「 土地改良施設の長寿命化 」元年 ( 農林水産省農村振興局次長 斎藤晴美 )
 ( 出典 ; 「 農村振興 第734号 」 平成23年2月 全国農村振興技術連盟発行 )

 平成二三年度は、土地改良にとって大きな変革の年になりそうだ。 農業農村整備事業予算の大幅な削減の下、今後の土地改良の展開方向について昨年来議論してきた。 新たな理念に基づき大きな一歩を踏み出す時である。
 これからは、農地・水などの地域資源を最大限有効に活用することだ。 四六〇万haの農地を耕しつづけ、四〇万kmに及ぶ水路等総資産二五兆円のストックの機能を維持保全することが求められている。 これまで我々は、大地を切り拓く、新たに水源を確保するということに重点を置いてきたが、今後は農地と土地改良施設が概成したという厳然たる事実を真摯に受け止め、それを如何に後世に引き継ぐかが我々に課された最大の使命である。
 ここ一年、マンション管理の勉強をしてきた。 マンションを購入して入居する時、管理組合を結成し、加入金数十万円を納め、修繕保全費を毎月平均一万円程度積み立てている。 さらに、組合員の総意の下、約九割の組合が長期修繕計画を策定し、十年後には外装の塗装、二〇年後には亀裂の補修などを行っている。 マンションを良好な状態で保全し、資産価値を高めようと思えば、管理組合の組織化が必須であり修繕保全計画を策定するのは当然のこと、修繕積立ての加入率が高い方が良いということは論を待たない。 これを土地改良施設にも適用できないかということである。 マンションは区分所有権が確保される個人の資産であり、それに対して土地改良施設は準公共物であることから同列に論ずるのはおかしいという議論もある。 しかしながら、土地改良施設はたとえ国、県、市町村、土地改良区財産であっても農業生産には不可欠であり、共同して利用しながら個々の農家は農業生産活動を通じて生計を立てている。 このような観点から、土地改良施設をマンションと同類の生産・生活手段と捉えると、今後の土地改良施設の管理・長寿命化にあたって大いに参考になるのではないか。
 具体的には、土地改良区の総意に基づき土地改良施設の長寿命化計画(マスタープラン)を策定し、突発的事故に備えて、また施設の機能を保全するため、自主的に事前積立てすることを提唱したい。 そのためにも、土地改良区に試行的に複式簿記を導入し、施設の原価償却を考慮して資産価値を明らかにしていくことだ。 また施設の事故などに対する保険の加入なども考えられる。
 農地についても同様だ。 ほ場整備率は全国約六割だが、区画整備済の農地であっても暗渠排水等の排水改良や、畦畔除去・排水路の管渠化による農地の区画の拡大が必要である。 さらには、地下かんがい排水システムを導入してさらなる生産性の向上が求められている。 新たに手を加えていわば農地を装置化するということだ。
 これらは何も新しいことではない。 平成十一年に制定された食糧・農業・農村基本法の第二四条で「 国民は・・・農地の区画の拡大、水田の汎用化、農業用用排水施設の機能の増進・・・を講ずるものとする。 」と明記されている。 国営施設機能保全事業の創設や特別監視制度の導入を契機として、今、土地改良関係者が一丸となってこのような行動を起そうというのとである。 土地改良施設の長寿命化というとすぐリスク管理、機能診断や工法が話題となる。 それも必要なことは間違いないが、それよりも大事なことは国、県、市町村の職員や土地改良区、農家の方々の意識改革であり、土地改良施設の長寿命化計画の策定や事前積立てなど具体的な行動が今こそ求められている。
  土地改良が二一世紀を生き抜くためには、このままでいいということはない。 時代の要請や取り巻く環境に対応し、変革していく必要がある。 地形、気象、営農、土地改良施設の老朽化の度合いは、各地で異なる。 そこに住み農業生産に勤しむ農家の方々とともに、国、県、市町村、土地改良区が一体となって、地域の特性に応じ創意工夫しながら、この運動を進めて行きたいと思う。 平成二三年度はこのような年でありたい。


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