<大澳の赤い夕陽>ランタオ島

 ランタオ島、今では空港のある島として知られ、しかも高速道路、MTRによって九龍と直結していて、離島というイメージからほどとおいかもしれない。が、実のところランタオは離島に過ぎない。少なくとも、今のところは。

 かつては、ランタオ島東部の静かで小さな港町、梅窩がランタオの入り口だった。セントラルから大型のスピードの遅いフェリーで1時間、埠頭の前には寂れた町とバスターミナル。水色のランタオタクシーと、お世辞にも豪華といえないランタオバスが唯一の交通手段だった。

 新空港の完成とともに、高速道路が新空港の対岸、ランタオ島北部の東涌まで伸び、MTRができ、東涌がランタオの新しい入り口となった。まるで新界の新興住宅地を思い出させるような無機質な高層マンション群。完成済みもあるが、ほとんどが竹ざおを組んだ建築中の建物。道路も拡張、整備中だ。

 MTR東涌駅の駅前はバスターミナルとなり、九龍から乗り入れているダブルデッカー、ランタオバス、ランタオタクシーの乗り場となっている。しかし、街から一歩外に出ると、狭い旧道だ。九龍からの車は東涌までは自由に来ることができるが、ここから先は許可車しか入れない。許可車とランタオタクシー、ランタオバスしか、ランタオの道を自由に通行することができない。

 駅前のバスターミナルから、大澳行きか、昂坪行きのランタオバスに乗る。平日と休日とは料金が違い、休日は倍近くなる。昂坪行きは大仏のある寶蓮寺に行く人でいっぱいだから、大澳行きの方がいいかもしれない。しかも料金が安い。ただ、便数は昂坪行きが断然多い。

 東涌を出るといきなり田舎道になる。しばらく行くと坂道になり、しかも道幅が狭くなり、車がすれ違えない。何百mおきかに退避スペースが設けてある。それでもバス同士になるとかなり窮屈にすれ違わざるを得ない。

 時代遅れの形をしたランタオバスはパワーがないためか、あえぎあえぎ坂を登っていく。スピードが遅い上に、反対車線に自動車が来るたび停まるものだから、一向に前に進まない。

 やっとの思いで、伯公アウという峠にさしかかる。ここはいわばランタオ島のへそみたいなものだ。ランタオトレールがちょうどここで交差しており、東を登れば大東山、西に登れば鳳凰山。この二つのコースの登り口となる。

 峠からは急な下り道、登りであれだけぜいぜいいっていたランタオバスが下り道になると急に元気になる。転げ落ちるように坂を下っていく。下りきったところが三叉路、左に曲がれば梅窩、右は昂坪、大澳。この道路、片側1車線の道路がランタオのメイン道路。東の梅窩から西の大澳までを結んでいる。

 海岸べりの道路をまっすぐ西に行けば、やがて登り道になり、石壁水塘の堤防を通る。堤防の下、水塘と反対側の海岸に石壁監獄の建物が見える。ランタオ島は本来住民も少なく不便なところだったから、刑務所が何ヶ所かある。

 さらに道を登れば、分かれ道。右が大仏のある昂坪、左が大澳。バスはここで降りる。

 ここからランタオトレールのセクション5が始まる(ランタオトレールについてはトレールコースの項を参照)。今日のコースはセクション5と6が中心だ。(写真上はキュン山からの眺望)

 歩きはじめてすぐ登り道。スタート地点がおよそ300m近くの高さなので長い登りではない。標高434mの膝頭コウ山の山頂近くを通る。山頂付近は岩が露出していて潅木しかない。振りかえれば、鳳凰山(ランタオピーク)の威容が見え、大仏の背が見える。

 少し下ってまた登れば、キュン山。標高459m。さらに進めば靈會山、標高490m。キュン山から靈會山までは比較的なだらかな徑だ。岩と潅木と草の山。視界に入るものは山と海。人家はまったく見えない。(写真右は大澳から見える山並み)

 スタートから靈會山まではおよそ5kmくらいだろうか。山の向こうに海が見え、小さな浜辺が点々と見える。この先の岬、ランタオ島の西南の岬が分流と呼ばれている。分流で水の流れが二つに分かれる。西は珠江から流れ出る泥水を含んだ赤い海。東、ランタオの南は南シナ海の青い海だ。香港からマカオへフェリーで行くと、この違いが驚くほどはっきりとわかる。

 靈會山で小休止しながら、周囲の風景を楽しんだ後は、下り徑。しばらく歩くと風景はまったく変わる。いつのまにか鬱蒼とした森の中に入る。途中人気のない寺や、悟園という庭園がある。悟園は中国風の池のある庭園なのだが、手入れもあまりされておらず、ところどころ雑草が生い茂っていた。

 悟園から大澳まで残すところ3、4kmだろうか。森の中を歩いていると、舗装された急坂に出た。あまりにも急で歩きづらい。足を突っ張りながら歩くか、いっそのこと走り下りるほうが楽かもしれない。すると地元の老人夫婦に出くわした。おじいちゃんは手ぶらなのだが、おばあちゃんは天秤棒の両端に空き缶のいっぱい詰まった袋をぶら下げている。山で空き缶でも拾ってきたのだろう。ただ、足下が非常に軽快だ。長年この坂道を上り下りしているのだろう。急坂に驚いているわれわれとはまるで年季が違っていた。

 坂を下りると、左がランタオトレール、右が大澳だ。海辺りを歩いて大澳の村に入る。

 大澳は漁村だ。しかも香港の古い漁村の面影を残している。家が村の中心を流れる河口に面していて、川の上に建てられている。下が船着場、上が住居となっていて、同じ作りの家が河口沿いに軒を並べている。(写真は大澳の漁民の家)

 大澳のような古い漁村は香港にもう残っていないのだろう。なかば観光地となっていて、魚や貝の干物を売る店が通りに並んでいた。

 スタートから13、4kmのコース。あまりハードでもなく、のんびりと歩いて、山と海の風景を楽しめるコース。前半は、岩と潅木と草の徑、広がる山塊と、南シナ海。後半は森の徑、自然の香りにつつまれて歩く。

 大澳に到着して、咽喉の乾きと空腹をを覚え、近くの海鮮料理店に入った。普通の店だったが、歩いた後は、いつもながら冷たいビールがうまい。

 ほろ酔い気分になって外に出ると、日はすでに暮れ始めていた。見る見る間に空は赤く染まり、夕陽が海に沈んだ。(写真は大澳の夕焼け)

*コース*

大風アウ − 膝頭コウ山 − キュン山 − 靈會山 − 悟園 − 大澳