○ 農水産廃棄物の再利用と環境の浄化
 ( 出典 ; 「農林水産政策研究所ニュース ―2007年10月17日発行― 」 客員研究員東京農業大学教授小泉武夫の講演会の概要報告 )

● 江戸時代はリサイクルの時代だった。 酒問屋は酸化した下り酒に灰を入れて、中和していた(直し灰)という。 ほとんどモノを捨てなかった時代である。
● 1605年(慶長10年)、越中(今の富山県)五箇地方では人間の糞尿を使って爆薬を作った。 稲わらや雑草を幅2間、深さ1.5間ほどもある大きさの穴に入れ、これに尿を加えて3年ほど経ってから掘り返す。 次に、桶に入れて干したものを濃縮し灰を入れると結晶ができあがるのである。 醗酵学も微生物学もない400年も前に、科学的に理にかなった方法で爆薬を製造していたとは驚きである。
● 一方、中国では、巨大な穴を掘って酒を造っている。 固体醗酵であるため、栄養のある糟が残り、これを豚の餌にする。 つまり、豚の糞尿を使用してこうりゃんを栽培し、醗酵させて酒を造る。 その糟が豚の餌になる、また糞尿を利用するというサイクルになっているのである。 また、豚の血が利用されたこともある。 血料紙と呼ばれる、豚の血液と石灰を混合したものを塗った和紙が張ってある器に酒を入れる。 血液のミネラル分に酒が反映し、熟成を促進させる。
● 平安時代、穀醤(こくびしお)、魚醤(うおびしお)、肉醤(ししびしお)、草醤(くさびしお)と醤油が4種類あった。 野菜が原料となる草醤は、現在中国の雲南省で生産されており、原料は竹である。 大学の研究室でも草醤を造ってみたが、甘みがあって非常に美味しい。 今後日本でも、「生産過剰となったキャベツを使った醤油」など注目されるのではないか。 現在、北海道では、鮭や鱈の内臓を使って魚醤を造るが、醗酵の力によって4〜5日で臭みが無くなる。 また、私が日本醗酵機構余呉研究所長(滋賀県)をやっていた頃、かぼちゃを原料に黄色い砂糖を造ったが、北海道で実用化される。 先日、テレビ番組の「徹子の部屋」に出演した際も、黒柳さんが美味しいとおっしゃっていた。
● さて、我が国の食料自給率は39%と低いにもかかわらず、世界一食べ物を捨てている国でもある。 しかし、廃棄物の利用を考えるには、これからがチャンスと言える。 全国の農業者の平均所得は約400万円であるが、大分県大山町(現、日田市)のJAでは2,000万円を超える人もいる。 プロフェッショナル農業者集団として土づくりに力を入れて成功したのである。 現在、余剰農産物の廃棄が多いが 生ごみの処理費用は1万4〜5千円/トンかかるという。 大分の大手スーパーでは、生産者がスーパーに朝摘みの農産物を持ち込み、形の悪い農産物を販売することで成功しているという事例もある。
● 廃棄物の高度利用の話であるが、イズミ食品という企業は、鰹節から天然のフレイバーを抽出することに成功した。 また、私の研究室では、液体鰹節の製造に成功したところである。 ブロイラーから鶏節を作る試みもある。 沖縄のもろみ酢は、私が協力して最も成功した事例である。 現在売り上げは100億円とのことであるが、5年前までは豚に食べさせていたものである。 もろみは、アミノ酸やクエン酸が豊富であり、食味は酸っぱい。 今後も、様々な機能性に注目していきたい。
● 廃棄物のエネルギー利用に関しては、個人的には穀物を原料とするバイオ燃料にはあまり期待していない。 むしる、警鐘を発する立場に立っている。 食べ物で車を動かすことに倫理的問題もあるが、それだけではない。 そもそも、エネルギー不滅の法則があり、バイオ燃料は、原料を醗酵させた後蒸留する必要があるが、これには熱が必要なので、燃料を使うことになる。 世界全体では食料不足なので、まずは食べ物を作るべきである。 バイオ燃料ではなく、廃棄物利用の方が現実的である。
● また、先般IWCの総会に当たりジャーナリストからくじらを食することに対する批判があったが、「牛一頭育てるのと、くじら一頭を食するのとどちらが環境に悪影響を与えるのか」と反論したところである。 実際、牛の飼育は周辺環境へ負荷を与えるし、くじらは世界中で余っているうえ、食べる魚の量は人間の7倍である。 環境問題に関しては、目先のことだけではなく、広い視野を持つべきである。
● これからの環境浄化には、「菌の選択」が大切である。 最近では、水素エネルギーが注目されており、木と金属を激しく衝突させることで、水素が発生することが発見された。 この際、光合成菌と呼ばれるものを使う。 また、秋田県大泉市では、毎年大綱引き大会が行われているが、使用された綱は谷底に落とすが、翌年までには消滅してしまうという。 近年、その谷の土壌中に縄を分解する菌がいることがわかった。 このように、菌には多様な機能がある。 微生物には食べ物が必要であるが、生ごみを食べさせればよい。
● 最後に、福島県須賀川市の「三風」という企業の取組を是非紹介したい。 東北では、寒さのため、昔は完熟堆肥をつくるのに5年かかっていた。 完熟堆肥でないと農作物が根腐れを起してしまう。 「三風」では、7億円かけて長さ100メートルの大きな醗酵槽を4つ作ったが、醗酵槽には有機性廃棄物を入れると、翌日には菌の醗酵によって醗酵槽の温度が90度まで上がる。 完熟堆肥ができる期間を大幅に短縮したのである。 この完熟堆肥で栽培すると、コメの収穫量は3割増加にて味も違う。 トマトも実が詰まって重く、水に沈む。 廃棄物利用・環境浄化の好例として、是非一度見学に行って頂きたい。 必ず勉強になると思う。
● 鹿児島では、焼酎の絞りかすが大量にでている。 これまでは、海洋投棄や焼却を行っていたが、そうもいかなくなった。 これも「三風」のように堆肥化すればよい。 余った堆肥は、山にまけば麓の畑や河川も豊かになる。 焼酎を造ることは環境を良くすることと考えることができる。



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