○ 農業を「 成長産業 」に変えよう  ( 出典 : 2008年3月17日 朝日新聞社説 )

  < 希望社会への提言 21 >
    ・コメの生産調整をやめ、増産へ大転換しよう
    ・やる気のある農家は政府の直接補償で支える


 希望社会への提言シリーズも終わりに近づいてきた。 今回は安全安心の「食」を支える農業について考えたい。
 いま、冷凍ギョーザ中毒事件で食卓には中国離れの動きがある。 とはいえ、中国などからの輸入抜きに、日本の食は成り立たなくなっている。 カロリー自給率が39%と先進国で最低だからだ
 グローバル時代だからそれでも大丈夫だという意見もある。 だが、世界の食料事情が急変し始めた。 中国などの急成長で食料需要が膨らみ、バイオ燃料への需要も加わって、穀物価格が高騰している。 気象変動の影響もある。
 中国やロシヤは穀物の輸出抑制に乗り出した。 日本の経済力もあてにならない 争奪戦が激化し、国際市場で外国に買い負けることもある。 好きなだけ輸入できる時代はどこまで続くだろうか。
       

 食の安全網となるのは国内の農業である。 なのに、その衰退ぶりは何とも頼りない。 衰退の原因は、農政の中心であるコメ政策にある。
 日本のコメの生産量は60年代半ばに消費量を上回った。 その後40年近く、食生活が豊かになりコメの消費が減り続けるのにあわせて、生産を減らしてきた。 コメの生産調整、いわゆる減反(げんたん)政策である。 政府は休耕するか他作物へ転作した農家へ補助金を出す。 需給を調整して米価を支える「米価カルテル」でもある。
 その結果、耕作放棄地と休耕田を合わせると、いまや東京都の面積の3倍近くにものぼるほどだ。 消費者のコメ離れと人口減少が進めば、40年後には水田面積が今の半分になるという。 すでに農業で働く330万人の6割が65歳以上。 このままでは、日本の農業が滅びてしまう。 そんな恐れさえ感じる状態だ。
 発想を大転換して、コメ農業を根本から立て直さなければならない。
 それには、生産調整をやめることだ。
 自由にコメを生産して足腰の強い農業をつくり、米価を下げて消費を拡大する。 同時に、主食用だけでは需要に限界があるので、飼料やバイオ燃料( 杉浦補注 ; 参照 )へ思い切って用途を拡大してはどうだろう。
 日本の食料自給率が下がったのは、肉食が増え、飼料穀物の輸入が急増したからだ。 そこで、稲作に適したアジアモンスーン気候をいかして、水田をフル生産へ転換する道をめざすのだ。
 生産調整をやめれば、生産性が高く意欲ある農家は生産を増やし、米価が下がるだろう。 下がりすぎて農業自体がつぶれないように、意欲的な農家の所得を補償する仕組みが必要になる。
 農業は天候や病害のリスクが大きい。 その一方で食料安全保障を担い、環境や農村の景観維持に大きな役割を果してもいる。 だから欧米では、農家所得の半分くらいを政府が直接補償している。 こうした制度を参考にしたらいい
 米価が3割下がるとして、農業が主業の農家に補償対象を絞れば、財政負担は2千億円ですむ。 いま生産調整に使っている額と同じなので、新たな財政負担なしにできる計算だ。
 米価が下がると米作をあきらめる農家が出てくるが、続ける農家に水田を売ったり貸したりすれば、地代などの形で利益を共有できる。 こうして農地の大規模化と効率化を進めたい。 農地の流動化を促す仕組みづくりも欠かせない。
 世界的な穀物高騰は改革の好機だ。 国内産米は値が高すぎて勝負にならなかったが、輸入米との価格差が小さくなっているのだ。 さらに日本の米価が大幅に下がれば、いい勝負になる。
 輸入米にはいま、700%の高関税をかけている。 貿易交渉ではこれが非難され、いつも守勢に回ってきた。 高関税はいずれ見直しを迫られる。 それまでに農業を鍛えておかなければならない。
           

 生産調整をやめると、コメ需要の堀り起しにも必死になるはずだ。 一人暮しの若者やお年寄りの個食需要にこたえる工夫が出るかも知れない。 中国や台湾では高級な日本米の人気が高い。 豊かになるアジアという巨大な胃袋を狙って、輸出をめざす農家も増えるだろう。
 飼料米を輸入飼料なみの値段へ下げるには、多収穫米の品質改良を重ね、栽培方法も変えなければならない。 助成金が必要になるかもしれない
 バイオ燃料米( 杉浦補注 ; 参照 )は、日本が得意な醗酵技術を生かした研究が重ねられている。 コメだけでなく稲わらも一緒に醗酵させられれば、コスト面で有利だ。
 こうして農業を再生できれば、地域活性化の核になる。 そのためには農業への新規参入が不可欠だ。 企業化の道も含め門戸を大きく開いた方がいい。
 農業は命をはぐくむ産業だ。 その魅力を若者に感じてほしい。 都会での働き場所を失ったニートやロストジェネレーションの人たちが、働く喜びを取り戻す場になったら一石二鳥ではないか。
 ミシュランから三つ星を受けた東京・銀座の日本食堂「小十」の奥田透さんは「日本農業は再生できる」と言う。
 「世界でこれだけ日本料理が認められえるようになった。 それを支える日本の農産物にも三つ星の価値はある。」
 潜在的な力を前向きに生かせる仕組みをつくれれば、日本の農業を成長産業にすることも夢ではない。


( 杉浦補注 : 余剰米については、我が国は「 バイオ燃料化 」ではなく、海外の食料困窮国の民への「 食料援助 」に向けるべきであろう。 )



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