英国シティーファーム&コミュニティーガーデンの現状
〜失業対策や環境教育の拠点として〜
この夏、英国のシティーファームとコミュニティーガーデンをいくつか訪れる機会を得た。英国では都市の中のこのような農業的空間が、野生生物の貴重な生息地として、子供達に対する環境教育の場として、また失業者や知的障害者の訓練の場として多面的な機能を果たしている。ここでは、その中から印象に残った事例をいくつか紹介したいと思う。
■バーミンガム・エコパーク
ワイルドライフ・トラストは、1912年に設立されたチャリティー登録団体で、英国全土に46の支部と約33 万人の会員を有し、全国約60,000haの自然保護地区を管理する自然保護団体である。ワイルドライフ・トラスト・フォー・バーミンガム&ブラックカントリーは、このワイルドライフ・トラストグループの一地域組織である。現在、同トラストの会員数は約2,500名。他のトラストと異なり、都市部に残された自然を保全し、都市部の生物の多様性(Biodiversity)を回復することに力点をおいて多様な活動を行っていることが特徴となっている。![]()
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「バーミンガム・エコパーク」は、同トラストの都市における農的空間回復の一つの試みである。かつて牧場であった約1haの遊休地を市から年間約40万円で借り受け、責任者のアンディー氏と8人のボランティア、訓練生で整備と管理を行っている。1993年から彼らの手によって、敷地の中に池、森林、果樹園、野菜畑、種苗場など様々なタイプの生態系が再生されている。このエコパークのねらいは、自然の回復とサステイナブルな農業を実践し、デモンストレーションすることにあるという。ビオトープと有機農場が融合したような場所といったらわかりやすいかもしれない。このため、2つの池を造成し淡水生物やトンボを呼び戻すとともに、植木鉢を逆さまにして土に埋め込み蜂の住処を作り出したり、トカゲなどの住処を用意したりと野生生物にとって住みやすいような空間づくりが目指されている。同時に、様々な果樹が植えられた果樹園が作られ、野菜などが育てられている。また、こうした生態系の回復や農場の造成のために、近隣のコミュニティーから発生する生ゴミや芝や枝などからコンポストが作られ、園内に施されている。なお、この農場は英国の有機農業認証団体であるソイル・アソシエーションの認証も獲得しているそうだ。さらに、ここでは園芸に関するトレーニングや教育といった活動が行われているほか、ロンドンのキューガーデンに保存されている種子の更新作業も請け負っている。また、近々パーク内に風力発電施設を設置し、池の水を汲み上げて園内の灌水に利用するというプロジェクトも進行中とのことであった。![]()
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同トラストでは、このほかにも環境教育施設「センター・オブ・アース」の運営や「エコレコード」と呼ばれる地域の動植物のデーターベースづくり、地域の植生調査や森林の調査、池の調査、自然保護地区の管理、自治体と一緒になり生物多様性アクションプランやローカルアジェンダ21を作成するなど様々な活動を行っている。また、こうした活動が地域住民、企業、BTCVやグランドワークトラストなど他のチャリティー団体と連携しながら実施されていることが大きな特徴であるといえよう。![]()
■ミーンウッド・バレー・アーバン・ファーム
ミーンウッド・バレー・アーバン・ファームは、英国中部の都市リーズ市の郊外に位置するシティーファームである。20年前にキャビン一つで活動を開始して以来、これまで確実にその活動を多様化し充実させてきた。現在では、子供達への環境教育、有機農業による新鮮で安全な食料の提供、失業者に対するトレーニング等の様々な活動を行っている。約7haあるファームの敷地内では、豚や鶏、羊が飼育されているほか、有機野菜を作る農場、一般の人に貸し出しをしている市民農園の区画、昨年完成した環境教育施設EPI センター、農場でとれた有機野菜や鶏卵などを販売するショップ、カフェなどの施設も整備されている。なお、同ファームの敷地は、市から年間1ポンドという破格の値段で借り受けているのだという。![]()
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同ファームのこうした幅広い活動を支える収入源は、主に5つある。一つは、失業者に対して職業訓練を施すことで政府から得る収入。現在、同ファームは夏期の間、15名のスタッフによって運営されているが、このほかに30名程度の失業者が有機農業や園芸の技術に関する職業訓練を受けている。なお、知的障害者も10名程度ファームの手入れを行うために雇用されている。二つ目は、農場からとれる農作物の販売収入。同ファームは、1987年にシティー・ファームとしては初めてソイル・アソシエーションの有機認証を受けており、ここでとれた農作物は比較的高い値段で売れるのだという。英国でも有機農作物は人気があるようだ。三つ目は、入場料。同ファームの入場者から、大人1ポンド、12 才以上の子供0.5ポンド(12才以下または会員は無料)の入場料を徴収している。四つ目は、地域の学校の授業で利用してもらうことで得る収入。半日コースから、一日コースまで約10のプログラムが用意されている。このほかにも、ユAnimobileユと呼ばれる、動物たちを学校に連れて行くサービスやガイド付きのツアーも行っている。五つ目は会員からの会費。会員となっている個人会員や学校の子供達は自由に訪問することができるほか、ガイド付きのツアーや教育プログラムなどが割引される。
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ファームの入り口には、昨年、環境学習施設「EPIセンター」が整備された。EPIとは、Environment, Pollution, Inspirationの頭文字をとったものである。EPIセンターは、その建物自体パッシブソーラーの考え方を取り入れ、屋根を芝で緑化し、排水をリードベッドで浄化する仕組みを備えるなど環境に配慮したつくりとなっている。建物の内部には、会議室や図書室、環境問題を題材とした子供向けのビデオゲーム等が備えられている。この施設は、整備に要した費用の半分を宝くじ基金から、残りの半分を市役所や企業などからの寄付でまかなったのだという。
同ファームでは、このほかにも絶滅の危機に瀕している家畜種の繁殖活動をレア・ブリード・サバイバル・トラストとの共同事業として実施している。このように有機農業を核にしながら20年の歳月をかけながら、着実にその活動を多様化し、発展してきている点がこのファームの特徴であるといえる。![]()
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■ヒーリー・シティーファーム
ヒーリー・シティーファームは、英国中部のシェフィールド市の郊外に位置するシティーファームで、1981年に開園し、園内には、羊や馬、牛、豚などのための牧場や農園、温室、池、苗木や花を販売する施設、小さなカフェテリアなどの施設が整備されている。シェフィールドは、英国の中でも特に失業率が高い地域として知られており、このファームのある地域も低所得者層や失業者が多く住む地域となっている。![]()
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同ファームの特徴は、ここが全英に広がるコミュニティー・コンポスト・ネットワークという組織の拠点となっていることだ。コミュニティー・コンポスティング・ネットワーク(CCN)は、全英に150の会員を持つ全国組織である。ここ、ヒーリー・シティーファームで行われているコミュニティー・コンポストの活動は以下の通りだ。周辺の約150戸の家庭に小さな生ゴミを入れる容器を配り、毎週月曜日にそれを回収する。各家庭から回収された生ゴミとファームで発生する動物の糞や雑草の刈草などをあわせてコンポストづくりを行う。また、秋には市が集めた落ち葉をここに運んできて、それもコンポスト化しているという。ここで作られたコンポストは、このファーム内で使われる他、小さな袋に詰めてショップでも販売されている。このコミュニティーコンポスト活動の狙いは、最終的には地域のコミュニティー・ビジネスとして成立させ、雇用を確保することにある。このために、事業の立ち上げにあたってはEUからの補助があったそうだ。ちなみに、現在このファームでは30人が雇用されている。このほかに、常時20〜30人の失業者と20人程度の知的障害者が園芸や動物の世話などに関する訓練を受けており、これがファームの主な収入源になっている。なお、他の事例と同様に、このファームでも周辺の敷地を利用して環境教育施設の建設が進められていた。![]()
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■まとめ
近年、日本では全国で大規模な「農業公園」と称される施設が公共主導によって数多く整備されているが、ここで紹介したシティーファームやコミュニティーガーデンは、そうした我が国の施設と比較すれば非常に簡素なものである。しかしその一方で、英国におけるこれらの活動が、もちろん公的な支援は得つつも草の根的にNGO(チャリティー団体)が主体となり続けられている点、長い期間をかけながらも徐々に機能や活動を拡充しているという点、地域住民や自治体、他のNGO、企業等と様々な形でパートナーシップを形成しながら活動を行っている点などが興味深い。これは、我が国と英国の市民社会(シビル・ソサイエティ)の成熟度の差ということなのであろうか。
もう一つ、英国ではこうしたコミュニティーガーデンやシティーファームが、都市の中における貴重な自然を提供するという役割だけはなく、社会的・経済的なサステイナビリティーの実現のための役割を担っている点が印象的であった。すなわち、子供達に対する環境教育や失業者や知的障害者などの訓練や社会参加等の場、コミュニティーにおける貴重な雇用の場の提供という役割を果たしているのである。もちろん、失業などの問題などが日本以上に深刻であるという背景があるだが、英国では地域社会が抱える様々な困難な課題を克服し、持続可能なコミュニティーを作り上げていくための「触媒」として、コミュニティーガーデンやシティーファームが確実に地域の中で確固たる位置を占め、また、期待と役割を担っていることを感じた。
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