7/23 tue. [ ゴキブリの穴 ]
「何やってんのよ、びちょびちょで!」
「カメラ!カメラ!風呂にゴキブリが出現した!」
「ゴ、ゴキブリッ!で、何でカメラなのよ!早く殺しちゃいなさいよ!!


ゴキブリというのは、「1匹見たら30匹いると思え」 と言われるくらいなので、発見するたびにいちいち殺していても、無益な殺生を繰り返すだけで、人類の勝利にはつながらない。「写真を撮ったら排水溝に流すよ」 とは言ったが、そんな気はさらさらなかった。

僕は風呂が長い。ビールを飲みながら、半身浴で汗をダラダラ流すので、なんだかんだ、小一時間は風呂場にいるだろうか。そのリラックスを襲った、ゴキブリの襲撃だった。***こんなときは酔っていても反応が鋭い。僕は、視界のすみに動く黒い物体を瞬時にゴキブリと識別した。ゴキブリは、右にも左にも逃げ場のないプラスチックの壁の上で、追いつめられたかのようにあわてていた。僕はフリチンでカメラの用意をし、ゴキブリを捕捉しレンズを向けた。「本当は野球サイトだが、今は日記サイトに成り下がってるHP管理人の風呂場に忍び込んだのが、おまえの運の尽きだ・・・さあ、おとなしく日記のネタになりやがれ」 そう僕が心の中で呟いている間も、ゴキブリは逃げ場を探し、風呂場の壁を右往左往していた。そしてついに、風呂場用の壁掛け時計にぶら下がっている垢すりの裏に、ゴキブリは身を隠した。「おやおや、そんなところに隠れられては、写真が撮れないじゃないですか。あなたの往生際が悪いから、僕のカメラは、レンズが曇ってしまいましたよ、フフフ・・・」 そんなバカなことを言いながら、僕は勢いよく垢すりのかかった風呂用時計を壁からはぎ取った。「・・・い、いない!」 まさか、僕が今左手に持っている、垢すりにへばりついているのか!予想だにしない出来事に、僕は少し狼狽し、時計を湯船に投げ入れた。もし身体にでも乗り移られたら、僕の完封負けだからだ。しかし、湯船にゴキブリの姿は浮かばなかった。「まさか・・・逃げ場所はないはずだ・・・」 僕はドキドキしていた。絶対に逃げ場所はないはずなのに、ゴキブリは僕の前から、忽然と姿を消した。そんなはずはない、そんなはずはない、ここら辺の溝のあたりにへばりついているはずだ。そう自分に言い聞かせながら、僕は、腰をかがめて、ゴキブリが消えたあたりにズームインをした。

息が止まった。

黒いシーラーとカビの中に、ちょうどゴキブリが出入りできそうな穴が見えたのだ。
ゴキブリの消えた理由は分かったが、何が起きているのかは瞬時に理解が出来なかった。我が家の風呂場には、ゴキブリの世界との扉がある・・・。


僕は、写真を撮るのも忘れて、絶望の穴に打ちのめされていた。フリチンのまま。

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