21世紀の『コンサベーション』
〜経済のグローバル化に対し、自然と文化の多様性をどのように保全していくべきか〜IUCN(国際自然保護連合)チーフサイエンティスト ジェフリー・マクニーリ
聞き手:古田尚也〜自然保護の思想と活動は、20世紀に国立公園制度の定着、レッドデータの
整備、生物多様性条約を始めとするさまざまな国際条約の制定など着実な成果をあげてきました。21世紀を迎えた現在、『コンサベーション』(保全)は、どのような課題に立ち向かっているのでしょうか?〜重要なことは、『コンサベーション』は時代とともに変化するものだということです。つまり、20世紀の半ばには適切であったことも、21世紀を迎えた今となっては、もはや適切な手段ではなくなってしまっているかもしれないということなのです。
たとえば、今ではより多くの人々が都市に住むようになっています。都市とは、我々人類に恵みを与えてくれてきた自然から根本的に隔絶した場所です。そして、このように、都市により多くの人々が住むようになったということが、『コンサベーション』に新たな課題と可能性をもたらしているのです。
可能性に関していえば、都市住民は常に自然とのかかわりを維持する方法を探しています。このため、国立公園や他の保護地区を訪れる人々の数は年々増えています。また、自然に関するTV番組(NHKはこの点で世界のリーダー的存在です)や自然に関する本等の数も大変増えているのです。
こうしたことはすべて、人々が『コンサベーション』に大変な関心を持ちつづけていること、また、効果的な『コンサベーション』のシステムを維持できるような財政的支援を提供するよう、政府に対してプレッシャーを与えていることことを示すものです。
しかし、都市に居住するということは、確かにいくつかの深刻な課題をもたらすことも事実です。これは特に、都市住民が自然というものを理想化し、時には神秘的なものとしてさえ考えがちなことが理由になっています。都市住民にとって、自然はもはや自分たちの生活の一部分ではなく、観光で訪れる場所となっているのです。■人口増加と資源消費の増加の同時進行
私たちに課されているもう一つの大きな課題は、人口増加と資源消費の増加の同時進行です。これにより、単純にいって、私たちは我々の生存システムである地球に対する負荷を増やし続けています。長期的に見た場合、サステイナブルではない水準で、水産資源や森林、農地を収奪しているのです。
このように、私たちの生存システムである地球に対する負荷、たとえば地球的な気候変動や農薬の濃縮などが増え続けていくならば、私たちは将来資源をめぐる深刻な衝突や紛争が起きることを予期しておかなくてはならないでしょう。
現在、私たちが目にするアフリカの紛争の多くは、端的にいって天然資源そのもの、また、天然資源から得られる利益をどのように分配するかということが原因となっています。こうした構図は、豊富な石油やガスを持つ中央アジアにも当てはめることができます。〜都市化とともにインターネットに代表される情報化が世界的に進んでいます。こうした経済のグローバル化の傾向を生物多様性保全の立場からどのように考えますか?〜
経済のグローバル化にも同じように、課題と可能性があります。経済のグローバル化の課題は、グローバル化によって消費者が自分たちが自然に与えているインパクトについて無知になってしまうという点にあります。
たとえば、東京に住んでいる消費者がタンザニアやコスタリカのコーヒーを買っても、そのコーヒーを育てることがどれくらい熱帯林にダメージを与えているかということを知りません。こうした行動様式は、その環境の近くに住むな人々の行動とは全く対極的です。
通常、自然の近くに住む人々はは自分たちの身の回りのエコシステムの変化に対して非常に敏感ですし、エコシステムが適切な方法で使われるように必要な手段を講じます。
つまり、経済のグローバル化とは、これまで存在していた自然からのフィードバックシステムがもはや機能しなくなっているということを意味するのです。このため、人々はより多くのモノやそれをつくるために必要な資源を消費するようになるのです。■文化の多様性に対してもインパクトを与える経済のグローバル化
経済のグローバル化は、同時に文化の多様性に対してもネガティブな影響を与えています。世界にあるおよそ6000の言語の半数以上は、老人が話しているだけで、もはや若い人には教えられていません。これは、大変な悲劇だといえるでしょう。なぜなら、言語とは、ものの考え方、そして自然との関わり方そのものだからです。
グローバル化、そしてそれに伴う貿易の増加は同時に、さまざまな植物や動物、微生物(人間に対する病原菌を運ぶものも含む)が歴史上かつてないスピードで地球上を移動するということを意味します。少なくとも、こうして地球上を移動している種のうちのいくつかは、新たな環境に対して大変深刻な影響を与える可能性があります。
たとえば、「クズ」という植物は、日本では問題のない植物ですが、アメリカの南部では大変侵略的になります。成長があまりにも早いため、生態系を占有し人間に心理的な悪影響さえ引き起こすのです。
また、経済のグローバル化は、世界中からの新しい種の導入と、生態系の均一化を引き起こします。そして、それはその土地にしかない固有種の絶滅という代償をしばしばもたらすのです。〜経済のグローバル化の可能性としてはどのようなことあげられますか?〜
グローバル化は同時に、私たちにこうした課題に対処するための新たなツールも与えてくれます。インターネットやそれに関連する情報通信技術によって、知らなかったという言い訳が通用しない時代となっています。ニュースメディアによって、緊急事態に確実かつ迅速な国際的注目が集まるようになっています。
こうして私たちが話をしている間にも、保全に関わる者にとって聖地ともいえる世界遺産の一つであり、またその種の多様性によってチャールズ・ダーウィンが自然選択による進化というアイディアを思いつくきっかけとなった、ガラパゴス諸島での油流出事故が大きなニュースとして報道されています。この事故に関する一連の報道は、力強い国際的アクションを引き起こしました。グローバル化はまた、こうした事故に対してより多くの資金が世界から集まるという可能性も有しているのです。
私たちに課された大きな課題は、経済のグローバル化がより多くの人々を物質主義に魅惑するなかにあって、自然と文化の多様性を同時に保全することなのです。■大量消費社会への人々の疲れ
私は、多くの人々が土地や資源に対する歴史的なつながりを捨て、終わりのない物質的欲望の追求に疲れているように感じています。世界各地で、宗教はより重要な役割を果たすようになっています。そして、多くの宗教はその環境的なルーツに回帰し始めています。日本の神道コミュニティーも、その数千の神社の建設に、サステイナブルに育てられた木だけを使うということを誓いました。
そして、自然の近くに住んでいる人たちは、自然の力に畏敬の念をきながら、サステイナブルに育てられた木を使ってきたのです。
もちろん、私たちは倫理的な原則を置き忘れてしまった、現代の科学と技術の『結婚』が生み出す力を無視することはできません。しかし、インターネットは市民社会がその関心を表明する手段を与えてくれますし、大企業もその事業活動に対する株主の意見を聞く機会を増やしているのです。〜こうした課題に取り組む現在、特に関心をもっていること、または興味深かったことについてにお話しいただけますか?〜
我々IUCNは、いまお話しした課題の多くに取り組んでいます。
私は、つい最近『侵略的移入種に関する世界戦略』(Global Strategy on Invasive
Alien Species)という本ををまとめました。この戦略には、この深刻化する問題に対処していくために、今後とらなければならない重要なアクションが記されています。
私はまた、つい先頃、侵略的移入問題の人間的側面に関する本の編集を終えました。この本は、侵略的移入問題の経済学的、社会学的、心理学的、歴史的、政治的な側面に焦点を当てています。この本をまとめる中で興味深かった発見は、あるアメリカの研究によると、侵略的移入種による経済的損失は年間1千億円にも上るということでした。
たとえば、五大湖のzebra musselは工場の取水管に被害を与え、雑草は放牧地の生産性を減少させています。国立公園管理局(National Parks Service)は国立公園内の侵略的移入種をコントロールするために、年間何百万ドルもの支出を余儀なくされているのです。〜今、あなたは「農業と生物多様性に関する本」をまとめていますね。その内容について大変興味があります。少し教えていただけませんか?〜
はい、もうすぐ完成します。私はこの農業と生物多様性に関する本を世界銀行のために書いているのですが、この本では、私たちがこの地球上のより多くの人々を養いながら、同時に自然の保全を促進するために、どのように農業政策を改善したら良いか示そうとしています。
私たちは農業を自然の『よき隣人』とすることもできるのです。私たちは、ネパールのチトワン国立公園の周辺地域やホンジュラスの松林、コスタリカの保護地区をつなぐ野生動物の回廊となっている農地など、保全と調和した農業を実践している人たちを支援することができます。
また、害虫をコントロールするために、殺虫剤の量を増やすのではなく、統合的害虫管理の方法をとることができます。アフリカでは獣医が有蹄類のウイルス病である牛疫の撲滅活動を進めていますが、これは同時に、野生のアンテロープがこの病気にかかることを防ぐことにも役立つのです。■野生生物と農地の役割
農地もまた、少なくともいくつかの野生種の生息に適した場所に変えることができます。たとえば、インドネシアのアグロフォレストには非常に多様な作物が生育しているため、昆虫や鳥の豊かな集団がはぐくまれています。中央アメリカの木陰で育てられるコーヒー(Shaded Coffee)農園は、オープンスペースのコーヒー農園よりずっとハビタットが豊かです。
休耕地もしばしば野生生物に重要な住処を与えます。たとえば、カリフォルニアでは水田が渡り鳥のための重要な湿地となっています。また、農行に直接メリットがあるような方法を用いることもできます。たとえば、果実や野菜の生産力を維持するために花粉媒介生物を利用する
ことや害虫に対する天敵を使うことが挙げられます。後者の良い例として、ネズミの害を防ぐために、フクロウや蛇の集団を維持するということがあげられるでしょう。〜遺伝子組み替え作物(GMO)が、現在非常に大きな関心を集めています。GMOについてどのように考えたら良いのでしょうか?〜
多くのテクノロジーと同様に現代の遺伝子組み替え技術は、良い面と悪い面を持っています。
しかし、残念なことにGMOは悪いスタートを切ったといえるでしょう。つまり、最終的な消費者の利益ではなく、それを推進している多国籍企業の利益を増やす作物に関心が集中してしまったからです。そして、当初は遺伝子組み替えの技術は非常に複雑であったため、この技術は数少ない大企業に独占されていました。
しかし、技術の発展により、今ではローカルな条件にも簡単に適用できるようになっています。GMOに対する期待は、現在のように大量の農薬・化学肥料を使わずに、少なくとも現在の生産性を維持できるような作物を作ることです。こうしたことが実現すれば、自然にとっては確実なメリットとなります。究極的には、現在のバイオテクノロジーは、より栄養価が高くしかも生産性の高い作物を作ることができる可能性があり、このことは、農業に適していない土地を他の用途、たとえば野生生物の保全などにより多く利用できるようになることを意味しています。
しかし、もちろんGMOが生物多様性に危機をもたらす可能性があることも事実です。たとえば、遺伝子組み替え技術は、農業に適していない土地でも育つ作物を作り出すことに使われる可能性もあります。そうすると、農業に適さなかったために守られてきた自然が破壊されるようになるかもしれないのです。また、多くの人は、殺虫剤を含んだGMOのオオカバマダラ(アメリカ大陸原産の大型の蝶、長距離の渡りをすることで知られる)に対する危険性について聞いたことがあるかもしれません。
しかし実際には、オオカバマダラの減少は、越冬地であるメキシコの生息地の破壊がより深刻な原因となっているのです。他のものと同様に、GMOは『コンサベーション』にとっては、メリットとデメリットがあるのです。
従って、我々の課題は、いかにメリットを最大化し、デメリットを最小化するということになります。このためには、予防的アプローチ(precautionary approach)と適応的管理(adaptive management)が必要となるのですが、この考え方のもとで現代社会の諸課題に実際に対処していきながら私たちは学んでいくのです。〜気候変動に関する日本の科学者による本(「温暖化に追われる生き物たち」堂本暁子+岩槻邦男[編]1997 築地書館)がIUCNから昨年終わりに英語で出版されました。〜
これは、IUCNの前評議員、堂本暁子さんの貢献によって完成しました。私たちは、日本の科学者たちの温暖化に対する最も優れた思想を英語に翻訳したかったのです。私たちは、これは温暖化問題と国際理解の両方にとって重要な貢献であったと考えています。
多くの人々は、この問題について言及する際、温暖化の人間に与える影響についてのみ憂慮しています。しかし、すべての生物が、現在の気候条件に適応していることを忘れてはなりません。
極端な例をいえば、ホッキョクグマは北極圏の雪と氷原なしには生きていくことができません。もっとドラマチックなことは、気候が変わることによって、世界の多くの主要なハビタット・タイプが移動し、この移動によって多くの種が絶滅するかもしれないということです。すでに絶滅の危機に瀕しているような種や、比較的狭い範囲にしか生息してないような種は、こうした気候変動によるダメージを大きく受けることは間違いないでしょう。〜その他、現在『コンサベーション』に関するテーマであなたが関わっている主なテーマを教えてください。〜
私はまた、世界の5大石油メジャー企業とともに、石油やガスの採掘・生産とその生物多様性に与えるインパクトの関係を探るプログラムを開始したところす。この議論でのポイントは、我々は間違いなくエネルギーを必要としていること、しかし、どのようにしたら生物多様性の破壊を最小限にくい止め、また、どのようにしたら『コンサベーション』に対する貢献を最大化できるかという点にあります。
同時に、私はWHO(世界保健機構)とハーバード大学メディカルスクールとの共同プログラムを開始しました。これは、生物多様性と人間の健康に関する研究です。この研究によって、植物をベースとした薬の貯蔵庫である自然を保全することの重要性や、人類がエボラ出血熱等の新たな病原菌が隠されている熱帯雨林の奥深く進入していったときに何が起きるのか、そして、環境の健全さと人間の健康の関係などを明らかにしていきたいと考えています。
そして、残りの時間を使って、私は生物多様性と紛争に関する研究を続けています。ここでのポイントは、軍というのが社会に対して、また、従って生物多様性に対して大変大きな影響力を持っているということです。
私たちは、コンゴで兵士の食料をまかなうために密猟が自由に行われたり、ベトコ
ンの隠れ場所を排除ためにベトナムの森林に枯れ葉剤がまかれたり、ソビエト海軍によって核廃棄物が北極海に廃棄されたりする例を通じて、戦争が生物多様性に対してもたらすネガティブなインパクトを良く知っています。しかし、その一方で軍は、保護管理下におかれた非常に広大な土地を保有しており、その中には生物多様性の保全に対して重要な貢献をしているというケースもあるのです。
私たちは、生物多様性保全のための活動をIUCNの地域オフィス、国家オフィスを通じて全世界で展開しつづけています。それぞれのオフィスがそれぞれの生物多様性プログラムを持ちながら、それらは、私がコーディネートしているここ、IUCN本部でひつにつながっているのです。そうです、私は世界的な生物多様性に対する危機を理解し、『コンサベーション』を進めるため、それをいかに可能性に変えていくかというすばらしい試みをしているのです。〜あなたは、UCLAで人類学を、ロサンジェルス動物園で動物学を学んだそうですが、どうしてそのような2つの異なった専門を選んだのでしょうか。〜
私は、確かにUCLAで人類学を学びました。しかし、ロサンジェルス動物園では、私は単なる動物の世話係にすぎませんでした。大学院に通いながら、夜は動物園で動物の世話をしていたのです。つまり、夕方5時から朝の5時まで動物園で動物の世話をし、昼の間は人間について学んでいました。
しかし、6年間の動物園での経験によって、私は動物に対する理解を深め、また、彼らに対して畏敬の念を抱くようになりました。
ある夜、私はうっかりシベリアタイガーの檻の扉を閉め忘れてしまいました。すると一匹の虎が檻から出てきて、非常に落ち着いた様子で私を見つめました。まるで、“餌をやったあとに、扉を閉め忘れるな!”といっているようでした。あなた方は、動物の飼育係が動物を人間のように扱い始めたのだというかもしれません。しかし、こうした生き物たちと日々接しているなかで発見したことは、彼らにもまた感情や個性というものがあるということなのです。
けれども、私が人類学と動物という組み合わせから学んだもっと重要なことは、『コンサベーション』というのはほとんどが人間の側の問題であって、野生生物の問題ではないのだということです。
我々が変えることができるのは、多くの場合人間の振る舞いのほうです。生物に対する理解やより一般的にいって生態学は、私たちががより良い方向へ人類の振る舞い方を変えるためのガイドとして役に立つかもしれません。けれども、『コンサベーション』にとってもっと重要なことは、人間の行動や文化、モチベーションに対する理解を深めることなのです。〜その後、12年間アジア各国でフィールド調査に関わったということですが、その時の印象的なエピソードがあれば教えてください。〜
私は1968年にUCLAを去り、インドシナ戦争のさなか、ピースコープのボランティアとしてタイに赴きましたそして、タイ政府とともにタイ南部の遠隔地で学校のための上水道システムを作る仕事に関わりました。これは私にとって、実際に森の中に入り、動物園で世話をしていた動物と実際に彼らが生きている自然の中で接することができたという意味で非常に良い経験でした。
そうしているうちに自然と、当時タイの保全活動のリーダー的存在であった、医師であるDr. Boonsong Lekagul氏と知り合うようになりました。彼はすばらしい才能を持った人で、一時期は著名なゲームハンターでもあったのですが、その後保全主義者、バードウォッチャーに転身したのです。
彼は、タイで初めての野鳥ガイドブックを作ったのですが、そのガイドブックには彼が自ら描いた850種の鳥の絵と羽の模様、鳴き声、フィールドの中でどのようにその鳥を見つけたらよいかというヒントが書かれています。彼は、この仕事を医師としての活動を続け、さらに2人の息子をアメリカの医師学校に送るかたわらでやり遂げたのです。
私が彼と会うためにバンコクを訪れたとき、彼はタイのほ乳類に関する本を作る仕事を一緒にしようと誘ってくれました。その後5年間、私はタイ全国を巡り、野生生物の生息地を訪れ、写真を撮影し、調査を行い“Mammals of Thailand"(「タイのほ乳動物」)という本を出版しました。この本には、タイのほ乳類262種すべてが、多くは写真とともに850ページにわたり記述されています。
もう一つの思い出は、私のタイ滞在中に友人とともにアジアの知りうる限り最も遠隔の地域を訪れた時のことです。私たちが向かったのは、エベレストの東側のヒマラヤだったのですが、最も近い道路から2週間も歩かなければたどり着けない場所でした。
この経験から私が学んだことは、アジアではどんな場所にも人々が住み続けてきたということ、またこうした遠隔地では、人々は事実上貨幣というものを持っていないにも関わらず、家族の強い絆と敬虔な信仰、自然との強い結びつきの中で、とても豊かな生活を送っているということでした。私は、同時にこうした人々がいかに健康で頑強であるかということも知りました。なぜなら、最も近い病院でさえ一週間以上もかかる場所にあったからです。
私は、同様に戦渦の収まってきたインドシナで、ラオス、カンボジア、ベトナムの国立公園システムのデザインを手がけました。
しかしこれらの仕事が終わったタイミングは悪いものでした。外国の軍隊が引き上げた後、これらの地域では政治的な混乱が起きていたのです。しかし、その後約25年がたった今、私が保全上重要であると特定したエリアの多くは、現在では保護地区に指定されています。
私は、またインドネシアで3年間過ごし、WWF-IUCNのインドネシアプログラムの立ち上げに携わりました。これは、WWFとIUCNにとって初めてのカントリー・プログラムであったと同時に、この魅惑的で自然の豊かな国のその後の保全活動の重要な基礎を築きました。
私は、アジアでの12年間の経験から多くのことを学びました。人間は、自然と共生しながら生きることができるのです。私は、特にスマトラ島の沖合にあるSiberut島にとても魅了されました。Siberut島はバリ島と同じくらいの大きさの島ですが、4種の霊長類が生息し、その中にはその小さな島にしかいないテナガザルの種やボルネオ島のテングザルの近縁種も含まれています。
けれども、もっと興味深いことは、Siberut島に住む18,000人の人々が、これらの霊長類を狩猟し食料とする生活を数千年も続け、にもかかわらず、これらの種は豊富に生息していたということでした。Siberut島の人々は、これらの霊長類を長期的に絶滅の危機に陥れることなく、狩猟を行う方法を発展させていたのです。〜IUCNで20年間で活動し、経済と生物多様性などさまざまな新しいアイディアを提示すると同時に、生物多様性条約の創設に深く関わってこられました。〜
わたしは、IUCNでの20年間の活動をとても楽しんできました。
この間、私は「人間は自然の一部である」、「保全を成功させるためには地域の人たちの参加が不可欠である」といったようないくつもの新しい重要なアイディアが広まっていくのを見てきました。また、文化の多様性は生物の多様性と根底的に関連しているという考え方を広めることにも成功しました。
同時に、『生物多様性』という概念自体を広めることにも成功しました。これは、社会的、経済的、政治的、生物学的な概念を一つに結びつけた斬新な考え方でした。
私たちは、また、『コンサベーション』に経済を統合するということに対して大変な努力を払い、1988年には『経済と生物多様性』という本を発表しました。こうしたことから、今ではIUCNはエコノミストを持つに至っています。
私たちは今、経済的な手法によって保全を進めていくための新しいアプローチを開発しています。これらのアプローチは、グリーン税を含むだけではなく、不適切な行動に対する経済コストについてより慎重に考察されています。
たとえば、政府によって農業、漁業、林業、エネルギー産業に支払われている補助金は、年間1.9兆ドルにものぼります。このうちの1.4兆ドル以上の補助金は、環境にダメージを与えていると推計されています。従って、私たちがもし、この補助金をより正しい方向へ、たとえば、生産量を最大化するのではなく持続可能な利用を促進するような方向へ使うことができるならば、生物多様性にとって大変大きなベネフィットを生むことになるでしょう。
私は、『コンサベーション』に対する世界的な支援がとても大きくなっていることを感じています。今では、世界中の人々が、自然の保全が開発の不可欠な要素であるということを理解しています。
私たちは、こうした意識を醸成することに成功しました。ですから、私たちがいま
取り組むべき課題は、こうした意識を実際のフィールドで実現へと移すことなのです。〜将来の目標や夢についてお聞かせください〜
私の夢は、人類が必ず迎えるであろう変化に対応していくために、人々が私たちの惑星の多様性、つまり生物と文化の多様性の重要性をしっかりと認識するということです。この多様性の中にこそ、自然の一部としての私たち人類のこの惑星での役割を見つける鍵が隠されているのです。
注:マクニーリ氏は、「世界遺産条約」「ワシントン条約」「生物多様性条約」などの保全に関する国際条約に技術的支援を行い、「レッドリスト」を発行する等で知られるIUCN(世界自然保護連合)のチーフ・サイエンティストであり、生物多様性保全における世界的リーダーの一人である。
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