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私の息子の性格は私よりもむしろ妻に似ているようで、よく言えばマイペース、悪く言うとちょっと勘が鈍いところがあり
ます。勉強もスポーツもいまひとつ、これといって取り柄のないおっとりタイプの少年です。ただ親が言うのも何ですがと ても心根の優しい子供だと思います。もともと口が達者でない息子は大阪から東京に転校させてからは、その性格ゆえ か、関西弁ゆえか、大阪の時ほどは親しい友人も出来ていないようで、いじめというほどではないのですが、からかわ れたり、いたずらされたりすることも多いようです。
熊野に行くことを決めたということは、そんな彼に大阪から東京に来たときに引き続き、小学校三年生の息子には二度
目の転校を強いることを意味します。東京という都会の小学校になかなか馴染めない彼にとって、むしろ一クラス七人 という熊野の小学校でのんびりじっくり勉強した方が良いのではないか。私としてはついつい良い方に考えたいところな のですが、よく考えてみると今回の環境の変化は大阪東京以上のものがあります。また、小人数のクラスと言うことは、 幼稚園からのつき合いのいわば兄弟のような人間関係の中に突然あらたな人間が加わるわけで、それはとても大変 なことになるかも知れない。私は学校生活を通じて一度も転校と言うことを経験したことがないため、正直言って彼の立 場を十分理解できていないと思います。東京にうまく適応できていないように見える彼。仕事のことや住む家のことにば かり心を奪われていた私に新たな難問の予感がよぎります。
これまでの息子と私の接点を思い起こすと、休日を除いて私は息子とほとんど夕食を供にしたことがありません。いつ
も帰宅するのは深夜で、すでに彼は寝むりについています。極力一緒に食べるようにしている朝ご飯も新聞に目を通し ながらの食事で、休日の食事時にしても必ずテレビをつけているので学校のことや友達関係のことなど話題になること はあまりありません。たまに妻が息子の学校のことを話題にしてもあまり気にとめていなかったような気がします。もち ろん息子のことはとても気になるのですが、彼の通っている学校や勉強している内容に対する知識や情報が乏しく、ど うしてもピンと来ないというのが正直なところなのです。今回改めて振り返ってみて、「夫は仕事、妻は家事と子育て」と いう若い頃とても嫌っていたはずの構造にいつの間にか我が家もしっかり陥っていることに気づきました。
息子はご多分に漏れず小さい頃からアトピー性皮膚炎に悩まされてきました。泥んこになって遊んでいた私の少年時
代と比較するとどうしても家で遊ぶ時間が多くなっています。また、風邪などで熱を出すと、最近までよくひきつけを起こ しました。夜中にひきつけを起こされるのは親としてはとても恐ろしいことで、このままこの子が正気に戻らなければどう しようと、必死で息子の名前を呼んで揺すぶったことも何度もありました。そのうち息子が風邪を引くのを恐れるように なり、ちょっと風邪気味になるとすぐに薬を与えたりするようになりました。
そんなこんなが重なり、子供が出来たら活発な野生児に育てたいと思っていたのに、日頃は無関心、何かあれば甘や
かすことに繋がっていったような気がします。
よくいうように子供は親のことを確かによく見ています。例えば先日行ったディズニーランドで、大きなぬいぐるみのキャ
ラクターに息子は握手を貰いたがっているのが痛いほど分かるのですが、遠慮がちな彼は存在を見過ごされて機会を 逸してしまいました。NHKの放送会館で番組のシーンに合わせてアフレコをするコーナーがあったのですが、他の子供 が列を作っている中、息子は参加するのをどうしても嫌がりました。思えば私も妻も大人として似たような機会(講演会 で質問をしたり、進んでカラオケを披露したりといったこと)には一歩退いてします性格です。私の記憶には残っていな いけれどそんな両親の姿勢が息子の態度に影響していることは間違いないと思います。
同じようなことが息子のしゃべり方にも言えました。朝は蚊の鳴くような弱々しい声で「おはよう」と言いながら起きてきて
くる息子に何度注意しても改まりませんでした。でもよく考えると私たち夫婦だって朝の挨拶は小さな声でぼそぼそと言 うだけだし、お互いに返事をすることも省略することが多かったことに思い当たりました。特に東京に転勤してからの私 は悩むことが多かったこともあり、十分寝られずに迎えた次の日朝などはひとこともしゃべらないことも一度や二度では ありませんでした。
熊野への移住を決めて、今年の1月から私は一つの取り組みを開始しました。
狭いマンションだけど、とにかく朝の挨拶だけは大きな声で顎を動かして挨拶するということです。
余りしつこくならない程度に、息子の朝の挨拶を納得行く声が出るまで何度もやり直しさせました。容易に改善されそう
になかったのですが、諦めることなく毎朝毎朝心がけました。また、息子がその場にいようといまいと夫婦の朝の挨拶 もこれまでよりもボリュームアップさせました。まだまだ顎は十分動かせてはいないのですが、声の大きさはやっと最近 そこそこ出せるようになってきました。3日ほど家を留守していて、久しぶりに蒸すこと挨拶を交わした今朝、
「おはようございます」
これまでで一番のあいさつをしてくれました。
来月からの生活に不安の多い中、何とか家族同志の挨拶からでも元気よくやろうとの思いで始めたことが、少し我が
家の朝を変えました。いままでの仕事生活ではできていなかったこと、新しい環境の中で息子が、何につまづき、何に 悩んでいるのかこれからは常にそっと観察し、時にはじっくり話を聞き、一緒に考えることをやってみよう思います。 |