○ 団粒構造
  < 出典 ; 平成19年3月3日 日本経済新聞(夕刊) コラム”あすへの話題” 元検事総長 原田明夫 >

 今まだ雪に覆われた東北の森林は、間もなく芽吹き出し、やがて美しい新緑に包まれることだろう。 木々の間を縫うように柔らかな土の小道を踏んだこのとある人なら、誰でも、いくら歩いても疲れない足下から脳天にじんわりと伝わる優しい感触を覚えているにちがいない。
 林野の仕事に長年携わった山歩きの仲間から、見事な森林を育む土壌は、微小な腐食土の粒子が集まって粗団粒を作り、それが集まってより大きな固まりをつくる「団粒構造」になっていると教えられた。 粒子の間には大きさの違う間隙(かんげき)があり、微小な粒子は極端に乾燥しないかぎり常に水分を保持し、間隙は余分な水分を通過させつつ、生物の成育に不可欠な多様性に富む養分と水を保持する。 ここに言う「腐植」とは、植物の残渣(ざんさ)や微生物の遺体が土壌中で分解され、化学的または生物学的に合成された高分子有機酸の混合物だ。 豊かな森を持った山から染み出る水に含まれる有機酸の養分が川に流れ出し、やがて海に注がれ、これが海の幸を育てる。 そんな大自然の循環作用から、「森は海の恋人である」との認識が深まり、海産物によって生きる海辺の人々が山に登って木を植え始めた運動が報告されている。
 この大自然が持つ営みの基本的構造は、今、果てなき対立と断絶を拡大再生産し、破壊と狂奔の業ご繰り返す人間社会にとって、限りない教訓と示唆に富むものではないか、と妙に関心したのである。 人間社会でも、団粒構造のように、様々な集合・組織を作るが、それぞれの個性や特質を保持し、多様性を大切にしながら、相互に協力しつつ共生する智慧(ちえ)が生かされないであろうか。


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