向板捨吉苦難之旅路

一之章〜出立〜

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時は天保世は泰平。天下の台所大坂に御店を構える料亭「末尋屋」。八代続いたその老舗で、向こう板を務める「捨て吉」という名の若者が居ったそうな。

 まじめで働き者の捨て吉は御店の人々に目をかけられ、「末尋屋」の主人なども、
心の中では、いずれ板長にもあげてやろうと考えているほどであった。

その捨て吉が胸に秘めたるは「いつか修行の旅に出たい」という想い。

しかし、想い遂げんとすれば、長く御店を空けることになってしまう。つねひごろかわい
がってくれる旦那様や女将さん、自分に目をかけてくれている板長のことを考えると、
捨て吉にはどうしても言い出すことが出来なかった。
想い消えなんと欲するも消しがたき旅
への想い。我知らず心は遙けき旅路へと彷徨い出ることが多くなった。

  そんなある日、とうとう捨て吉は意を決し、女将さんに出立の許しを請うた。

 「私を旅へ遣ってください。幾年掛かるか分かりませんが、一つ道を究めて、きっとこの末尋屋に帰ってきますから」

  行く先定めぬ精進の旅。
  幾多の困難が待ち受けていようことは、女将にも容易に思い至った。

  しかし、一心にひとつ道を究めんとする強い決意を知り、女将は捨て吉を笑顔で見送る
のであった
・・・