○ 地球温暖化は回避できるか?
  ( 出典 ; 農林水産省農村振興局企画部資源課長 富田友幸 「 農村振興 第687号 」 平成19年3月
   全国農村振興技術連盟発行 )


 近年、全国的に豪雨、豪雪、竜巻などの異常気象が頻発する傾向がみられ、その原因を人類が排出した温室効果ガスによる地球温暖化と結びつけて説明されることが多い。 平成18年産の水稲の作況指数は、北海道が一〇五であったのに対し、九州では七八にとどまった。 九州地方では作柄が悪かった主な原因として潮風害が指摘されているが、農業分野においても温暖化の影が忍び寄ってきた証しと解釈することもできる。
 ただし、異常気象イコール温暖化、温暖化イコール人類活動という単純な図式で納得して、このような異常気象への対策として、二酸化炭素の削減という予防手法だけで対処することには疑問を感じる。
 地球温暖化に関しては、京都議定書により二〇一二年における二酸化炭素排出量を一九九〇年より六%削減することが我が国に求められているが、地球全体の問題を一国だけの努力で対処できる訳はなく、たとえこの目標が達成できたところで、温暖化が止る保証はない。
 温暖化がもたらす深刻な環境問題のひとつとして海面上昇がある。
 人類が排出する温室効果ガスによる一〇〇年後の海面上昇量は最大八八センチメートルと予測されているが、長期的な時間オーダーでみると、最近の約二万年間は人類活動とは無関係に地球温暖化が進行しており、その間の大陸氷床の融解による海面上昇量は実に一二〇メートルに及んでいる。 この数字を一〇〇年間当たりに割り戻すと六〇センチメートルとなり、先ほどの八八センチメートルと大差はなくなる。
 さらに最新の研究成果によると、この間の海面上昇速度は決して一定ではなく、ほとんど安定した時期もあれば、最大で年五センチメートル程度の上昇があった時期もあることがわかっている。 つまり、自然界では我々の短い経験からは想像もできないドラスティックな変化が起こりうるのである。
 地球上では過去九〇万年間で氷期と間氷期が約一〇万年のサイクルで繰り返されている。 二万年前の最終氷期以降は温暖化が進み、現在は間氷期に相当している。 今後、長期的には次の氷期に向けて寒冷化するであろうとは言えるものの、現在が温暖化のピークにあるのか、今後さらに温暖化が進んだ後に寒冷化に転ずるのかはわからない。 ただ、地球上の人口爆発を支えたここ数十年間の比較的安定した気候も、長期的にみれば変化して当然ということになる。
 農政の根幹は、国民に安全な質と安定した量の食料を確保するためのリスク・マネジメントにあると考える。
 農業が気象条件に大きく依存する産業である以上、将来起こりうるあらゆる気象変動リスクにたいしてシナリオを用意し、施策の実効性を確保しておく必要がある。
 現在は人類活動に起因する温暖化に注目が集まり、二酸化炭素の削減でそれが回避できれば、我々が経験してきたこの数十年間の安定した気候が将来にわたって続くような錯覚に陥りがちである。 しかし、自然界においては我々の予想のつかないドラスティックな変化が常に起こりうるのであり、温暖化はもちろん、逆に寒冷化するなどの気象変動リスクもまた常に存在していることを忘れてはならない。
 一八一五年に大噴火したインドネシア・スンバワ島のタンボラ火山は大量の火山灰を噴出し、地球全体を寒冷化させている。 シュミレーションでは考慮できない気象変動要素も存在するのである。
 気象変動が国内農業に与える影響は、直接的には作物生産適地の変化として表れるが、生産基盤に対しても、災害発生頻度や水需要の変化などとして多様な影響を及ぼし、さらに海外の食料生産の変化も含めて我が国の食料戦略の見直しが迫られることになる。
 将来予想される気象変動リスクに的確に対処するためには、農地や農業用水などの農業資源に関する地理情報を整備するとともに、気象変動に対応して資源利用を最適化するためのモデルの開発が望まれる。
 「二一世紀新農政二〇〇六」で謳われている「国内農業の体質強化」の対象は、海外農産物だけでなく、気象変動リスクに対しても向けられていると解釈すべきであろう。




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