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(H21年6月6日記載)
郷土の自然史発見 その2

地質境界が谷を横断しているところにできた滝
権現滝

位置:島根県江津市松川町長良

花崗斑岩と変成岩とが接している地質境界が谷を横断しているところに形成された複数段の滝です。


国土地理院発行 1:25000地形図「川戸」より

滝付近の拡大ああああああああああああああああああ

観察のポイント

写真1:権現滝(子滝と虹滝)

権現滝は、江の川の支流 長良川のさらに支流にある高さがおよそ55mの複数段で構成された滝です(図1)。 一番下から 子滝→虹滝→(きり淵)→龍神滝→(はんど淵)→すべり滝→姫滝→女滝→男滝 と続いて滝頂上へ至ります。
滝の西側の山斜面には、地元自治会の方達が建造された鉄パイプ製のはしごが最下段から最上段まで架けられており、自由に昇り降りできるようになっています。

滝全体は花崗斑岩でできています(図1、図2)。 これは、約三千万年前に、すでに周辺に広く分布していた三郡変成岩(約二億年前)の地層に地下深部から貫入してきたマグマが冷えて固まってできたものです。 この花崗斑岩は、粗粒の石英や長石、黒雲母、角閃石などの斑晶の間を緻密な石基で充填した構成で、全体に淡いピンク色を呈しています。

最下段の子滝の滝壷付近から下流側20mくらいの範囲には、花崗斑岩と変成岩とが互いに複雑に接し合っているのが見られます(図1、図2、写真2)。 花崗斑岩中に変成岩の岩片が含まれているところ(写真3)や変成岩中に花崗斑岩の側から岩脈が伸びているところなども見られます。
この変成岩は、三郡変成岩類に属する塩基性変成岩(おそらくハンレイ岩あるいはドレライトなどの塩基性火成岩が原岩として低温高圧下で変成作用を受けてできたもの)が、花崗斑岩の接触によってプロピライト化に似た熱水変質作用と熱変成作用を受けてホルンフェルス化したものです。 暗青色~灰青色を呈し、接触部付近では、肉眼でもその大きさと形が明瞭に識別できるほどに粗粒の緑泥石(板状)、黄鉄鉱(十二面体)、方解石(菱形)らが互いに寄せ集まっているところが観察できます。 また、鏡下では、短冊状で輪郭が不鮮明な斜長石同士の間を楔状の石英や他形の緑泥石、方解石が充填している組織が観察できます。
接触境界の形状が非常に複雑であることから判断して、この境界は貫入境界ではなく、この付近一帯はホルンフェルスの大きな捕獲岩がたくさん花崗斑岩中に含み込まれている可能性のあるところです(図2)。

権現滝の下流域には、三郡変成岩類に属する泥質片岩と塩基性片岩の互層が南側へ約50度傾いて分布しています(図2)。
泥質片岩は、灰黒色緻密で片状が顕著に見られ、これに沿ってヘキ開が発達していて非常に脆くなっています。
これに対して、塩基性片岩は、暗青色緻密で片状が不明瞭で、ほとんど塊状的です。 一見して無斑晶緻密の安山岩に似ていますが、鏡下では明瞭にアクチノ閃石などの緑色鉱物が互いに平行配列しているのが観察できます。
また、小規模ながら片岩の片理面に沿って花崗斑岩や珪長岩などの岩脈もところどころに見られます(小規模であるため図上では省略しています)。
このように、権現滝の下流域には、相対的に侵食に弱い泥質片岩と侵食に強い塩基性片岩との互層や各種の岩脈が谷川を横断して分布しているため、小規模な滝や早瀬がいくつも連続して見られます(図2)。


図1:滝の縦断面


写真2:滝壷付近に見られる地質境界


写真3:花崗斑岩に捕獲された変成岩の岩片



図2:権現滝から下流約140mまでの範囲の地質断面図



写真4:キリ淵と龍神滝

写真5:はんど淵とすべり滝


写真6:姫滝と女滝

写真7:男滝

交通
江の川とその支流の長良川との合流付近にあたる国道261号線沿いの道の脇に「権現滝」と書かれた看板があります。 この位置から長良川沿いに自動車一台が通れるくらいの道が伸びており、これを約400m行くと駐車場があります。 ここから徒歩で谷川沿いの道を約200m行くと権現滝の説明板があります。 さらに、そこから谷川沿いの林道を約600m行くと長良川とさらにその支流との合流付近に矢印の看板があり、この矢印に従ってその支流沿いに伸びている林道を約150m行くと休憩小屋があります。 ここからさらに谷川沿いに約100m行ったところです。
(ただし、上記の距離はすべて水平距離で、道のりの距離ではありません。)

考察
滝の形成には、地質的条件、地形的条件、気候的条件などが複雑に関係してくるものなので単純には説明できませんが、滝という地形は、多くの場合、谷が下刻作用と側刻作用でその幅と深さを拡大させながら、谷頭侵食によって谷頭を後退させ、その長さを増大させていく発達の過程で形成されるものと考えられます。

権現滝の場合、滝の形成に関与した条件として、以下の二つの条件が上げられると思います。

その一つの条件は、「みどころ」のところでも記しておりますように、権現滝の下流域に硬軟の違ういろいろな地質同士が接している地質境界や小規模な岩脈が谷を横断していることです。
谷頭侵食によって谷頭が後退し谷が伸びていく途上で、相対的に上流側の地質が侵食されにくく下流側の地質が侵食されやすいところでは、下流側の方が上流側よりも侵食作用が活発に行われ、下流側と上流側とで大きな高低差が生じたと考えられます。

もう一つの条件は、谷頭侵食によって谷頭が後退し谷が伸びていく途上で、高地に形成されていた溝状の窪みに谷頭が到達したことです。
「滝付近の拡大」図を見ていただくと、権現滝の上流域には、湿地性の平坦地が北東ー南西方向に広がっています。 おそらく、谷頭がまだここへ到達する以前から、この付近には北東ー南西方向に伸びた溝状の窪みがあったと思われます。
谷頭がこの溝状の窪みに到達すると、ここから先は勾配がきわめて緩やかな地形であったため、ほとんど侵食作用が進まなくなり、逆に周辺の山斜面から流入してきた土砂が堆積して湿地が形成れていったと考えられます。 しかし、滝から下流側はなおも侵食作用が進行して標高がどんどん下がり、下流側と上流側とで大きな高低差が生じてしまったと考えられます。

以上の二つの条件によって権現滝は形成されたと考えられます。
多くの場合、滝の上流側は侵食作用がなおも進行している侵食地形ですが、権現滝の場合は、滝の上流側は湿地の広がる堆積地形です。 これは、上述したように、谷頭がここへ到達する以前から、ここに溝状の窪みがあったことを示唆するものです。 一体、この溝はどのようにしてできたのか、さらなる探求心が湧いて出てくる思いです。

観光

写真8
地元自治会や有志の方達の御尽力によって、道や案内板、説明板が整備されています(写真8)。 新緑や紅葉の季節には、遠足やハイキングに最適なフィールドです。


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