ビジネスとバイオダイバーシティ 第一回
戦略的パートナーシップを築くために


by フランク・ボーヒーズ、チーフ・エコノミスト
国際自然保護連合(IUCN-The World Conservation Union)
日本語版 by 古田尚也

『バイオダイバーシティ(生物多様性)』は、企業の社会貢献プログラム、さらには企業の使命の主要な要素の一つであるはずです。しかし、今日でも企業の多くは生物多様性についてよく理解していないか、または、取り組んでいません。

今回は、生物多様性の概念を紹介するとともに、ビジネス・コミュニティーとバイオダイバーシティ・コミュニティーの間に戦略的パートナーシップを築く上での2つの戦略を提起したいと思います。

■バイオダイバーシティーとは何か?
『バイオダイバーシティー(生物多様性)』−より正確には、バイオロジカル・ダイバーシティ(生物学的多様性)−は、『自然』に関する現代的な用語で、私たちの惑星の複雑で多様かつ脆弱な生物資源を含意しています。ビジネスの視点から見た場合、『生物多様性』が@科学的に確立された概念であること、A国際政治的に約束されたものであること、Bそれ自体がビジネスの欠かせない資源であること、を理解することが重要です。

科学的な概念としては、バイオダイバーシティーは自然の多様性を3つのレベル−すなわち、生態系レベル、種レベル、遺伝資源−の3つのレベルでしています。生態系−例えば、湿地や珊瑚礁、森林−は、様々な種や遺伝子によって構成される生きたシステムです。今日では、多くの生態系が地域の固有種と外来種、野生生物と栽培化・家畜化された生物によって構成されています。また、同時に多くの生態系には人間が含まれ、また人間活動によって影響を受けています。

国際政治的な約束としては、生物多様性に関しては次の3つの広範な目的についての幅広い国家間での合意が存在しています。すなわち、@生物多様性の保全、A生物資源の持続的な利用、Bその利用に関する公平な利益の配分です。これら3つの目的は、持続可能な発展に関するいわゆるトリプル・ボトムライン−生態学的持続可能性、経済的持続可能性、社会的持続可能性−を構成しています。

生物多様性に関しては、現在5つの重要な国際条約があります。そのうち『生物多様性条約』は、最も包括的かつ長期的な展望をもったものです。他の4つの条約は、生物多様性の特定の側面、すなわち、絶滅危惧種の貿易(ワシントン条約)、移動性の生物(ボン条約)、湿地(ラムサール条約)および自然遺産(世界遺産条約)に関するものです。同時に、生物多様性は気候変動、砂漠化、貿易、健康など他の多国間での取り決めとも深く関係しています。これらの国際的な取り決めは、特に経済のグローバル化が進む中で、企業活動に政治的な決められた新たな義務を課すのです。

経済に不可欠な資源として、生物多様性はすべての企業活動にとって重要な資源です。あらゆるビジネスとそのビジネスに投入されている自然資源を考えてみてください。少なくとも従業員は植物や動物を食べることで暮らしをたてていくのです。今日、紙を使わないビジネスはほとんどないと言っていいでしょう。同時に、すべての企業活動は生物多様性にインパクトを与えます。企業はどこかに必ずオフィスを構えなければならず、それは周囲のランドスケープにインパクトを与えます。さらに、いくつかの産業、例えば農業や観光業などは、自然資源を採取したり利用するという意味で、直接自然資源に依存しているのです。

■『生物多様性ビジネス・リーダー』とのバートナーシップ構築
多くの場合、生物多様性の保全は政府や非政府機関(NGO)の役割であると考えられています。これは、主要な生物資源−すなわち、河川、海岸、山岳地域や野生生物−が伝統的に国家の所有物であること、また同時に、主要な管理手段−保護地区、絶滅危惧種や貴重な生物生息地のリスト、資源利用に関する規制−が政府の施策によるものであることが理由となっているのでしょう。

このため、生物多様性に関する知識や理解の多くが政府やNGOによって保有されていることはある意味で当然なのです。従って、企業が真剣に生物多様性を企業の社会貢献プログラムや企業理念に取り入れるためには、バイオダイバーシティ・コミュニティー−政府とNGO−との戦略的なパートナーシップ構築が不可欠なのです。

企業とバイオダイバーシティー・コミュニティーのパートナーシップ構築を進めるための第一の戦略的アプローチは、『生物多様性ビジネス・リーダー』を支援し、その活動を促すことです。『生物多様性ビジネス・リーダー』は、企業活動において生物多様性に配慮し、企業活動の生物多様性に与える悪影響の最小化に努める企業と定義することができます。こうした企業は、生物多様性の点からは『最上級』の企業と言えるでしょう。例えばShell, BP, Rio Tinto, Aventis, Weyerhauser, Rabbobank, Deutsche Bank等WBCSD(World Business Council for Sustainable Development)のメンバー企業は、『生物多様性ビジネス・リーダー』の有力候補です。これらの企業は、企業の社会貢献プログラムの中の生物多様性の要素や環境管理システム、投資戦略を強化するために、バイオダイバーシティー・コミュニティーとのパートナーシップ構築を進めています。

つまり、『生物多様性ビジネス・リーダー』については、本質的かつ持続可能な企業の生物多様性戦略を生み出すためのパートナーシップ構築を促進していきたいと考えています。

■『生物多様性ビジネス・パイオニア』とのパートナーシップ構築
すべての企業は何らかの形で生物多様性と関係していますが、いくつかの産業分野、例えば農業や林業、水産業、観光業、製薬業、家具産業、食料雑貨店、レストランなどは、生物資源に直接的に依存しています。

バイオダイバーシティー・コミュニティーとの戦略的パートナーシップを構築することによって、こうした自然資源に依存する企業は『生物多様性ビジネス・パイオニア』−すなわち、生物多様性の保全と同時に利益を生み出す企業−になることができる可能性があるのです。実際、こうしたパイオニア企業は現れ始めています。カリフォルニアのFetzerワイナリーは、製造工程をオーガニックで生物多様性に配慮した方法に完全に転換しました。Terra Capital Fundは、中南米での生物多様性ビジネスに資金を提供しています。イギリスのdo-it-yourselfショップB&Qは、FSCに認証された木材製品だけを販売することを計画しています。スイスの小売店COOPでは、有機農産物と衣料品の取り扱いを拡大しています。

『生物多様性ビジネス・パイオニア』を育てることは、プライベート・セクターを生物多様性保全のためのポジティブなアクターとするための鍵です。確かに、鉱業など生物多様性に大きな影響を与える産業分野の『生物多様性ビジネス・リーダー』企業のインパクト低減努力は大変重要です。しかし、同時にプライベート・セクターをバイオダイバーシティー・コミュニティーの一人前のメンバーとして迎え入れるにすることも必要なのです。『生物多様性ビジネス・パイオニア』は、新たなビジネスやファイナンスの手段、新たな利益の探索、市場メカニズムによる解決策を生物多様性保全に導入するのです。

『生物多様性ビジネス・パイオニア』に対して、IUCNはこうした企業を育成し、投資するという新たな関係を促進したいと考えています。このためには、産業分野別の生物多様性マネジメントシステムや生物多様性に配慮したポリシー、生物多様性のモニタリングや評価活動が必要となります。こうしたことはすべて、企業とバイオダイバーシティー・コミュニティーの協力の中から生まれるのです。

■次に何をすべきか?
『生物多様性ビジネス・リーダー』と『生物多様性ビジネス・パイオニア』はともに、生物多様性を科学的概念、国際条約、経済資源の面でさらに深く理解することが必要です。これらの企業は、企業の生物多様性戦略を構築する上での実務的なガイダンスやバイオダイバーシティー・コミュニティーの組織や能力に関する情報を必要としています。つまり、『生物多様性ビジネス・リーダー』と『パイオニア』ともにバイオダイバーシティー・コミュニティーとのパートナーシップを構築していくことが必要なのです。特に、パイオニア企業は、彼らの生物多様性ビジネスに対するグリーン・インベスターとグリーン・コンシューマーを確保することが必要になるでしょう。

私たちIUCNは、こうした戦略のもと生物多様性とビジネス&ファイナンスに関するグローバルプログラムを進めています。『ビジネス・リーダー』に関して、私たちは現在新しい企業の生物多様性戦略に関するプロジェクトを進めています。『ビジネス・パイオニア』に関しては、アフリカ、中央ヨーロッパ、世界遺産に関する生物多様性ビジネスに関する投資ファンドの試みを始めています。私たちは、企業とのパートナー構築に大変関心を持っているのです。

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