○ ポスト成長の年明け――すべて将来世代のために
  ( 出典 ; 平成24年1月1日 朝日新聞社説 )

 新しい年も難問が続く。
 東日本大震災、福島の原発事故への対応はもちろん、年末に民主党がやっと素案を決めた消費税の引き上げもある。 世界経済を脅かした欧州の財政金融危機からも目が離せない。
 難問が織り重なったのは偶然だが、なにか共通した問題を暗示しているように思う。
 それは、戦後ずっと続いてきた「 成長の時代 」が、先進国ではいよいよ終わろうとしているということだ

 バブルで財政赤字に
 原発の惨状は、豊かな生活を支えてきた潤沢なエネルギーがじつは危うい上げ底だったとの反省を迫っている。
 日米欧の赤字財政は、成長を無理に追い求めたツケだ。
 世界の歴史を振り返れば、経済成長が行き詰まると、成長を取り戻そうとして金融を拡大し、バブルを生んできた。
 日本も高度成長が終わってバブルをつくりだし、その後処理のために財政赤字を積み上げてしまった。 成長を諦めきれずに国債を乱発したからでもある。
 住宅バブルがリーマン・ショックで破裂した欧米も、財政赤字をふくらませ日本が来た道をたどっている。
 それなりに豊かな社会を実現した先進各国はいま、新たな成長のタネを探しあぐね、雇用の確保に苦しむ。
 経済成長は多くの問題を解決してくれる魔法の杖には違いないが、そのタネを見つけられぬまま財政と金融に頼って成長の夢を追った結果、各国とも難問を抱えこんでしまっている。
 従来の手法が経済成長を生まない。 そんな歴史の大きなトレンドが変わりつつある。

 進化が生んだ草食系
 すでに変化の芽は、さまざまな形で見えている。
 昨秋、ブータンから来日したワンチュク国王夫妻を人々は大歓迎した。 その清新な人柄の魅力もあったが、物質的な充足よりも心の豊かさを求めてGNH( 国民総幸福 )を掲げるブータンの国是に、ひとつの未来を見いだしたからだろう。
 ブータンにならい、幸福の指標を7年前から研究してきた東京の荒川区をはじめ、各地で同じような模索が始まっている。
 草食系の若者たちが登場したのは、ポスト成長の環境変化に適応して進化したからではないか――。 みずほ総合研究所がこんな新説を唱えている。
 過大な期待は抱かず、ほどほどの現状のなかで人々との絆を求める。 震災のボランティアに駆けつける若者たちと、どこか重なるものがある。
 地球大での環境や資源の限界を考えても、低成長に適応していくことは好ましい。
 だがしかし、経済成長をしないで、巨額の財政赤字を処理しつつ、急激に進む少子高齢化を乗り切っていけるのか。
 ここで、次なる疑問に突き当たる。
 新興国が激しく追い上げてくる大競争の時代、人口が減りだした日本は、のんきに構えてはいられない。 よほど努力しないと現状維持すら難しい。
 だから、国をもっと開いて打って出て、新興国の成長力を取り込み、世界に伍(ご)していける若い人材を育てていかなければならない。 それを怠れば、この国の将来が危うくなる。

 成長から成熟社会へ
 「 ゼロ成長への適応 」と「 成長への努力 」という相反するような二つの課題を、同時にどう達成するのか
 歴史的にみて、経験したことのない困難な道である
 そのさい、「 持続可能性 」を大原則とすることを提案する。 何よりも、将来世代のことを考えるためだ
 財政支出や金融拡大に頼った「 成長の粉飾 」はもうしない。 いま増やした国の借金は何十年も先の世代が返済するが、彼らはまだ生まれてもいない。 決定権のないまま負担だけを背負わされる。 民主主義の欠陥である。 この愚をこれ以上繰り返してはならない。
 取り組むべきは、社会保障と税の一体改革を実現させて、成熟社会の基盤をつくることだ。 医療・介護や教育といった社会的サービスを再建することが、量的拡大に代わる新たな経済社会につながっていく。
 増税や政府支出のカットはつらい。 成長率の押し下げ要因になるが、将来世代のことを考え甘受しなくてはいけない。
 また、何万年もの後代まで核のゴミを残す原発は、できるだけ早くゼロにする。 自然エネルギーを発展させ、環境重視の経済に組み替える。
 シルバー(高齢化)とグリーン(環境)が、次の活力ある経済をつくるタネになり得る。 ここに力を注ぐべきだ。
 それは成長から成熟へ、社会を切り替えることでもある。
 成長の時代を享受してきた私たちは、変化していく歴史の行方を長い目で見つめながら、いまやるべきことを着実に実行していかなければならない。



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