あれろぱしー

 アレロパシーは植物が放出する化学物質が他の生物に、阻害的あるいは促進的 (共栄的)
な作用を及ぼす作用のことをいう。この作用を利用して、できるだけ農薬を使わない雑草防
除、さらには病害虫防除への利用の可能性が注目され、他感物質をもつ植物とその物質の検
定、作用機作の解明とともに、農業現場での利用の試みも広がっている。
 現在、世界各国で、持続的農業を行う上で大きな役割をはたす可能性があるとして注目さ
れ、新たな生理活性物質の発見の観点から、研究や利用がすすめられている。また、中南米
やアジア・アフリカ諸国では、アレロパシーを示す現象が数多く観察され、伝統農法や生態的
雑草防除に利用されている現象もある。
 一方、アレロパシーは、生存競争や共栄関係など、植物相互や植物と昆虫、植物と微生物と
の相互作用にも関係しており、植物の二次代謝物質としてのアレロパシーの意義と、進化の上
での役割に関する仮説が提唱されており、化学生態学的な意義に興味が集まっている。
 植物のアレロパシー現象は古くから観察されており、古文書にもこれを示唆する記述があ
る。日本では、今から約300年前の江戸時代の儒学者、熊沢蕃山(Kumazawa Banzan)は、そ
の著書の中で、「アカマツの露は樹下に生える作物や草に有害である」と述べている。彼は、
幕府が安易に海岸や山に生育が早くて栽培が容易なアカマツを植林することを批判している。
雑木林では下草が豊富であるのに対し、アカマツ林は下草がほとんどなくさびしい。水分不足
をもたらすような地域ではアカマツを植林すべきではなく、本来そこにあった雑木を生やすべき
であると述べている。
 この他にも、多くの園芸家や植物学者や農家の人は、多数のアレロパシー現象を、2000年
以上も前から観察し、報告している。むしろ、現在用いられているほとんどの作物になんらか
のアレロパシーが観察され、とくに薬用植物やハーブの類にその活性が強いことは、人類の智
慧として、このような植物を選択してきたことを推測させる。
 近年になって、アレロパシーという言葉を初めて造り出し定義したのはMolisch (1937) で、ギ
リシャ語αλληλων(お互いの)とπαθοζ(あるものの身にふりかかるもの)を合成し
てAllelopathieという言葉を作った。その対象は主に微生物を含む植物であり、アレロパシー
(他感作用)は、「ある植物から放出される化学物質が、他の植物や微生物に何らかの影響を
及ぼす現象」を意味する。アレロパシーは、自然生態系においては植生の遷移要因の一つで
あり、農業生産の場においては作物の生育阻害や、畑作物や果樹など永年生作物における
連作障害(忌地現象)の原因の一つと考えられている。
 アレロパシーの概念を提案したHans Molisch(モーリッシュ)は日本と関係深い研究者である。
モーリッシュ博士は、当時世界的な植物生理学者であり、科学技術の導入に積極的であった
日本政府はモーリッシュ博士を東北帝国大学に招聘して、植物生理学教室を開設してもらっ
た。モーリッシュは日本に約4年間滞在し,オーストリアに帰国後、アレロパシーという本を出版
(1937)してこの分野を拓いた。モーリッシュ博士の来日から3/4世紀経った2002年に、日本で
国際アレロパシー学会が開催された。
 モーリッシュの本「アレロパシー」の最後の結尾辞に、興味ある記述がある。モーリッシュは、
自分が日本に滞在中のエピソードとして、おそらく桜の花見と思われる宴会の席で、弟子の学
生が枝を手折ったところ、同席していた上品なおばあさんに叱られたという。おばあさんがいう
のには、「すべての植物には命があって、「いたいいたい」といっているよ。かわいそうだから枝
を折ってはいけない」、と。しかし、モーリッシュは内心、このような考えは迷信であり、すべての
生物現象は科学の光を当てれば解明できるに違いない。アレロパシーの現象も不思議な現象
であるが、いつか科学的に解明されるであろう。と書いている。
 我々は昔の日本のおばあさんが持っていた、"生命あるものへの尊敬といたわりの気持ち"
を常に心の中に持ち続けたいものである。


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