このページも並木でもまちづくりでもないページです。自分の好きな本をランダムに書き込んでいきます。本の内容は新刊とは限りません。自分が読んで面白いと思った本の独善的感想です。
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2001年10月5日(金)
深川澪通り木戸番小屋(講談社文庫)
作者:北原亜以子
発行:講談社
先日隅田川を川沿いに歩いているうちに、江戸時代は大川と呼ばれていて、向こうには本所や深川の世界が拡がっている、と思うと深川を書いた本を読みたくなりました。
本所深川と良くいいますが、今では本所には江戸の情緒はあまりなく、深川には何となく江戸のまちが残されています。
「深川中島町は三方を川でかこまれていて、木戸番小屋は町の南を流れる大島川沿いの、俗に澪通りと呼ばれる道の端にあった」。これは原作からの引用ですが江戸切絵図を見ると本当に大川に近い世界です。
深川は江戸時代、物流のために運河を開削したので、江戸のベニス的な風情だったのでしょう。
この小さな木戸番小屋に笑兵衛とお捨という老年にさしかかった夫婦が木戸番をやっています。笑兵衛は武士のようにがっしりした体で、お捨は太っていますが色が白くとても木戸番の女房のように見えない上品さを持っています。
夫婦の生活はすれ違いで、夜は主人が木戸の管理をしたり、夜回りをします。奥さんは昼間内職の草鞋、蝋燭、手拭いなどの雑貨を売っているのです。この木戸番小屋に様々な人が訪れます。この作品は連作短編集です。一遍毎に問題を抱えた人間が木戸番小屋を訪れ、夫婦の暖かい気持ちがすさんだ人間関係を解きほごしていきます。
最初の火消しの勝次は火事で手に火傷をして、火消しができなくなり、命を張った人生からはずされてすさんだ生活になって行きますが、それを救ったのが女衒に売られようとしている少女です。この中で夫婦は表に出ませんが重要な役割を果たします。
全編がこのような人情の綾の中で生きている江戸の世界を描いていますが、説明するよりも読んだ方が面白いでしょう。木戸番夫婦がなぜここにいるか。昔大店をやっていたとか、武士だったとかいろいろ噂されていますが、最後に姿が見えてきます。これを読んでなるほどという感じになるのです。いつも高い声で笑っているお捨さんはもうすぐ50歳になるとは思えないすてきなキャラクターです。
19.
2001年10月3日(水)
さらば、荒野(角川文庫)
作者:北方謙三
発行:角川書店
この本をこの段階で取り上げる気はなかったのですが、「るぶぶ」の講演で澤さんが北方謙三を読み、ハードボイルドの気分で親の介護を行った、という話と、本屋で「男たちの荒野」ブラディ・ドール読本という解説書がありましたので、それを読んでからこの本を書くことにしました。
作者はハードボイルドのチャンドラーやロス・マグドナルドは知らずにデビュー作「弔鐘はるかなり」を書いたようです。編集者にいわれ、ロス・マグナルドの感じでこの本を書いた,といっています。ただし、10作のシリーズになる予定はなかったようです。
もちろんこのメインの主人公は川中という高級クラブ「ブラディ・ドール」のオーナーなのですが、シリーズ毎にメインのキャラクターが現れ川中は脇で活躍するのです。そのためこのシリーズのメインは高級酒場「ブラディ・ドール」ということになります。
静岡県のどこかの都市に流れついた川中はダンプカーの運送から始めて、今はクラブやキャバレーを持つこの都市では少し力のある実業家になっていますが、あまり、仕事に打ち込むわけでも無く、弟が持ち込んだトラブルを体を張って背負い込みます。
とにかくこの世界の男達は生き様が格好いいのです。この小説でも何人が死んでいきますが、あまり生きることに固執しない男達の生き様です。このシリーズでかなり重要なサブキャラの藤木というヤクザは全国に廻場が回っていますが、トラブルに対して非常にクールです。すぐ熱くなる川中を助けています。
また、川中の敵か味方かわからない弁護士宇野、事故で腎臓を失い透析を受けなければ生きていけないので「キドニー」という名前を川中がつけましたが、相当癖のある人物です。このような男達が弟の持ち出したマイクロ・フイルムを巡って戦うのです。最後は大型船と川中の持つ小さなクルーザーとの戦いが駿河湾で行われます。
まさに澤さんが読んだ世界です。ただ、このシリーズは最後の方は人間の表現がパターン化して飽きてくる感じがしますが、私も全部読み、解説本も買ったくらいですから、面白い本なのです。
18.
2001年9月28日(金)
定年ゴジラ(講談社文庫)
作者:重松清
発行:講談社
最初に読んだ時、人に借りた本だったし、カバーがかかっていたので、作者の名前は殆ど記憶にありませんでした。読んだ印象は今私の住んでいる団地の10年後の世界と思い、楽しく深刻に読みました。
今度文庫になったので購入し、作者の名前を見て驚きました。なんと、子供のいじめ等の問題を正面から取り上げている今年ビタミンFで直木賞を受賞された重松清さんだった、のです。なぜ、驚いたかといえば
この小説の主人公は全て定年退職した人達なのです。重松さんは主人公の子供に近い人ですが、このような定年をすぎ時間をもてあましている人達をこのように書けるとは思いませんでした。
話はニュータウンが主人公です。この都心から2時間かかるニュータウン「くぬぎ団地」は第1次から分譲を開始して第5次まで分譲した1戸建ての団地です。町会長は第1次の分譲で定年組の先輩でもうすぐ70歳になろうかと
という人です。主人公は第2次分譲地で定年を迎えたばかりのノンキャリアの大手銀行員です。後のサブキャラとして、中卒ながら単身赴任をしながら関西地区の切り込み隊長として活躍した野村さん。この人は
関西地方の方言、大阪、岡山、博多等の方言を使いながらしゃべる面白いキャラクターです。もう1人は主人公の同世代でこの団地開発に直接関わった電鉄会社不動産部の藤田さんです。結婚した頃は夢だった一戸建て住宅の団地も年を取り、あまりにも整然としながら高齢者対応になっていないこの団地に関する様々なお話です。私にとってもニュータウンに住んでいる皆様にも人ごとではないのです。伝統的に形成された町ではないニュータウンには
何故か人間味のないいかがわしさを感じます。開発した藤田さんはゴジラとなり叫びながら団地を破壊します。これがタイトルになっていますが、開発する人達の宿命があり、もの凄く共感します。
宣伝部にいた町会長はこの団地のホームページを作ろうとしています。何か今私のやろうとしていることが、全て見抜かれているような、さすが重松さんの鋭い小説です。
17.
2001年9月25日(火)
そして誰もいなくなった(ハヤカワ・ミステリ文庫)
作者:アガサ・クリスティー
発行:早川書房
ミステリーの女王クリスティーの作品です。1939年の作品ですから相当昔の話ですが、この本のファンは多いようです。話はインディアン島に集められた10人が誰もいなくなる、というお話です。
ベースにあるのはマザー・グースの詩で「10人の小さな黒ん坊」です。
- 10人のインディアンの少年が食事に出かけた
1人が喉をつまらせて、9人になった
- 9人のインディアンの少年がおそくまで起きていた
1人が寝過ごして、8人になった
- 8人のインディアンの少年がデヴァンを旅していた
1人がそこに残って、7人になった
- 7人のインディアンの少年が薪を割っていた
1人が自分を真っ二つに割って、6人になった
- 6人のインディアンの少年が蜂の巣をいたずらしていた
蜂が1人を刺して、5人になった
- 5人のインディアンの少年が法律に夢中になった
1人が大法院に入って、4人になった
- 4人のインディアンの少年が海に出かけた
1人が燻製のにしんにのまれ、3人になった
- 3人のインディアンの少年が動物園を歩いていた
大熊が1人を抱きしめ、2人になった
- 2人のインディアンの少年が日向に坐った
1人が陽に焼かれて、1人になった
- 1人のインディアンの少年が後に残された
彼が首をくくり、後には誰もいなくなった
とても童謡とは思えない詩ですが、インディアン島には10個の黒人の人形がありました。集められた人は公の裁判では裁けない罪を背負った人達です。
ここまで書けば話の流れはおわかりでしょうが、タイトルがそこまで書いてあるのですから、無人島でどうして誰もいなくなった、のかがこの作品の面白さです。
しかし、この作品をパズラーとして読むよりもサスペンス小説として読んだ方が面白いと思います。どうせクリスティーにだまされるのならばあまり考えずにこの本を楽しんだ方が良いと私は考えます。
16.
2001年9月17日(月)
A−10奪還チーム出動せよ(新潮文庫)
作者:S.L.トンプソン
発行:新潮社
今回は冒険小説です。当然、ギャビン・ライアルやアリステア・マクリーンの方がこのジャンルの中心にいるのですが、私はこの本が好きなので世の中から消えないうちに取り上げてみました。
消されかけた男と同じようにまだベルリンの壁があり、東西ドイツが争っていた時代のお話です。
主人公マックス・モスは偉い親父に反発し、空軍除隊後この奪還チームに参加します。この小説は東西両陣営がお互いに逆の陣営に軍事連絡部を置き、ここを基地にして敵地を高度にチューンアップされた車で走り廻るというだけの話です。
まず機械というより男達とA−10Fという飛行機とフォード・フェアモント5000CCの車が同じ主人公でいることです。前者のA−10Fという飛行機はパイロットとジーザス・ボックスというコンピューターが一体となって機能し、NATO軍の演習では一機で地上軍を全滅させる破壊力を持っています。しかし、ミグ25戦闘機5機と戦い
2機は撃墜しますが、残り3機に追いつめられ東ドイツ領土内に激突します。この時定期的巡回をしていた、マックスとその相棒アイク・ウイルスンが落下点近くにいて、相手より早くAー10Fの落下地点に到着します。パイロットは死んでしまいますが、ジーザス・ボックスは無事でした。これはソ連がどんな犠牲を払っても取得したい秘密兵器なのです。
しかし、回収中に同僚のウイルスンは重傷を負い、マックスは一人になります。この時マックスは初めて巡回に出たのです。もちろん土地勘もわかりません。かすかに子供の頃住んでいた記憶があるだけです。この計画をつくったソ連情報部の幹部はヘリコプターで空中から東独人民警察はBMWでフォードを追いかけるのです。執拗な敵の追撃を孤独な
マックスは運転技術と知恵で戦うのです。この本の面白さはこのカーチェイスにあります。東西冷戦なんかどうでも良いのです。追いかける方も逃げる方も必死です。マックスは無事に奪還に成功するでしょうか。
15.
2001年9月10日(月)
池波正太郎の銀座日記(新潮文庫)
作者:池波正太郎
発行:新潮社
池波さんの代表作といえばテレビドラマでも評判になった「鬼平犯科帳」や仕掛け人シリーズ「藤枝梅安」、そして「剣客商売」のシリーズも最後まで続いた作品群です。また、「真田太平記」やその周辺の作品を好む人も多いでしょう。
しかし、私は池波さんのエッセイが好きです。食べること、映画を見ること、旅行してスケッチを描くことを気軽に表現するこの作者のエッサイはなかなか面白い。この作品は銀座のPR史に連載された作者のエッセイが全て収録されています。
この本が凄いのは、毎日のように銀座へ出かけ、映画の試写会をみてから、おいしい店でお酒を飲み、しっかり食べて家に帰り、また、家で夜食をしっかり食べて仕事をし、朝眠りにつくという時から、酒も飲めなくなり、食事も減り、夜も早く寝るような状態になり、やがて死を迎える少し手前までの作者の生き様がしっかり書かれていることです。
試写会の終わった後銀座の煉瓦亭にいきカツレツとビールを飲んだ後の言葉「なんとなれば、いまの私はカツレツ2枚を食べてしまうと、後に食べようとおもうハヤシライスが、腹へ入り切れなくなってしまうからだ。」。小食の私に取ってあの量の多い煉瓦亭でこれだけ食べ夜食を取るというのは信じられないですが、これが池波さんのエネルギーだったのですね。
映画の批評の中で、このページで取り上げた「ディーパ」と「麻雀放浪記」が取り上げられ評価が高かったのはとてもうれしく感じました。気学を信じ、この年を乗り越えればと、思っていた作者に取って、67歳の死は残念なものだったに違いありません。しかし、自分を最後まで表現できた作者は幸せだったし、この本を読んでから晩年のシリーズを読む読者に取って、作品の持つエネルギーの差が良くわかるとエッセイだと思います。
14.
2001年9月3日(月)
天使と宇宙船(創元推理文庫)
作者:フレドリック・ブラウン
発行:東京創元社
この奥付を見ると初版は1965年になっています。今から36年前に翻訳されたSFとファンタジーの中短編集です。この本の紹介もだんだん古くなっていくようです。しかし、SFの最初はブラウンで行くと決めていました。
当然、アシモフやクラークの作品がSFの本流だと理解していますし、彼らの作品も大好きですが、私はこのブラウンが何故か好きなのです。この人は多彩な人でミステリーも書いていますが、やはりSFがとても面白いのです。
特にこの本で秀抜なのは「ミミズ天使」です。結婚式を直前にして夢が一杯のチャリーが(この辺はさすがに古い表現)が釣りに行くためにミミズを掘っていると、ミミズに突然後光が射し頭にリングを着け、天使の翼をつけて空高く飛んで行ってしまいました。
雨の中で日射病にかかり、博物館の銅貨がコガモにかわり、ゴルフ場のロストボールがハワイのレイになり、突然エーテルをかがされて意識を失うチャーリー。当然精神異常と診断され結婚も駄目になった男が出した答え。私はこれはパズラーとしても
最高の作品だと思いますが、きっと認めてくれないだろうな。しかし、この謎解きはあっと驚くような見事な解決になっているのです。この他にも面白い作品がショートショトを含めて充実しています。
例えば、「諸行無常の物語」はある男による人格を与えられた印刷機が原稿を渡せば勝手に印刷してしまう話ですが、組合関係の本を渡すと労働条件を持ち出したり、恋愛小説を渡すともう一台の印刷機を要求します。しかし、この印刷機は全て制御不能になるように自己防御してしまうのです。
そこで取った手段がタイトルなのです。
この人のアイデア、ユーモア、メルヘンは短編に力が発揮されていますが、私の好きな多次元宇宙を扱った「発狂した宇宙」があります。人の進む道は自分の選択により違う宇宙が出来ていくと、というブラウンの哲学が良く表現されていてこれを取り上げたかったのですが、我が家に本が見つかりませんでした。
もうかなり前に故人になりましたが、何度でも読んで見たい作家です。
13.
2001年8月25日(土)
消されかけた男(新潮文庫)
作者:フリーマントル
発行:新潮社
奥付を見ると1979年に発行されているスパイ小説です。このジャンルは英国が最も優れた作品を生みだしていると言われています。ロシアがソ連だった頃の東西が緊張していた時のお話です。
やはりこのジャンルではグレアム・グリーンが先行していますが、晩年の「ヒューマンファクター」は地味ながら心に残る作品です。また、映画され話題になったジョン・ルカレの「寒い国から帰ってきたスパイ」という名作もあります。
さらに、あの007のイアン・フレミングも英国の人です。しかし、私はこの主人公「チャリー・マフィン」のこの作品をスパイ小説の一押しとして取り上げます。訳者で解説を書いている稲葉昭雄さんがいうように、これはサラリーマン小説といってもおかしくない内容です。
不祥事によりトップが交代した情報部ではチャリー・マフィンは不要な存在です。そのためにベルリンの壁を越える時に消されかけたのです。エリート集団とグラマースクール出身の主人公は今の日本の霞ヶ関と同じです。本当のプロであるノン・キャリアの主人公が自分の好きな情報部に対して
ソ連の重要人物の亡命に対してどう動くのかが、この小説のメインテーマです。当然、だましあいの世界ですから何が起きてもおかしくないのです。しかし、部屋を取り替えられ、タクシー代も削られ、減給されるチャリー・マフィンはどのような戦略を採るのか最後までわからない
いかにもだましあいの世界に生きるプロの生き様がとても面白い小説です。彼はいつもくたびれた格好をしています。これについて彼はこう答えています。「このせいで、みんなは私を軽蔑する。人間ってやつは、自分が軽蔑している相手を疑ったりしないものだ」。しかし、このスタイルでTOPの秘書を愛人にするなどこの男は出来るのです。
このシリーズは人気になりますが、この作品を越えることは出来ないようです。
12.
2001年8月17日(金)
ブラウン神父のシリーズ(創元文庫)
作者:G・K・チェスタトン
発行:東京創元社
今回は本格派ミステリーの紹介です。現在でもさまざまな作者が推理小説を書いています。いろいろなトリックや謎を提供していますが、これは本格推理小説の正しい系譜を知らないと書けないのです。
同じトリックを使えば、この世界に詳しい人達により批判され作家活動に致命傷を残す可能性があります。少し面倒ですが、ミステリーの祖である、エドガー・アラン・ポーから始まり、シャーロックホームズのコナン・ドイル、ヴァン・ダイン、エラリー・クイーン、アガサ・クリスティー、ディクソン・カー等を読んで下さい。
そして、地味ですがここにあげたG・K・チェスタトンのブラウン神父のシリーズを読んで下さい。手元にあったので2作目の表紙を使いましたが、是非1作目の「ブラウン神父の童心」から読んで下さい。この後の順番はあまり気にしなくともよいのですが、1作目の神父のデビューは非常に卓抜です。中味を書くわけにはいけないのですが、丸顔の田舎から出てきた無知な神父が大泥棒をだますのが話が、非常に新鮮な楽しさを与えてくれます。
都築道夫さんは何かの本で、このシリーズは毎年読み返すと書いてありました。それほど、様々なトリックやツイスト(ひねり)に満ちた作品群です。ポーもそうですが、ブラウン神父は本格ミステリーの基本を全て創ってしまったのではないでしょうか。このアクロバチックな文章を堪能すればあなたは本格派ミステリーの良き理解者となれます。
このシリーズは短編ですが、他に「木曜の男」という素敵な本があります。逆転に次ぐ逆転で最後はとんでもない結論にいたる、ファンタジー小説に近い面白い作品で、私の自分で作るミステリーベスト10にいつも入れています。さらに、奇商クラブ等の数少ない短編集がありますが、この作品群もブラウン神父と違う、逆説に満ちた作品です。
11.
2001年8月9日(木)
男たちは北へ(ハヤカワ文庫)
作者:風間一輝
発行:早川書房
この本ほど文庫になるのを期待していた本はなかった。最初、図書館で借りてから自分の手元に置きたいと強く感じた本です。
話は単純で、自転車で青森へ向かう主人公と、ヒッチハイクで青森に向かう少年の物語なのです。このサイドストーリーに自衛隊の機密文書の紛失があり、それを拾ってしまった主人公を防衛庁の職員がまた自転車で追いかけるという話が付いています。
しかし、やはりアル中である主人公が(たぶん作者そのものと予測される)が関東平野を抜け、山のある大きな東北地方を乗り越える戦いが圧巻です。少年も高校受験のトラブルを乗り越えるために北へ向かいます。主人公の動機はやはり友人が自転車で行き、
北海道をみたけれど、そこまで行けなかったという悔しさの話がベースにあります。この友達の死を途中で知ることになりますが、主人公は何を考えたのでしょう。アル中でもあまりビールが好きでない主人公のドライブイン等の食事の内容がよく出てきます。
また、そこで接する人との人情を書き込んでいます。また、背広を着ながら裸足で歩く男も出てきます。みんな少し変わっていますが、自分の目的を持って純粋に生きています。この生き様の明確さがこの本の良さなのでしょう。書き出すとキリがないので、後は青森についた主人公と少年と自衛官の邂逅まで、この本は素晴らしい。
「大間崎で、目の前に北海道が見えたのです。本当に手が届きそうなところに北海道がありました。渡りたい。ここまで来たら、北海道へ渡って見たいーーーー」という少年の言葉に、主人公から涙が出てきます。何故かはこの本を読んで下さい。まだいくつか紹介したい本があります。しかし、風間さんは故人となってしまいました。
ユニークなイラストレーターだった風間さん、もう少し書いてもらいたかった。
10.
2001年7月27日(金)
花の百名山(文春文庫)
作者:田中澄江
発行:文藝春秋
山を愛し花を愛した作者の百名山です。もちろん百名山は深田久弥さんの「日本の百名山」が嚆矢となる本でしょう。彼の本は堂々たる山を描いていますが、田中さんの本は花と山と歴史が混然となっていて、その中に鋭い文明批評があります。
最初は殆ど名前の判らない花の名前に圧倒されましたが、私みたいに花の名前がわからない者でも、高尾山、大楠山、大山、あるいは御岳山、大岳山、雲取山など、関東近郊の山が多く描かれています。
今回再読してみて自然にたいする田中さんと、その自然につながる人間の優しさの本質に触れていることに気づきましたので引用させていただきます。
高尾山「一ころ植物の会の仲間に入って、1いろ1茎に限って、千メートル以下の山地の花々を採取した時期があったが、1年がたち2年たちして、花も小さく葉も小さくなってゆくホタルブクロやフシグロセンノウを見ると、無抵抗の弱者を自分のたのしみのために、幽閉し虐待している悪代官
のような気分になって来て、この10数年来すっかりやめてしまった。植物学者でもなく、花になぐさめられ、花に安らぎの思いを与えられて感謝しなければならない身は、こちらから山にでかけて、花にあわなければならぬと思いこむようになった。」
三頭山「(知的障害を持つ高校生世代のグループを引率して)第5回目のハイキングに清澄山をえらび、帰りにはフラワーガーデンを訪れ、料金を前払いして、折から咲きさかる朱や赤のポピーを、20本ずつとっておみやげにするようにと言った。私達の山中間はせっせときまりの数通りのポピーを、
蕾を選んで摘んだが、いずみ学級生25人は、花の中に立ったままでいる。一本も取ってないひとが多く、とっても咲きしぼんだものや、種子だけになったのを4,5本である。何故とらないの。早く早く。せき立てる私に、その一人が言った。可哀相でとれないよ、そしてみんながうなずいて、せっかく一生懸命咲いているのに、とっては可哀相と口々に言うのであった。
このやさしさ、何を標準に知恵おくれなどというのか。私は衝撃を受け、できれば2,3本も余計になどと思っていた貪婪な自分が恥ずかしくなった。」
私も最近まで山に登っていましたが、この本を読むと花を探しにまた登りたい、と思います。
9.
2001年7月19日(金)
都市ヨコハマをつくる(中公新書)
作者:田村明
発行:中央公論社
こんなページに俺の本を載せるとは、田村先生のお叱りを受けそうな、都市問題の真面目な本です。現在の主要な横浜のまちづくりのプロジェクトの根幹を作った人の、非常にエネルギーに満ちた本です。
横浜市民がまず感謝しなければならないのは、横浜関内地区を通る高速道路を地下化したことです。外部から横浜市に入り企画調整局を立ち上げた田村さんにとって最初にぶつかったのはこの高速道路の問題です。もし、計画どおりだとすれば、横浜の中心部を高架で高速道路が走ることになったのです。
東京の人、あるいは全国の江戸ファンの人が嘆く、日本橋にかかる醜悪な高速道路の二の舞になることを避けることができたのです。都市景観という明確な意志を持った田村さんの元の建設省との厳しい戦いの経緯が表現されています。彼の業務で6大事業が評価されていますが、もっと重要なのは役所の縦割り行政を崩す企画調整局を作ったことでしょう。
この組織の仕組みはこの本に部屋のレイアウトまで載せてありますので、是非ご覧下さい。しかし、今の横浜市には企画調整というセクションがありますが、田村さんのように行政の大枠をリードするよりも各部署の調整役、または雑用係になっているのは私の偏見でしょうか。
6大事業の内、MM21地区や港北ニュータウンは有名ですが、私の住んでいる並木地区もこの事業の一つで、三菱重工の移転の受け皿としてMM21の事業と大きな関係を持っているのです。その他アーバンデザインを主張し、馬車道や伊勢佐木町のデザインにかなりのエネルギーを注がれたのですが、現在の伊勢佐木町の凋落は寂しいものです。MM21の責任にするのではなく、田村さんのようなアイデアでまちを
再び活性化する方法を自ら発想しなければ衰退するばかりでしょう。この本を読むと田村さんが横浜市に果たし、なおかつ全国にまちづくりのモデルとして果たした役割が非常に大きいことがわかると思います。一度、地元の講演会にお招きしたとき、金沢自然公園を熱心に視察しておられたのと、金沢区の企画調整の職員に、仕事に対する取り組み方を熱心に指導されていたのが印象的でした。
8.
2001年7月16日(月)
ディーバ(新潮文庫)
作者:デラコルタ
発行:新潮社
奥付を見ると1983年の発行になっています。その後もあまり話題になっていないので本屋さんにはないでしょう。しかし、20年近く経っているのにもかかわらず、このポップでオシャレな感性は今でも十分通じると思います。私はジャズのファンですからこの主人公達の愛するクラシックの音楽の世界はイマイチですが、読者に音楽の良さを十分伝えてくれる本です。
ディーバは黒人の歌姫です。しかし、彼女はレコード化することを一切拒絶しています。その場の真剣勝負がリピートされることに我慢出来ない性格です。この歌姫のファンにジュールというバイクでパリを駆けめぐるメッセンジャーボーイがいて、彼の秘密兵器でライブ録音をしてしまいます。このテープを巡ってレコード会社の戦いが始まります。日本の会社は徹底的に悪者になっていますので国粋主義者の方は読まれないない方が良いと思います。
しかし、主人公は別なのです。アルバという14歳の素敵な女の子(万引きが得意)とゴルディシュという中年の男が主人公です。本当はディーバのテープで儲けようと考えていたのが、突然ヤクザの親分サポルタの悪行を納めたテープがジュールの手に入り、アルバを通してゴルディシュの手元についてから戦いが始まります。かなり、複雑なプロットですが、それをさらっとオシャレに書いたのがこの本です。あまり、日の目をみない本の紹介みたいですが、読んで楽しかったと言える本です。
7.
2001年7月13日(金)
高円寺純情商店街(新潮文庫)
作者:ねじめ 正一
発行:新潮社
この小説の凄いところは、この本により、商店街の名前をこの書名に変えて商店街の入口に掲げていることです。高円寺の何の変哲もない商店街を全国ブランドにする力は凄いです。たまたま、この話を取り上げたのはいつも行く新橋の「鬼平」という飲み屋の常連に呉服橋の鰹節問屋で育ったNさんと鰹節の話をしていたからです。彼女はカツオブシとは発言しないでカツブシといいます。
本の主人公の正一君は「江州屋」という、鰹節をメインの商品にする雑貨屋です。ここの鰹節は焼津から届きます。Nさんも鰹節も静岡が限界で房総になると食べられたものでは無いそうです。鹿児島から北上して来る内に体力を落としてしまうのでしょう。ですから、鰹節は鹿児島や高知が最高だそうです。
この時代は昭和35年頃正一君が中学の時代の話です。父親は俳句に凝っていて、仕事のピークが過ぎると句会に行くか、飲みに行ってしまう父親です。「ちくわの穴に 蝿とまる」という俳句を作って悦にいっている父に対して、母親は商品をそのように表現するのはおかしい、と文句をいいますが、文学上のリアリズムと開き直る父です。
この時代ですから油でてらてら光る蝿取りリボンが登場します。今の若い人がみたらその不潔さに驚くでしょうが、この時代には普通の光景です。昔の風景を惜しむのではなく、この時代の人情というものが良くわかる作品です。とにかく各編に面白いキャラクターが登場します。
6.
2001年7月11日(水)
小説浅草案内(新潮文庫)
作者:半村 良
発行:新潮社
今回は浅草の登場です。作者の半村良さんは伝記小説があまり好きでない私に取って殆ど読む機会のない作家の一人だと思います。
しかし、この本は、彼が下町の育ちで北海道の挫折から帰ってきて浅草に住み着いた話しです。見番の裏手の5階に住む作者の浅草案内なのです。自分の家から何分という形式でお店の紹介があります。
彼にはこの辺りに古い友人が大勢います。下町の人情が溢れています。引っ越しの後橘家円蔵師匠と作者が、経営者が一人の「旬」という店に行きます。
カウンターに7,8人しか入れない飲み屋に来て、円蔵師匠の「下足のおじさんはお休みなのーーー」に対して、店の人は「ええ、実家に不幸があったとかで」と答え、「やだね、浅草は。みんな芸を持ってやがる」という粋な世界なのです。
彼は日本下駄振興会・会長の名刺をつくり、下駄を履いてまちを歩いています。そこでの違和感のないのが浅草です。新しい焼き肉やの名前が、「国木屋」で、ひらがなで書くと「やきにく・くにきや」となる、洒落があります。私もこの本に従い何軒かの店に行きましたが、「傘屋」という店はみつかりませんでした。表に黒と朱の蛇の目傘が二本飾ってあり、それに古い通い徳利が一つ。入り口の上に<傘屋>という扁額だけ。
こんな粋な店にもいろいろドラマがあるのです。小説とタイトルがついてるので判断が難しいのですが、この本は浅草の人情を表現した素敵な本です。
5.
2001年7月7日(土)
浮世絵鑑賞事典(講談社文庫)
作者:高橋 克彦
発行:講談社
高橋克彦さんは多彩な人です。直木賞をもらったのはホラーだし、総門谷という伝記小説の名作もあるし、炎立つはNHKドラマの原作になりました。しかし、この人は「写楽殺人事件」で江戸川乱歩賞を獲得しました。他にも北斎、歌麿を主人公にしたミステリーがあります。なんといってもこの人の本筋は浮世絵がベストではないでしょうか。
私の場合、浮世絵は北斎の富岳三十六景と広重の東海道五十三次ぐらいの知識だったのですが、「写楽」が誰か、という解決のなかなかつかない本を読みつづけるうちに浮世絵がかなりわかるようになりました。この本は私のような初心者には素晴らしい文庫です。菱川師宣から鈴木春信の美人画から始まって、明治の小林清親まで著名な浮世絵が網羅されています。
この本をマスターし展覧会を少し見にいけば立派な浮世絵通になれると思います。私自身はまだこの本をマスターしていませんので偉そうなことは言えませんが。
私にとっては邪馬台国と写楽の謎は人生の最後まで楽しみたい謎ですが、この時代に生きた絵師や版元の世界を知ることも楽しみの一つです。もし、この本を読んだら是非「写楽殺人事件」も読んでください。浮世絵を楽しむ内に江戸の文化に興味がつながっていきます。私たちがどんな文化の上から現在の姿になったのか、明治維新とはなんだったのか考えることになります。
4.
2001年6月23日(土)
麻雀放浪記(角川文庫)
作者:阿佐田 哲也
発行:角川書店
この表紙はシナリオの麻雀放浪記です。和田誠さんで映画化されました。真ん中にいるのが「坊や哲」と呼ばれた阿佐田哲也です。しかし、この小説の面白さは主人公に無い点です。読んでいただければわかりますが、阿佐田さんの自伝小説であるとともに、戦後のどさくさを生き抜いた坊や哲のまわりのキャラクター生き様です。
私は麻雀は好きでしたが、その小説は読む価値が無いと思っていました。ところが、深夜番組でこの映画を見てこの本を読みたくなりました。一つにはその頃私の属していた日本冒険小説協会会長内藤陳さんが「おかまのオリン」で登場していたこともあります。ギャンブルは所詮だましあいですが、それに賭ける男達の熱い戦い。
その代表が映画では鹿賀丈史の演じる「ドサ健」です。麻雀のためには恋人も平気で女衒に売り飛ばすこのギャンブラーの生き方は鮮烈です。またその女を引き受ける女衒の達もいい味を出しています。彼も女の為にたたかうのです。戦いは全て麻雀ですが、この熱い戦いは麻雀を知らない人も楽しめる最高の娯楽小説です。
最後はインチキ賭博の天才「出目徳」の死で終わりますが、とにかく読んで損はない小説です。さらにこの小説は後三巻続きますが、坊や哲とドサ健の長い戦いの小説です。これを連載した週刊大衆が売り上げを伸ばしたのも納得できます。結局阿佐田哲也さんは色川武大の本名で直木賞を取りますが、私に取ってはこの作品が娯楽小説の最高峰だと思っているのでそれに対する評価が低いのが残念です。
1.
2001年6月14日(木)
ミミズクとオリーブ(創元推理文庫)
作者:芦原すなお
発行:東京創元社
私にとっては初めて読む作者です。もちろん「青春デンデケデケデケ」の本は知っていたのですが、何となく自分の範囲ではないと思っていました。この本はフクロウの好きな人から勧められて読みました。タイトルが童話じみてると思ったら、オリーブは女の子の名前ではなくオリーブの木だったのですね。そこに知恵の象徴であるフクロウの仲間ミミズクが止まって、主人公であるこの家の奥様に餌をもらうのです。ここまで書くとやはりメルヘン小説かというと決してそうではなく、立派で上質なミステリーなのです。ミステリーのジャンル分けをすれば、はっきりとした安楽椅子探偵ものなのです。解説の加納朋子さんが書いていますが、「ママは何でも知っている」の」ジェイムス・ヤッフェと比較しています。安楽椅子探偵というのはミステリーの読者なら立派なグループを作っていることを理解しています。現場に行かず、人の話を聞くだけで推理してしまう探偵で、アームチェアデテクティブを訳すと安楽椅子探偵になるのです。私は都筑道夫さんの「退職刑事」 のシリーズが好きです。と、いうことですが、この奥様は別に椅子に座っているわけではなく、八王子の一軒家に作家であるご主人と二人でのどかに暮らしている専業主婦なのです。しかし、奥様は主人の友達である刑事が持ち込む謎をたちどころに掴んでしまうのですが、それを実証するためにご主人が必ず現場に行くというのがこのシリーズの特徴です。また、刑事と夫婦の交わす会話が絶妙でこのとぼけた味が事件の暗さを救っています。ぽーぽーと鳴きながらオリーブの枝を階段を下りるように餌を食べにくるミミズクは最高です。
2.
2001年6月15日(金)
「灰夜」新宿鮫F
作者:大沢在昌
発行:光文社
新宿鮫は新宿警察のはぐれ警部である。警視庁のキャリア組でありながら、ある事件のために新宿警察へ出された硬骨な刑事である。
彼はいつも一人で行動し、地元のヤクザとの一切の取引を拒否し、検挙率が高いので「鮫」と呼ばれている。署での味方はこれも死んだ
ように生きている上司の課長だけだ。彼には若いロックバンドのリードボーカルの晶という恋人がいる。というプロフィールは最初の「新宿鮫」に描かれている。
いままで、六本木を舞台に小説を書いていた作者が初めて新宿を舞台にした傑作で、映画化されている。この作品を7冊目なので出来れば1冊目から
順番に読んで欲しい。鮫と晶の関係のうつろい等がよくわかるため。
「鮫」は正統派ハードボイルドの道を歩んでいる。ハードボイルドはハメットの「血の収
穫」から始まった。コンチネンタル・オプは名無しの探偵だ。オプは市長と警察と労働組
合とやくざを操りながら、事件の真相に近づいていく。この間に金に汚いがどこか憎めな
い豊満な美女の殺人の犯人とされたりしながら、すれすれの世界で私立探偵を全うしている。い
ろいろな評価はあるにしても、サム・スペードよりも、やはりハードボイルドの元祖はコン
チネンタル・オプとしたい。
この亜流としてビル・プロンジーニの「名無しのオプ」シリーズがある。最近はパットしな
いが、やはりハメットをひきずっている。もちろんチャンドラー(男の優しさを描いたらこの人のハードボイルドは最高)、ロス・マグドナルドという正
統跡継ぎはいるが、やはり、ハメットとは違う。
ハメットの影響は黒沢明の「用心棒」に及ぶ。明らかにヤクザ達の衝突を起こさせ、自
分も巻き込まれながら、自分の力で生きのびるヒーローはハメットの世界なのだ。三船
俊郎と仲代達也の対決のシーンはよかった。仲代達也もまだ若かった。さらに亜流とな
るのは、マカロニ・ウエスタンの「荒野の用心棒」がある。クリント・イーストウッドの若い頃
の姿はまさしくハメットの後継なのだ。
新宿鮫Fはこの血を間違いなく引いている。福岡の大手のヤクザとローカルのヤクザ、
県警と公安警察、麻薬取締役官、北朝鮮の帰化人と非帰化人、さらに特殊工作員。こん
な中で男の友情と女の愛に一人立ち向かう「鮫」はコンチネンタル・オプの後継者なの
だ。六本木を書いていた大沢在昌とは違う世界にいる。
日本のハードボイルドは生島治郎の「追いつめる」が最初のハードボイルドと言われて
いる。
その後は矢作俊彦の「リンゴー・キッドの休日」、軒上泊「べっぴんの町」、原ォ「さらば長
き眠り」北方謙三「弔鐘はるかなり」、風間一輝「漂流者」など日本にもハードボイルドの名作が続出しているが、現役で頑張っている大沢在昌の「鮫」に
拍手を送りたい。
(ハードボイルドの作品紹介なので文体を変えました。)
3.
2001年6月20日(水)
用心棒日月抄
作者:藤沢周平
発行:新潮社
暗い自分の情念が作品に滲み出ていた藤沢作品がこの作品を境にユーモアのあるものに変わっていった、と云われている作品。
藩主謀殺の密談を聞いてしまい、そのために許嫁の父を斬り藩を脱藩した青江又八郎。藩からの刺客におびえながら、江戸での生活のために用心棒稼業に明け暮れる。
用心棒稼業や日雇い労働を斡旋する口入屋「相模屋」のタヌキ顔の吉蔵。6人の子どもと妻を抱えて生活のために働くひげ面の大男細谷源太夫。このメンバーがサブキャラです。
世の中は元禄時代、犬公方と呼ばれた将軍綱吉の時代です。「生類憐れみの令」のため犬の用心棒が必要な時代です。当然元禄といえば赤穂浪士が登場します。
この小説のプロットの素晴らしさは全ての短編が赤穂浪士に関係しているのです。忠臣蔵のサイドストリーとして十分楽しめます。討ち入りの直前に吉良邸に用心棒として送り込まれた二人の運命は。
この連作は後3冊の本になりますが、この連作ではまだ目立たないののですが、次からは素敵なラブストリーがもう一つの話の軸になります。この連作は是非順番に読んで下さい。
時代小説が嫌いな人も周平さんを読んで下さい。現在の縮図が江戸時代に表現されています。
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