○ 人口減少社会と農業農村整備
( 出典 ; 「人口減少社会と農業農村整備」農村振興局事業計画課長 角田 豊著 平成17年8月15日 全国農村振興技術連盟発行 「農村振興」第668号 )

 人口減少社会の到来が目前に迫っている。 総務省の住民基本台帳に基づく人口調査結果(17年3月末時点)によると、男性人口は調査開始以来始めて減少に転じ、総人口の伸び率は、0.04%と過去最低となった。 日本の総人口は2006年にピークを迎え、2007年から減少に転ずると予測されている。

 人口減少が日本の国力に与える影響について、様々な分析がなされている。 労働人口の減少と高齢人口の増加が、生産活動の減少と貯蓄率の低下をもたらし、年金、医療、介護など社会福祉分への財政圧力の増大となり、公共投資へ回す余力の減少なとが指摘されている。 経済財政諮問会議の「日本21世紀ビジョン」では、国力を維持するため、一人当り生産力を高め、少子高齢化を見据えた社会保障制度の抜本改革を急ぐなど構造改革のピッチを上げることが必要だとしている。
 農村地域では、高齢化は全国平均より20年先行しており、人口減少地域はすでに国土面積の8割、人口減少自治体は35道府県を数えている。 このまま推移すると、更なる高齢化、農家人口の減少により、耕作放棄地が増加し集落の維持すら困難になるなどの悲観的な見通しもある。

 一方、松谷明彦・政策研究大学院大学教授は、人口減少社会では、「労働力構造と需要構造の変化を契機として、経済力や生活水準の地域間格差が縮小する」と指摘されたいる。 そして、人口減少社会への対応策の一つとして「豊な田園」への方向転換をあげ、「生産性が飛躍的に向上した農業とその関連産業との重層的な経済構造」がその基本になるとされている。(注;「人口減少経済の新しい公式」日本経済新聞社)

 このようなご指摘をヒントに私なりに考えると、人口減少社会において農業・農村を悲観的シナリオで捉えるのではなく、新たな価値や役割を踏まえたうえで、それを実現するための農業農村整備のありかたを検討する必要がある。 ポイントはいくつか考えられる。

 まず、地域経済活性化の基本となるのは、生産性の高い多様な農業の展開であり、そのためには、基盤となる農地・農業用水が健全でなければならない。 非効率で汎用性のない農地は引き受けてもいないし、集約もできない。
 具体的には、大区画や用排水の自動化等の基盤整備と担い手や農業生産法人などの経営体の育成を一体で進めるのとや、地域の多様な営農戦略を伴った基盤整備が必要となろう。
 全国の農地に張り巡らされた40万キロメートルの水利システムは、食料生産と農業の有する多面的機能発揮の基盤としての国民的資産である。 この膨大なストックを次世代に継承していくことは、我々の責務でもある。 財政状況が逼迫する中で、施設の長寿命化を図りつつ低コストで機動的な更新を行っていくための戦略が求められている。

 一方、農村の過疎化・高齢化・混在化に伴い、農家を中心とした地域共同で行われてきた農地・農業用水等の資源の保全管理が困難になりつつある。 このため、地域の農地や水、環境などの資源を、地域住民など多様な主体が参画する活動組織を立ち上げ、地域全体での保全活動を促す施策を19年度から導入することとしている。 資源保全を通じて、地域社会の維持・向上をもねらう総合的な施策であり、人口減少社会への対応という視点からも国民全体の幅広い支持を得て施策導入を図っていく必要があると考えている。

 日本全体が人口減少社会に突入する中で、すでに人口減少下にある農村は新たな価値を帯びて輝きを増していくものと考えられる。 農村は、高齢者が生きがいをもって活躍する場となりうるし、美しい田園は、西欧社会がそうであるように、成熟した豊かな社会の基盤として不可欠なものである。

 人口減少社会における農業農村整備のあり方について、本年度の「農業農村整備部会企画小委員会」での審議を予定している。 連盟会員諸兄からの活発なご意見を期待したい。




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