環境で世界の都市をリードするトロント市の最新動向


自他共に環境先進都市を任じるカナダ、オンタリオ州の州都トロント市。1980年代にはいち早くCFCの禁止を宣言し、1990年代に入ると2005年までにCO2を1988年のレベルから20%削減する目標を設定しトロント大気基金を設立するなど、常に環境分野で世界の都市をリードしてきた。また、北米で最も公共交通が発達し、自転車利用の盛んな都市としても知られている。このように、環境分野で常にイニシアチブをとり続けるトロント市の最新動向を現地に取材した

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トロント市はカナダの南東部で最大の人口を抱えるオンタリオ州の州都であり、オンタリオ湖にのぞむ風光明媚な都市である。トロント市は、20世紀半ばから急速な発展をとげてカナダの金融、商業、工業、文化の中心地となり、現在では近隣の地区をあわせカナダ最大の都市圏を形成している。また、トロント市は、1998年1月1日に周辺の5つの市を合併し、人口240万人の新トロント市として再出発した。
トロント市は、早くからCO2の削減に取り組んでおり、1997年には、ICLEI(国際環境自治体協議会)によって1990〜96年にかけて世界150都市の中で最もCO2排出量を削減した都市にランキングされた。また、TTC(トロント市交通局)により運営される、バス、地下鉄、路面電車の統合された公共交通システムを有しており、北米で最も公共交通が発達した都市といわれている。自転車の利用も盛んで、コンパクトな都市構造と相まって歩行者優先の街づくりが行われている。

■世界の都市をリードするトロント市の温暖化への取り組み
1988年にトロント市で開催された「変化する地球大気に関する国際会議」をきっかけに、トロント市のCO2削減への取り組みは始まった。この会議での提案を受け、1990年には2005年までにCO2排出レベルを1988年レベルから20%削減することをいち早く定め、トロント大気基金を設立した。1991年には市のエネルギー計画とCO2削減計画を担当するエネルギー・エフィシエンシー・オフィスを創設し、1993年にはCO2削減のための戦略的アクションプランを採択するなど、トロント市はCO2削減の分野で積極的な取り組みを続けている。この結果、1997年にはCO2換算で2.5百万トンの削減量を達成している。トロント市がCO2の削減で着実な成果を上げているのは、エネルギー・エフィシエンシー・オフィスとトロント大気基金、CO2削減のための戦略的プログラムの三位一体となった取り組みがあったからだ。また、トロント市庁舎の中に本部が設けられているICLEI(国際環境自治体協議会)との緊密な連携関係も成功の一因であろう。新生トロント市では、新たに2005年までに1990年と比較してCO2の20%削減を目標に掲げている。

■CO2削減のためのトロント大気基金
トロント大気基金は、1992年にトロント市が所有していた資産の売却による2千5百万ドルの資金をもとに設立された。トロント大気基金は、地域における温暖化防止ガス削減に関する取組やプロジェクトに対して資金やローンを提供するものであり、行政機関とNPOがともにこの基金を利用することができる。また、CO2削減プロジェクトに対する資金貸し付けによる収入によって、無償資金提供の原資を得ている。トロント市では、こうした基金の裏付けをもとに効果的にCO2削減のための戦略的プログラムを実行に移しているのである。
トロント市のCO2削減に関する戦略的アクションプランは、次の5つのプログラムから構成されている。
1)市が所有するビルの改修
2)新築および既存のビルに対するエネルギー効率と省エネ基準の導入
3)全ての商業ビルおよび住居ビルに対する総合的な改修プログラム(Better Building Partnership)
4)地域冷暖房システムの導入
5)土地利用/交通への取組
この中で、特に注目されるのがBBP(Better Building Partnership)プログラムである。BBPプログラムは、古いビルを改修し、エネルギー効率を高め、温暖化ガスの排出削減を目指したものであると同時に、ビル改修に関する新しいビジネスを作り出そうというものである。このプログラムは、トロント市、トロント大気基金、公益企業、エネルギーコンサルタント(ESCO)などと共同で行われている。また、これには都市のビルの室内環境の改善を図る狙いもある。このプログラムによって、ビルのオーナーはテナントに対してより魅力的な商品を提供することが可能になったうえ、年間6百万ドルの経費節減にもつながったという。さらに、この取組によって、年間6万トン以上のCO2の削減と年間1800〜3000人の雇用の創出が達成されるとともに、トロント市は北米におけるエネルギーコンサルティングビジネスの先進地ともなった。このように、環境と経済の両立(WIN-WIN)を積極的に目指していることが、トロント市の環境政策の一つの特徴と言えるだろう。

■インタラクティブな環境教育
トロント市のエネルギー・エフィシエンシー・オフィスでは、インターネットを使った新しい環境教育プログラムが始められている。これは、インターネット上に掲載されたアンケートに市民が答えることによって、トロント市の「エコロジカル・フットプリント」の試算を行おうというものだ。エコロジカル・フットプリントとは、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学のウィリアム・リース教授らの研究グループによって開発された持続可能性(サステイナビリティー)を図るための指標で、特定の地域の経済活動、または、そこに住む人々の生活を永続的に支えていくために、どれだけの生産可能な土地が必要かと言うことを測定し、ヘクタールなどの面積単位で表現するものである。これによると、全世界の人々がトロント市民と同じ生活をするためには、地球が3つ必要であるという。

■サステイナブル・トランスポーテーションを目指して
トロント市の公共交通の歴史は1861年に、9kmの軌道と11台の車両によって始められた路面電車にさかのぼる。今日、TTC(トロント市交通局)は合計すると2500km以上の営業距離を持つ路面電車、バス、地下鉄を有し、平日は一日130万人以上が利用する。しかし、北米で最も優れていると言われるトロント市の公共交通システムは、一朝一夕にできあがったものではない。1948年に北米で5番目の地下鉄が建設され、1966年に策定された最初の交通計画が「道路と公共交通のバランスのとれたシステム」をコンセプトとしていたことから、その後の公共交通機関の導入が容易となった。市の交通計画を担当するスー・ジーリンスキー氏によれば、トロント市では、かつて高速道路の建設が市民の反対により何度か中止を余儀なくされたことがあるという。結果的にこれが功を奏し、都市が比較的コンパクトに保たれてきた。また、公共交通網を計画的に整備し、周辺の土地利用を高度化するよう誘導を行ってきた結果、利用者にとっても利便性が高いものとなっている。彼女は、このような公共交通と土地利用に関する良い伝統が好循環を生んでいると自慢する。
昨年の6月には、持続可能な交通の経済波及効果に関する国際会議がトロントで開催された。持続可能な交通は、経済的にもメリットがあると彼女は言う。例えば、鉄道の導入は関連産業を活性化し、自転車の導入促進もレンタル業や修理業を生む。歩行者専用モールは商店街の活性化と関連し、燃料電池自動車にも大きな経済波及効果が期待できるという。ここでも、環境保全を新産業創造につなげようと言う積極的な姿勢が伺える。

■新たな環境計画策定に向けて
1998年に周辺の6つの市を合併した新生トロント市は、タスクフォースチームを編成し、今年の秋の完成に向け新たな環境計画の検討を行っている。ここでは、持続可能な交通が地域経済に与える好影響や都市内におけるグリーンツーリズム、再生可能エネルギーの利用など様々な新しい可能性についての検討が行われており、野心的な内容になるものと期待されている。今後とも、トロント市の動向から目が離せない。


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