「エコ・ルーム」というプロジェクトである。「エコ・ルーム」は、部屋で使われている製品や素材のほとんど(97%)にリサイクルが可能なものを使うというコンセプトで作られた部屋である。ここスルッセンでは、現在まで全292室のうち28室がこの「エコ・ルーム」にリフォームされており、今後全ての室がこの「エコ・ルーム」へ代えられていく予定だ。環境に配慮するために、床材には国産の木材で作られたフローリングが使われ、カーテンやベッドカバー、絨毯などにはコットンやウールなどの100%天然素材が用いられている。ソファーやいすなどにも木や本革が用いられており、プラスチック等の使用は極力おさえられている。この部屋でリサイクル出来ないものは、鏡とドライヤーの中の部品の一部だけ。もちろん、シャワーやトイレなどは節水タイプのものが用いられているほか、省エネルギーに配慮されている。この結果、客室は一層快適なものとなり、「エコ・ルーム」は宿泊客にも大変人気があるのだという。■レストランもオーガニック
同ホテルのレストランも、昨年5月スウェーデンの有機農産物等に関する認証組織KRAV(クラーヴ)の認証を獲得した。KRAVの認証を受けるためには、前菜、メイン、デザートで最低一種類ずつオーガニックなメニューを用意することが必要とされるが、ここでは現在3種類のオーガニック・メニューが用意されている。当初、こうしたメニューに対する反響はさほど大きくなかったが、現在では10人のうち8人がオーガニックメニューを注文する様になっているという。
こうした同ホテルの環境への取組は、着実に他のホテルとの差別化の武器となり始めているようだ。最近では会議の開催に際し、そのホテルで環境に対してどの様な取組を行っているかを問われることが多くなっており、同ホテルの環境に対する取組は非常に有利なセールスポイントとなっているのだという。■何故成功したか
スカンディックホテルでは、なぜこの様にわずか5年で環境への取組が定着し、成果を挙げることが出来たのか。それについて、ガメルトフ氏は「従業員の中からアイディアが出され、それがすぐに実現され、効果がすぐ現れたからみんながやる気になった。」と語ってくれた。当たり前の様だが、すべての従業員をまきこみ全員が参加すること、現場のアイディアをすぐに実行すること、成果を目に見える様にしてわかりやすく伝え再び従業員へ還元すること、こうした一連のサイクルが同ホテルにおける環境への取組を成功に導いている様に思う。
「今後の取り組みについて聞かせて下さい」という私の問に、彼は笑いながらこう答えた。「すぐに実行できるアイディアは50以上ある。環境のことについてなら、何時間でも話が出来るんだ。」筆者にとっては、何よりもこうした環境に対する取組について生き生きと語る彼の姿が、同ホテルの成功を約束している様に思えた。
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