くろもじは高級料亭で出される楊枝である。
滅多にそんなものを出してくれるようなところには行けないけれど、銜えるとほのかにいい匂いがする。
削られた白い材から出るものなのか、手元にのこされたわずかな木の皮から発するものなのか。
ま、そんな詮索は置いときましょう。
冬が終わるころ裏山に入ると、周りはまだ冬姿だというのに薄みどり色に枝を染めていきいきとした潅木が目に付く。
よく観ると独特の花芽が枝の先々についている。
それが黒文字である。
折ってみるとあのいい匂いがする。

山で弁当を食おうとするとき、この枝をおって箸をつくって食う。
高級料亭どころじゃない。
こんな贅沢はこの木を知っているものだけに許される贅沢なのだ。
それにしても、こんな匂いを持っていなければ枝を折られることもあるまいに。
黒文字は樹皮に生ずる黒い斑が文字のようだからというんだが、どう見ても文字には見えそうもない。
多分、似ているシロモジの実に対して黒い実がなるからそう呼ぶのだとおもう。