パーマカルチャーに見る持続可能な社会への試み


パーマカルチャーとは、ビル・モリソン氏によって提唱され展開されてきた、「人間にとっての恒久的持続可能な環境をつくり出すためのデザイン体系」のことである。パーマカルチャーという語そのものは、パーマネント(permanent永久の)とアグリカルチャー(agriculture農業)との合成語であると同時にパーマネントとカルチャー(文化)の合成語でもある。この背景には、文化とは永続可能な農業と倫理的な土地利用という基盤なしには長く続き得ないものであるという認識がある。
パーマカルチャーのデザイン体系では人間の生活環境を構成する植物、動物、建物及び水、エネルギーなどの各要素がうまく共生し、全体として生態学的に健全で、経済的にも成立するようなデザインが目指される。このために、植物や動物の持つ多様な機能とその場所や建物の自然的特長を生かし、お互いの要素が相互補完的に協調できるるようなデザインを実現することで、最小限の土地を利用して都市部にも田舎にも、生命を支えていけるシステムを作ることを目指している。
こうしたパーマカルチャーの具体的なデザインの方法については、文末に挙げた文献等に示されているほか、パーマカルチャーのデザイン原則に従って世界中で行われている事例については参考資料として挙げた文献や関連するホームページ、ビデオ等で紹介されている。本稿では、筆者が実際に訪れたニュージーランドのパーマカルチャーファームである「レインボー・バレー・ファーム」を通して、パーマカルチャーというデザイン体系の持つ可能性について考察してみたいと思う。

■レインボー・バレー・ファーム
「レインボー・バレー・ファーム」は、ニュージーランド最大の都市オークランドから北に約80kmのMATAKANAという小さな村に位置する。この農場の主でありデザイナーであるジョー・ポラッシャー氏は、建築、有機農業など様々な職業に従事しながら、アフリカを中心に多くの国で長年過ごしたのち、1983年にニュージーランドに移住した。彼はパーマカルチャーのサイトデザイン、建築、教育等の学位を有し、現在それらの講師等も勤めている。
約90年前に開墾されたこの農場は、当初羊や牛の牧場として使われていたが、彼と彼の妻であるトリシュ・アレンがこの農場を手に入れた11年前、農場は放棄され、建物も、家も、道も無く、一面ゴースというとげのある灌木とキクユグラスという雑草に覆われていた。彼らは、始めトレーラーハウスで生活をしながら、アクセス道、電気、電話、池、橋、パッシブソーラーハウス、作業小屋やコンポストトイレなど徐々に農場の整備を進め、1996年には現在の形が完成した。また、農場内に毎年約1000本の木を植え続けた結果、表土の流出もくい止められ土壌は徐々に豊かになってきたという。

□ゾーニング
農場は、パーマカルチャーの原則に従ってゾーニングが行われている。中心のゾーンには住居が配置され、次のゾーンには、ハーブ・ガーデンや温室、鳥小屋などが配置されている。三つめのゾーンにはエディブル(食べることのできる)・ランドスケープとして果樹園が設けられ、様々な鳥が放し飼いにされている。その周辺のゾーンは、あまり手をかけなくていいような果樹や、牛や豚などの大型の動物を飼うための場所である。さらにその周辺に、森林や野生動物などの自然を保全するゾーンが設けられている。パーマカルチャーでは、この様に利用頻度や管理にどの程度の手間が必要なのか等を総合的に勘案しながら慎重にゾーニングが行われる。

□健康に優しく、環境と調和する住居
農場の中心に位置する住宅は、南からの冷たい風を防ぐため、北向きの斜面に建てられ、家の北側には小さな半円形のハーブガーデンと菜園が設けられている。また、家の中には一日中光が入るような配慮がなされており、太陽の光は熱として床や土の壁に蓄えられ部屋を暖かく保つ。また、この家の材料として使われている木材は、ほとんどが農場内で生育していたの樹木から得られたもので、古い住宅の柱を再利用したものもある。また、壁には農場の土で作った日干しレンガ等が用いられている。
さらに、アルミニウムやプラスチックのようなエネルギーを大量に使って作られる素材や製造時に汚染物質を作り出すような素材の使用は避けら、ホルムアルデヒドのような人体に有害な物質による室内環境汚染を防ぐため、ベッドや寝具の素材にはウールやコットンなどの天然素材が使われている。
また、屋根の上には草花が植えられており、暑さを柔らげ雨水を一時的に蓄える役割を持っている。暑い日でも、屋根の上のスプリンクラーをつければ、室温は4度も下がるのだという。

□水の供給・排水処理システムと魚の養殖システム
農場で使う水にはすべて湧き水が用いられ、重力によって供給されている。まず、湧き水は砂利と砂を通り、沈殿池に蓄えられる。そこから、いったん2万リットルの容量を持つタンクに導かれ、フィルターを通して住居やガレージ、果樹園などに供給される。また、住居等から出る排水は、池に入る前にアシなどによって、窒素やリン、重金属が除去され、最後は農園の中を流れる小川に戻される。
農場内に設けられた複数の池では、現在数種類の魚が飼育されている。上流の池では小さな魚を、下流の池では、マスや鯉などのより大型の魚が飼育されている。これらの魚は、食用、飼料、雑草管理などの役割を果たしている。また、果樹園のかんがいに使った後の水をためる池では、うなぎや食用の貝類、魚等が飼われている。

□動物のシステム
レインボー・バレー・ファームでは動物も様々な役割を果たす。例えば、鳥は様々な害虫をントロールするとともに、卵や肉を食事に提供する。そのために、チャボ、キジ、ホロホロ鳥、七面鳥など十種類の鳥が飼育されている。
豚は、果樹園の雑草や害虫をコントロールすると同時に、肉やベーコンの材料となる。
牛は、新鮮なミルクを毎日提供すると同時に、そこからチーズやヨーグルト、クリーム、バターなどが作られる。また、その糞尿はコンポストの材料となる。蛙は害虫を食べ、犬はオポッサムなどの天敵から鳥を守り、猫は鼠を捕まえる。農場で飼っている蜂は、受粉に役立つと同時に蜂蜜を集める。

□植物のシステム
レインボー・バレー・ファームでは、植物は7つの階層にわけて植えられ、これらの階層の相互作用によって、微気象がコントロールされている。まず、地下はジャガイモやアーティチョークなどの作物が育つ。地上の低い所には、サラダ用の野菜やハーブ、花などが植えられ、その上をベリー類などの低潅木が占める。さらに、バナナやわい性の果樹、ヘーゼルナッツなどがその上を覆う。この上に、マメ科の植物やアーモンド、クリなどの樹木の層がある。さらにその上には、ヤシ、アカシアなどの樹木が覆っている。これらの樹木は、風や霜を防ぎ、粘土質の堅い土を柔らかくし、窒素を固定し、薪や蜂蜜、マルチの資材、害虫を食べる鳥の住処を提供する。最後は、これらの樹木の幹を蔦うブドウやパッションフルーツ、カボチャ、マメなどの植物である。
これらの様々な植物の多くは、食べられる実をつけるため、スーパーで果物を買わなくても、季節に応じて様々な果物を収穫することができる。冬になると時には霜が降る日もあるが、ここでは桃やプラム、リンゴ、柿、サトウキビなど亜熱帯から温帯まで様々な種類の植物が育っている。これは、様々な植物を組み合わせることによって太陽の熱をうまく取り込み、保つような工夫がなされているからだという。

□チキン・ホットハウスシステム
パーマカルチャーのデザイン思想を具現化した、ユニークな仕組みの一つにチキン・ホット・ハウスがある。チキン・ホットハウスとは、鶏小屋と温室が隣合わせに作られたもので、鶏の体温の熱を温室に利用しようというものだ。鶏小屋は寒い南側に、温室は温かい北側に面しており、ネットで仕切られている。また、鶏の排泄物に含まれるアンモニアも温室を温めることに貢献する。この温室では、様々な作物の苗や樹木、果樹の苗が育てられている。

■エコデザインとしてのパーマカルチャー
レインボー・バレー・ファームに見られるようなパーマカルチャーデザインの特徴の一つは、デザインを構成する要素の多様な機能を理解し、すべての要素が相互補完的な循環と共生を構成するように慎重な配慮が行われている点にある。例えば、ある樹木の下で育つハーブは樹木につく害虫を遠ざける役割を果たし、また別の木は、空気中の窒素を固定し、土を豊かにする。鳥は害虫を食べ、その糞と尿は植物の肥料になるかわりに、木は種や果実を鳥に与える。こうした生物の持つ多様な機能をうまく活用したデザインが行われているため、レインボー・バレー・ファームでは、農薬を使わなくても、鳥や虫、植物等生物のダイナミックなバランスで害虫がコントロールされているのだという。
こうしたパーマカルチャーのデザインの考え方は、多面的な機能のある一つの機能だけに注目し、その機能を効率よく発揮させるためにはそれ以外の機能を犠牲にしたり、系の内部での効率の向上のためにその矛盾を系の「外部」へと押しやってきた近代的なデザイン手法へのアンチテーゼとも言えよう。また、このような考え方は、建築の分野における「エコロジカル・デザイン」(バンダーリン/コーワン1997)や他の産業の分野における「産業エコロジー」(グレーデル/アレンビー1996)等のコンセプトとも呼応しているように思える。こうした様々な分野で同時多発的に始まった、いわばエコロジカルなデザインの潮流について、山本は「エコデザイン」(山本1999)という概念を提唱しているが、パーマカルチャーも大きくはこうした「エコデザイン」の潮流と軌を一にしているように思える。
パーマカルチャーのデザインの持つもう一つの特徴は、伝統的な農業や生活に見られる知恵の中から現在の科学的な知見に基づきデザイン原則を見つけだし、それを新しく体系化している点にある。これは、ポラッシャー氏の「私は、第三世界に長く住み、ブッシュマンやアマゾンのインディオ達が行なっている驚くべきサステイナブルな生活の知恵を学んできたので、パーマカルチャーはを理解することは難しいものではなかった。」という言葉からも裏付けられる。
このようなパーマカルチャーデザインが持つ2つの特徴は、地球環境問題によって系の「外部」が消滅したことによって、近代以前の社会が有していた閉鎖型社会の知恵が再び見直されつつあることの徴(しるし)として理解することも出来る。
我が国では、とかく外国の概念や制度がそうしたものが生まれた背景や文脈を無視して流行のように持ち込まれる傾向があるように思う。パーマカルチャーについてもそうした恐れが十分にある。しかし、パーマカルチャーというデザイン手法の持つ意義を十分に理解するならば、我々のなすべきことは、日本の伝統社会の中ではぐくまれてきた自然と共生する知恵を現代の目で再発見し、日本型の持続可能な社会のデザインを構築し、世界に向けてそれを発信していくことにあるように思う。「江戸」という偉大な循環型社会を作り得た日本人が、「エコデザイン」の分野で世界に貢献することができる可能性は、私たちが考えている以上に大きいのではないだろうか。

【参考・引用文献等】

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