○ 提言 「勤農」の志士と協働 ― 山口県立大大学院教授 小川全夫 ―
  ( 出典 : 2007年6月30日 中国新聞 「ムラは問う」シンポジウム詳報 ; 中国新聞社取材班 )


   条件不利な中山間地域を抱える中国地方では今、農家が農地を会社に委ねるなどして農業経営をあきらめ、農業がなくなってしまう危機に直面している。 戦後、農村を支えてきた仕組みが機能不全に陥ったためだ。

 中国地方の多くのムラは、水田を基盤にした稲作農家だ。 だが、全国に占める農地面積は8.7%に対し農家戸数は16%。 一戸当たりの耕地は狭く、収入が少ない。 地元の役場や工場などに勤めながら稲を作る兼業スタイルが定着した。 兼業型農家の比率は全国平均よりも6.8ポイント高い。

 家や田を親に委ねて大都市へ出る「出稼ぎ」や、地元周辺で公共事業などの「日稼ぎ」で現金収入を得る手段もあった。 だが、いったん地元を離れた子どもたちは古里に戻らない。 行財政改革の掛け声の下、地元の公共事業も減少した。

 こうして、農業収入の減少を補っていた兼業収入も1990年から減少に転じた。 いまやその代わりは年金だ。 兼業農家が「定年後農業」や「高齢者農業」に変わった。

 中国地方は独り暮らしの高齢者が多い。 人間が住まなくなれば獣害も深刻になり、耕作放棄地が増える。 最終的に、都市近郊の農地は宅地や工場などに転用され、農家は現金収入を求めて他産業に転じていく。 農業が消える危機である。

 基幹的な農業従事者ががくっと減ったのは平成に入ってから。 背景には日本人の価値観、行動様式の変化がある。 例えば、マネーゲームの過熱に合わせて急増した「拝金主義的な労働観」。 自らの才能の発揮や生きがいのためなどではなく、「お金を得る」ことを労働の目的に挙げる層が増えたこともある。

 その中で、農業や農村のルネサンス(再生)への道筋は何だろうか。 私はまず、農の現場を離れない市場構造を創出することを提案する。 グリーンツーリズムや環境を守る産業の育成、地産池消などが当てはまる。

 さらに、ムラに心を寄せてくれる「勤農」「援農」の志士を募り、都市と農村の協働プロジェクトを進めることが大切だ。 新しい公益・公共事業の再構築も要る。 農の多面的機能については、農業が支えきれないなら、独立した経済活動として支援できる仕組みをつくらなければならない。



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