2001/11/3 sat.
ダムの底へ
d a m u n o s o k o h e

とある日の、那須、北温泉旅館。

自らの光でシルエットにした山の尾根を滑りながら昇る月。その月をじれったそうに一番高いところで待ちわびる無数の宇宙。秋に萌える木々の色はもう確認出来ない。

「Y温泉って行ったことある?」
秘湯仲間でもあるハヤシくんが、その宇宙を眺めながら、お湯をちゃぷりとかいて言った。
「知ってるけど、結局行くことは出来なかったなぁ」
僕は500のビール缶に手を伸ばしながら答え、旅行雑誌で見たY温泉の写真を思い浮かべた。

Y温泉とは、Sダムの建設調査中に偶然発見された温泉だ。しかし、Sダムの完成と同時にダムの底に消えてしまっている。知る人ぞ知る、いや、知った、幻の温泉だ。

「去年完成したんだよなぁ、Sダム。いっぺん行ってみようって話してたけど、雪が降っちゃって・・・」

「いや、そうなんだけど・・・秘湯系HPのBBSで、入ったって書き込んだ奴がいたんだよ・・・」


その週末。僕は、Sダムの前にいた。

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