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| 街道に沿って歩くほどに米子の城下に入った。本筋にあたる通りは、何か祭りでもあったのか、人があふれ、いかにも賑やかな風情である。 もう陽も落ちかかる時刻ではあったが、捨て吉は、見るもの全てがものめづらしく、心騒ぐ気持ちがしたので、今晩の宿も決まらぬまま、通りを見てまわることにした。 しばらく行くと、少し道幅の広くなっている一画に、大勢が人だかりするのに行き会った。人垣はどよめき、時折歓声も上がっているようだ。 捨て吉は気になって覗き込むと、内側では、軽業の一団が、ちょうど芸を見せているところだった。黄色い着物を着た男が、高く飛び上がり、くるりと宙返りして、もう一人が支える竹の先へ、軽々と降り立つ。 「おおっ」 捨て吉は手をたたいて喜び、もっとよく見ようと人垣をかき分けて、最前列まで移動した。 張り切って、さあこれから、と構えたところで、軽業師達は優雅に一礼し、片づけを始めだしてしまった。それと同時に、人垣も一人二人と散っていく。 夕刻とはいえ、興行を終えるにはまだ早い時刻である。諦めきれず、土地の者に尋ねたところ、軽業の一団は、明日城に招かれて殿様の前で芸を披露するらしく、今日はその準備のために、いつもより早くに切り上げたとのこと。聞けば前半には手妻も見せたという。 もう少し早くに気付いていれば、と悔やまれてならない。自然、足は城の方に向いていた。 ふと気がつけば、もう城は目の前である。そろそろ諦めて宿を探さねば、本気で間に合いそうもない。ため息をついて引き返そうとしたが。 道の真ん中に、ざるがひとつ落ちている。 ごみにしては、大した汚れもほころびも見えない。 こんな邪魔な位置にあるものを、無意識とはいえよく踏みつぶしてしまわなかったものだと思いながら、何気なく拾い上げた、そのとき。 ざるの下から何か黒い影が飛び出して、捨て吉の目の前をよぎっていった。 驚いて後退るところに、今度は甲高い叫び声が重なる。 「あー!わらわの雀が!そなたが逃がしたか!」 理由が分からぬまま声のする方を振り返ると、美しい姫君が捨て吉の背から荷の傘を引き抜いて、打ち掛かってくるところだった。 「うわっ?! なんだ。えーっと。ごめんなさい!すいません!」 米子のお城には、元気で美しいやんちゃ姫がいると聞く。どうやら自分は、やんちゃ姫がざるの下に籠めておいた雀を、うっかり逃がしてしまったらしい。 「朝から罠を仕掛けて、場所も変えてみて、やっと捕まえたところだったのに!」 地面には、さっき怒りのあまりに放り捨てた、鳥かごが転がっている。おそらく、あれを取りに戻るために、この場を離れていたのだろう。 「私がもう一度、雀を捕まえて、きっとお返ししますから!」 たまらず捨て吉が叫ぶと、やんちゃ姫はぴったりと手を止めた。 「ほんとか?そなた、雀を捕まえられるのか」 「はい。お任せ下さい。わたくし、こういうことは大得意にございます。」 事態が好転しそうな気配に、捨て吉は大きく頷いた。 「では、そのざるを貸すから、早う捕まえてまいれ」 姫君は若者の手にあるざるを指して急かす。 「姫さま。ともかく、鳥とは夜目が利かぬもの。今日はもう仕舞いにして、明日の朝一番に捕まえてお持ちいたしましょう。それでは、なりませぬか」 腰をかがめて、自分と目の高さを同じにして、話をしてくれる若者に、姫君はふるふると首を横に振った。 「それでかまわぬ。ところでそなた、ほかの鳥を捕るのも得意か?わらわは雲雀(ひばり)の子がほしい。」 若者の袖を引き、顔を輝かせて自分を見上げる姫君に、捨て吉は腕を組んで少し考える素振りを見せた。 「ふうむ。雲雀の子ですか。雲雀はとりわけ警戒心の強い鳥でございますれば、ほかの者にはちと難しいでしょうが。私にとっては、わけもないことです。」 「そうか!よし。今宵は城に泊まってゆけ。明日は軽業師も来るのだ。共に見よう」 すっかりやんちゃ姫に気に入られた捨て吉は、城に招待されることになった。 |