もっと知りたい「並木物語」

第3回(とんなんたい機関誌「東南西北」23号からの抜粋です)
並木近未来物語〜ドキュメント 80才になってみた〜

いつかその日は必ず来ます

このところ鏡を見るたびに増えている白髪や皺の本数を数えては、「寄る年波には勝てない……」とため息をついています。しかし、加齢に伴う身体機能の変化、特に機能低下の変化はごくごく自然のこと。問題なのは、視力の衰えや白内障、聴力の衰えなどに起因する情報からの疎外化と、それによる孤立化にどう対処するか、ということです。第3回目の講座では、「インスタント・シニア体験」を通じて、高齢者になったとき生活はどのように変化するのか、何が生活の支障となるのか、体験を通じて住み続けられる「まち」を考えて見ました。
「インスタント・シニア体験」は、様々な装具をつけて高齢期に起こる身体的な変化を体験するプログラムです。カナダのオンタリオ州政府が考案したもので、高齢者や障害者にとって住みやすい社会づくりを進めることを目的に作られました。
日本では日本ウエルエージング協会がライセンス契約を行い、普及を進めています。今回の講座には、日本ウエルエージング協会の研修を受けたかながわ福祉研究会の方を講師に、「インスタント・シニア体験」を通したまち歩きと、住み続けられるまちづくりについてのワークショップを行いました。

技あり!一台!!

「インスタント・シニア体験」に先だって、スティアエイドの試乗を行いました。これは、キャタピラ式の車椅子階段昇降機です。駅でよく見かける階段への据え付け型ではないので、個人の住宅等でもコンパクトに収納でき、階段の上り下りを必要とする場所での車椅子介助に威力を発揮します。このような福祉機器の開発・改良によって、介護のしやすさや住宅環境のバリアフリー化は、以前に比べるとかなり向上してきました。
エレベーターのない集合住宅などでは、「鬼に金棒」のこの機械ですが、よいことばかりでもありません。
まず、コンパクトに収納できるといっても、機械本体がかなり重い。我が家ではこれに似たステアチャアというものがあるのですが、機械の重さに耐えきれず、玄関の床が抜けてしまいました。本体の重量があるということは、出し入れの際、それなりの力を要することにもなります。また、車椅子の機械へのセット方法も、初めてスキーを履いたときのように結構手間がかかるなぁと感じました。慣れたら何でもないことなのかも知れませんが。
一番問題なのは、方向転換をするためにある程度以上のスペースが必要ということ。踊り場や廊下の広さによっては、使えないこともあり、なのです。今後もっと改良され使い勝手もよくなるとは思いますが、現時点では、これさえあれば階段もへっちゃら、いつでも、どこでも、だれにでも行きたい場所へひとっ飛び!という訳にはいかないようです。

ちょっと「すごい」装具です

いよいよ「インスタント・シニア体験」挑戦です。体験では、次のような装具をつけます。
@ゴーグル:目の老化である白内障、視覚狭鎖、水晶体の黄色化を体験する特殊ゴーグルです。
A耳栓:聴力の低下を体験します。
B手袋:ビニール手袋を二枚重ねにし、さらに、指をテープで固定します。
Cおもり:利き手に1kg、利き足に2kg、反対の足に1kgの重りを付けます。筋力が低下し、バランス力も低下した状態を体験します。
Dパッド:肘と膝にパッドをします。関節が曲がり難い状態を体験します。
装具を付けると、視野は狭い、よく見えない、よく聞こえないし、手の感覚も鈍くなっている、体全体が動きにくい……で、孤立感・孤独感が襲ってきます。  そして、いざまち歩きに出発!この日のコースは、「かかりつけの内科(眼科)の病院に行ったついでに、ちょっとお店を覗いて、スーパーでお茶菓子を買った後、家に帰る」という、ごくごく日常的なストーリーを体験してみました。体験にあたっては、2丁目6街区6号棟の皆さん、ビアレジャスコさんにご協力いただきました。

そこにあったのは、全く別のまち

で、「インスタント・シニア体験」をしてまち歩きをしたのですが。いやはや、です。
まず、視野が狭くなり、視界の黄色変化の影響もあってどこに段差が分からず、あちこに躓きそう。勢い足元ばかり見ることになって、周囲への状況判断が難しくなります。しかも、白内障のため日が当たる所は眩しくて、目を開けていられないくらい。まちの中にある案内板・看板などは、配色や活字の大きさ具合によって、かなり読み難くなってしまいます。
身体的バランスが悪くなって、筋力自体も低下しているので、2・3段の段差にも手すりが欲しい。階段は、登りよりもむしろ下りがしんどく、というより足元が怖く、トイレも洋式でないと使えません。そのトイレも、どれが水洗レバーなのか、説明が書いてあっても読めず、その前にどれが説明書なのか分からない。ちなみに、軽くて便利な携帯電話は、ボタンが小さすぎて操作が上手くできませんでした。
スーパーでは、特売のポップは読めましたが、通常の棚にある商品表示を読むのが骨でした。商品に印刷されている賞味期限や原材料などは読みとれず、ラップ包装してあるものは端が分からず開けられず、ついでに、人の流れに上手く乗れずに立ち往生してしまい、お願いどこかに座らせて、となりました。まさに、「もう一つの世界」の体験です。

白内障では日光に当たると視界が真っ白になるため光線を手で防いでいます。

並木の住宅は防水のため入口に3,4段の階段がありますが、車椅子には大きな障害です。

足が不自由な人に取っては貴重な手摺りです。並木ではかなり取り付けが進んでいますが、まだ、不十分です。
本日の大発見
<全体を通して>
  • 疲れた…
  • 足元を見ることで精一杯。
  • (孤立感から)言葉を発しない自分がいた。言葉を忘れてしまいそう。
  • 一人でしかも初めて並木を訪問することは難しいのでは。
  • 並木は決して「平ら」ではない。
<まちの中で>
  • 若者達が体験してくれた!
  • 怖いのは子どもの自転車。(音もなく抜き去っていく。)
  • 太陽のある方向に眩しくて歩いていけない。
  • サインが読みにくい。色がはげている。
  • 老々介護は、段差が分かり難く、かなり難しい。
<買い物をしていて>
  • 色の区別が付かない。
  • お金の落ちた音が分からない。
  • お金の区別が付かない。
  • ズボンの後ろのポケットに手が回らない。
  • 人混みではぶつかってけがをするのではと心配。
  • スーパーの値札読めず。
  • トイレの自動洗浄はありがたい。
  • 初めてのものは使えない。(説明文がどこにあるか分からないし、あっても読めない小さな活字の場合が多いので。)
  • 手すりがありがたい。
  • スーパーの本音は、高齢者はご遠慮申し上げたい?個人商店の人的対応に負うところ大か。
<住宅棟では>
  • 膝が悪くなったらどう対処しよう。
  • 両親は並木の自宅には呼べない。
  • 階段の幅が狭い。
  • 階段→手すりがないと対処できない。
  • 電話番もできない。
  • 植え込みが意外と危ない。
  • 和式トイレは「バリア」に変身します。きっと。
    * 今回は体験しませんでしたが、家電製品の操作パネルやリモコン操作、ドアの開閉(ドアの重さやドアノ    ブの形)、浴槽・洗面所(蛇口の使い勝手)等かなり「バリア」に変身するものがありそうです。
近未来への提言金言格言

<まちの中で>
  • 道路の色の工夫。(歩車道の区別をはっきりさせる。)
  • サイン案内板にはもっと明度差を持った色彩デザインで。
<買い物をしていて>
  • 買い物代行サービス実施。(大型スーパーにマニュアルとしてある買い物ヘルパーサービスの徹底実施。)
<生活では>
  • 明るめの洋服を選ぶ。
  • 階段には滑らない握りやすい手すりを両側に付ける。

また、横浜市社会福祉協議会主事の池田誠司氏からは、並木でのデイサービス送迎の体験を踏まえ、次のような提案もありました。
○並木での一番の問題は階段。簡易スロープや昇降機、最後の手段、おんぶで対応。
 →しかし…
  • おんぶは体力勝負。だれでもできる介護方法ではない。
  • 寝たきり等で関節が堅くなってしまっていると足が開かず、おんぶができない。
○並木に暮らし続ける極意は、
  1. 健康であること!介護保険を使わない生活を目指す。
  2. 身体機能低下防止。リハビリに励む。
  3. 介護保険利用時には、よいケアマネージャーを探す。
○住み続けられるまちづくりには、これが効く
  1. 建築や土木工学の学生にもっと車椅子やインスタント・シニア体験でのまち歩きを経験させ、ユーザーの生の声を設計に反映させるプログラムを作る。
  2. このような講座を通じて、「加齢」に伴う身体的変化等の一般的理解を広め、深めて行く。このことは、手助けの「手」を増やすことになる。(どうして手助けが必要なのか、どんなときに手助けが必要なのか、どのように手助けが必要なのかを体験を通して体感できるので。)

 様々な年齢層の人が心地よく住める並木づくりのために、いろいろな手助けの「手」づくりのきっかけづくりを、とんなんたい でも続けて行きたいと思います。  


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