○ 木質バイオマスが循環型社会を構築する? ― LCAの積極的活用 ―
 ( 出典 ) : 北海道大学農学部森林科学科森林化学研究室教授 浦木康光 ( 札幌同窓会報 平成20年5月14日
       (社)札幌農学振興会発行 )
 ( 杉浦補注 ) : 浦木康光教授は、平成19年度日本木材化学学会賞を受賞された


 私は、平成元年12月に農学部林産学科木材化学講座( 現、木質生命化学研究室 )に採用され、笹谷宜志、佐野嘉拓両先生の指導を仰ぎながら、木材成分の新規分離法( パルプ化 )と分離した成分の新規利用に関する研究を始めることとなった。 高分子学科出身のために木には全く無知であった私が選んだテーマは、リグニンから新規機能性材料を開発することであった。 リグニンは木材の20〜30%を占めるのに、燃料としてしか利用されてなく、この材料開発は貴重な木材成分の有効利用に繋がるという考えと、大きなビジネスチャンスになるという不純な動機も含まれていた。
 リグニンの利用には、化学構造の解明と共に、木材から単離したリグニンの物性も重要である。 そこで、リグニンの物性を原始的な方法で調べていくうちに、リグニンが熱で溶融することを見出した。 リグニンはチューインガムのように熱で柔らかくなること( ガラス転移 )は周知の事実であったが、液体になるというのは初めての発見であった。 この物性を活かして、リグニンの溶解紡糸、更には、炭素繊維や活性炭素繊維への変換など、種々の材料開発を行うことができた。 この発見は、木材化学講座で行っていたオルガノソルブパルプ化に負うところが多く、この教室に採用されたことは全くの幸運であった。 その後、セルロースやヘミセルロースの利用に関する研究にも着手して、木材の主要成分を全て利用するシステムを提案できる現状に至った
 この研究期間に社会情勢も大きく変遷して、木材は木質バイオマス(実際はもっと広義である)と呼ばれるようになり、カーボンニュートラルな木質バイオマスは化石代替資源として脚光を浴びるようになった。 木材化学講座で行っていた成分分離とその利用は、現在ではバイオ( またはバイオマス )リファイナリーと呼ばれるようになり、循環型社会の構築には重要な技術と注目されるようになった。 しかし、”本当に、木質バイオマスは化石代替資源なのか?”という問いが、最近の私の疑問である。 海外におけるパルプ材確保のための大量植林は、原料及び労働の集約化から、コストやエネルギー消費の面から有利であることは容易に理解できるが、国産材や建築廃材は分散資源と見做され、それらの利用やリサイクルには、原料の集約と輸送に多大なエネルギーが必要である。 これまで、化石資源に対する木質バイオマスの優位な側面のみが論じられ、総合的な評価が避けられてきたような感がある。 21世紀には確たる数値を基に、木質バイオマスの優位性を評価することが重要である。 これを可能にするのが、Life Cycle Assessment( LCA )である。 LCAのソフトウエアーは年々改良されて容易な解析手法となったが、インベントリ(個々の項目の基礎情報)が充実していなければ、LCAも手前味噌となる。 林産関係では、インベントリの作成からLCAまでを行っている研究者は1名しかなく、今後はいかなる研究者もLCAに基づいた材料開発やバイオマス利用システムについて言及すべきである。 今後も木質バイオマスの利用研究を展開したい私も、もっとLCAを学び、独善に陥らない材料の開発を心がけたいと考えている。 そのためにも、インベントリ作成に、多くの工場や現場の協力が必要であるので、同窓会の皆様には、特段のご支援・ご協力をお願いしたい。  ( 特別会員 )



<トップページに戻る>     <資料のインデックスに戻る>