黄八丈
「八丈という島の名は,かの八丈絹よりぞ出ずるらんかし」本居宣長
平成12年12月,伊豆七島に属する東京都八丈島を訪れる機会がありました。1泊2日の短い滞在ではありましたが,南方の植生に対するの興味はもちろん,埼玉では見られない気候風土にふれることができ,我が身の南方志向を再確認させられたのでありました。
八丈島の魅力をいえばきりがなくなってしまうのでここではその全てを語ることはひかえさせてもらいますが,いくつもの自然の恵みと島の暮らしによりもたらされてきた織物,黄八丈について,簡単に紹介させていただきます。
まずは,この織物の工房で安価な土産を求めたときその商品につけられていた解説を下に紹介しましょう。
黄八丈の歴史は古く,平安末期,源為朝が初めて貢納してから世に聞こえ,租税,穀納に代わり,明治末年まで貢租とされていた。
徳川の中頃までは,無地か横縞のものであったが、貢物の検査規格が厳しくなり,趣向も複雑になるにつれ,織り,染色の技術が進み,黄,樺,黒の三色を組み合わせた堅縞,大小格子縞が織られるようになったが,江戸の庶民には高嶺の花で,大奥の抱え力士あるいは医者が用いた。
大正に入って衰滅に瀕し,昭和二十二年全国の技術保存品に指定,二十七年貞明皇后の御遺志により江菓山御養蚕所の蚕品種「小石丸」の御下賜,二十八年無形文化財となってからは技術保存会を結成し,本染と手織りの踏襲に努めてきた。
黄八丈の特色−英国のセントギルダ織,キルブライト織に並ぶ草木染で,樺色だけでもつけたり乾かしたり四十数回,晴天四十日を要し,これを手機で念入りに織り上げたもので,年経てもその色があせず,ますます渋い美しさを増す。
黄色−コブナグサの煎汁に一日一回つけて乾かすこと十数回。最後にサカキとツバキの灰汁につけて染め上がり。
樺色−タブノキの生皮の煎汁につけて乾かすこと十数回。最後にいろりの灰汁につけて乾かす。第二回は煎汁数回,灰汁一回,第三
回は第二回と同様にして染め上がり。
黒色−三年乾かしたシイノキの皮の煎汁につけて乾かすこと十回余,最後に還元鉄の多い沼土につけて乾かす。第二回は煎汁数回,
沼土一回,第三回同様にして染め上がり。
いかがですか。植物体やそれを燃焼して出来た木灰を,それも樹種を使い分けて 利用していることがわかります。
木材を燃焼させてできた灰は,古くから様々な用途に用いられてきました。よく知られているところでは,ワラビやゼンマイなど山菜のあく抜きに。土壌改良材としては古くから用いられていて,その起源は焼畑農業(木場作)に見られます。
あく抜きは,灰がアルカリ性であり,このアルカリ成分があく(えぐみ成分)を溶出させるわけですが,この働きは,古来より染料の触媒としても利用されてきました。このことまでは知っていたのですが,これが樹種によって彩色に変化をもたらせるということは,ここを訪れるまで知りませんでした。
草木染めでは,着色に植物体を用いますが触媒には鉄や銅などを利用するのが一般的ではないでしょうか。触媒までも木灰を利用している(黒は除く)黄八丈などの伝統技術は,今なにかと話題になっている森林,木材の有効活用に新しい方向を見い出すきっかけになるかもしれません。