○ 「限界集落」 山の荒廃防止に税投入を
( 出典 ; 長野大教授、高知大名誉教授 <農村環境社会学> 大野 晃
平成19年3月19日(月)朝日新聞 ―私の視点― <07統一選> )
山村はいま、独居老人が滞留する場と化している。 人の手が入らない山が荒れている。 都市住民にとっても対岸の火事ではなく、4月の統一地方選挙で議論すべき格好のテーマだ。
一日、誰とも口をきかずにテレビを相手に夕暮れを待つ老人。 年間数十万円の年金だけが頼りで、移動スーパーの卵に思案しながら手を伸ばすシワの刻まれた顔。 バス路線が廃止され、タクシーでの気の重い病院通い。 人の手が入らず、地表面がむき出しになった「沈黙の林」に囲まれ、息を凝らして暮す・・・・・・。
35年にわたり現地調査を積み重ねてきた私が見た病める現代山村の姿だ。
その数は増え続けている。 国土交通省が過疎指定されている市町村を対象に昨年実施した調査で、65歳以上の住民が5割以上の集落の割合は、99年の前回調査時から倍増した。
私は、65歳以上の高齢者が半数を超え、冠婚葬祭や田役、道役など社会的共同生活の維持が難しい状態にある集落を「限界集落」と名付け、16年前から警鐘を鳴らしてきた。
大都市と地方、特に離島や山間地との格差は、「平成の大合併」の進展に伴い、急速に拡大。 格差社会の象徴として「限界集落」が注目を集め始めた。
限界集落が増えれば、やがて自治体全体で高齢者が半数を超え、「限界自治体」となる。 税収は細り、医療・介護、福祉関連の支出増で財政が苦しくなる。 合併しても人口減は止らず、中心部から遠い地域への行政サービスは切り捨てられる可能性が高い。
03年、国立社会保障・人口問題研究所が発表した「市町村別将来推計人口」は、2030年に高齢化率が50%を超える限界自治体が全国で144にのぼると予測した。 小泉内閣の「三位一体の改革」で地方交付税が減額され、限界自治体化に拍車がかかった。
源流域にある森林の荒廃を加速させている山村の限界集落化に歯止めをかけるため、行政が積極的に投資を行い、人が住める状態を維持すべきだ。
バラマキ批判はあたらない。 間伐や枝打ちされない放置林が増加し、山に保水力がなくなっている。 対応は待ったなしだ。 鉄砲水による水害や川や海の環境悪化、夏場の渇水という形で、下流域の都市住民の生活が脅かされつつある。
山村の住民も都市中心部に住まわせるコンパクトシティーが声高に叫ばれているが、山の荒廃という現実にどう応えるのか。
昨年12月、京都府綾部市が限界集落の救済を目的とする「水源の里条例」を制定した。 念頭にあるのは、市の水源である福井県境に近い総人口95人、高齢化率78%の5集落。 同市は「美しい水や森林などの豊かな自然に恵まれ、水源涵養(かんよう)や国土の保全、心を癒やす安らぎの場など多くの重要な機能を持っている」と位置づけ、空き家を活用した定住対策、特産物の開発、生活基盤の整備などに取り組むというのだ。
条例は「水源集落が消滅すれば私たちの生活が崩壊する」という危機感から出発した。 この草の根からの政策提起に応えなければ、国民生活はいずれ深刻な打撃を受けることになろう。
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