ビジネスとバイオダイバーシティ 第二回
IUCN新事務局長アキム・シュタイナーインタビュー
聞き手 古田尚也まず最初にお伺いしたいことは、なぜIUCN(国際自然保護連合)の事務局長になろうと考えたのでしょうか?
私は経済学を学び、途上国の開発の分野で仕事をするようになったのですが、次第に持続可能な開発にとって、自然資源管理と環境の持続可能性が中心的な問題であることを認識するようになりました。そして、これが何年も前に、私がIUCNの活動に関わるようになった最初のきっかけです。
より最近では、『世界ダム委員会』 の事務局長として、経済的な目標、持続可能性に関する目標、社会公正に関する目標を巡る対立や衝突を解決していくという経験の中で、膨大な数の科学者、実務家、ポリシーメーカーのネットワークを擁するIUCNが、他の国際機関とともに国際社会や企業が直面しているさまざまな課題に実際的なソリューションを与え、彼らを助けていくことの重要性を確信するようになったからです。企業は、環境問題に対してどのような貢献ができるのでしょうか?
企業による貢献は、様々な分野で可能です。まず、企業は社会的に、また環境の点から、責任のあるアクターとなることが重要です。今日では、多くの企業は、企業活動を国際的に行うようになっています。これは、企業が異なった法制度や環境基準のもとで、経済活動を行うということを意味します。企業の第一の責任は、企業活動を行う様々な国、市場、社会において、緩やかな環境基準があったとしても短期的な利益目標達成のためそれを良しとするのではなく、常にベスト・プラクティスと最高の基準を適用することにあります。
また、企業は様々な分野における技術革新の最前線に立っています。したがって、企業は、環境配慮型の技術を異なった国や産業分野間で移転するという大変重要な役割を担っています。
そして、環境配慮型のマネジメントは、企業が自主的に導入する方が、第三者が強制するより、ずっと早く浸透します。そして、そのためには、企業は社会との対話、自主的な環境基準の引き上げや行動指針の導入により一層力を入れることが重要す。現在、IUCNは企業とどのような関係を持っているのでしょうか。
IUCNと企業との関係は近年急速に拡大してます。同時に、扱う問題の種類や産業分野も多岐にわたるようになっています。例えば、私たちはWBCDS(World Business Council for Sustainable Development)とのパートナーシップによって、企業はどのように生物多様性の問題にとり組むべきであるか?、また、ビジネスにとって生物多様性条約がどのような意味を持つのか?といった疑問に答えるガイダンスを提供しています。また、IUCNの『CEOフォーラム』では、保全にとり組む人たちと企業との間で、来るべき課題についてハイレベルでの戦略的対話を行う場を提供しています。様々な産業セクター、例えば鉱業や林業セクターとともに活動しています。さらに、世界銀行と共同で開始した『世界ダム委員会』では、ダム建設を巡る、さまざまな経済的、環境的、社会的議論を集約し、対立を最小化しながら最大の投資機会を実現するための、新たなガイドラインと基準を提案しました。
もう一つ例を挙げましょう。IUCNは、『キジャニ・イニシアチブ』 という名の取り組みを通じて、環境に配慮した活動を行っている企業に投資したいという潜在的な投資家の資金と、生物多様性保全に資する実際のプロジェクトを結びつける場を提供しています。
つまり、私たちは、個々の企業の活動や基準を向上させると同時に、投資や企業の資本といった資金フローに影響を与えるという両面から、持続可能な発展というコンセプトが、実際に地上で実現するよう努めているのです。WSSDにおける企業の役割について、どのように考えていますか?
来年、南アフリカで開催される『持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)』は、すべての人にとって大変重要なイベントです。リオ会議の10年後に開催されるこの会議は、私たちが何を達成し、何を達成できなかったかを吟味する絶好の機会です。実際、一部の企業や市民社会、コミュニティーは、リオ会議以降、大変大きな前進を遂げました。その一方、政府は、コミットメントの点や実際の取り組みの点で多くの場合遅れをとっています。
様々な意味で、市民社会と企業は来るべき10年の環境と持続可能な開発に関するアジェンダを決定し牽引していく上で、主要なアクターです。従って、市民社会と企業が真摯に対話を行い、そして、共同でこのアジェンダを形作っていくことが大変重要なのです。
また、グローバルに活動を広げ続けるアクターである企業は、社会責任、環境責任などに関して社会が提起する疑問に、より一層積極的に答えていく必要があります。そして、こうした議論を後ろ向きなものと考えずに、より積極的な機会としてとらえていく事が重要です。企業は、様々な方法でグローバル環境ガバナンスをサポートするために建設的な役割を果たすことができます。例えば、生物多様性条約を遵守するという公約を行うこと、WEO(World Energy Council)等を通じてCO2排出削減に対する自主行動を進めること、FSC(Forest Stewardship Council)などの環境認証システムに関する取り組みをサポートすることなどによって、企業は、様々な自然資源に関する二国間、多国間の取り決めをサポートすることができます。また、これは、同時に企業が持続可能な開発に関するアジェンダに真摯にとり組んでいるということを示すことにもつながるのです。
確かに、過去10年間には多くのサクセス・ストーリーがありました。しかし、実際には、全体から見ればほんのわずかな数の企業しかこうした取り組みを行ってこなかったのも事実です。そして、取り組みを進めてこなかった大多数の企業は、単に環境問題に先進的にとり組んでいる企業の存在を脅かしているだけでなく、現在グローバライゼーションを巡って生じつつある様々な対立や衝突を引き起こす原因となってさえいるのです。最後に、IUCNと企業との今後の協力関係に関するビジョンを聞かせてください。
IUCNと企業とは、お互い得意分野を生かしながら、協力するという関係が作れれば良いというのが私のビジョンです。つまり、企業は、保全活動を第一の目標として活動している組織ではありません。しかし、企業活動は環境に対して大きなインパクトを持っています。また、企業活動は保全活動にとってポジティブなインセンティブや機会を提供する可能性があります。一方、IUCNのコア・コンピタンスは、商品の製造やサービスの提供ではなく、日々の経済活動に持続可能な開発や保全活動を統合していくためのナレッジやコンセプト、アプローチを提供することにあります。IUCNと企業の関係は、まずこうした認識に基づくことが必要です。今後3年間で、IUCNと企業の間の対話とパートナーシップをより一層強め、我々が直面している環境問題に対する責任を共有し、その課題を解決するための様々な可能性を開花させていきたいと考えています。
保全に取り組む者にとって、企業とのパートナーシップを強化する以外に道はありません。企業にとっても、保全に取り組む人々との建設的な関係を探る以外に道はないのです。この道こそ、我々が将来のために探し、試みるべき唯一の道なのです。アキム・シュタイナー(Achim Steiner)プロフィール
ブラジル生まれドイツ人。オックスフォード大、ロンドン大、ハーバード大で経済学、地域開発、経営学等を修める。東南アジア、アフリカ、米国等でIUCN、GTZ等の草の根レベルからグローバルな政策レベルまで、幅広いプロジェクトに従事。その後、世界ダム委員会の事務局長等を務め、2001年6月 IUCN事務局長に就任。
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