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| 「ほう。かわいいものだな。」 やんちゃ姫は、今朝捕まえたばかりの雲雀を眺めながら、満足そうにため息をついた。 細い籤(ひご)を組んで作った四角い鳥籠は、低い卓子にのせられていた。 先ほどまで籠の中で、せわしなく羽をばたつかせていた雲雀も、ようやく落ち着いて、二本の脚で歩き回っている。籠の中には、とまり木も渡してあったが、これにはまだ乗ってくれない。 「これを捕まえるとき、親鳥は羽を引きずっていたが、どこか怪我をしておったのではないのか?」 やんちゃ姫は、籠から目を離さずに、後ろの捨て吉に話しかけた。 「あれは偽傷行為ですよ。敵を巣から遠ざけるために、わざとああして、怪我をした振りをするのです」 捨て吉は立ち上がって、やんちゃ姫の頭越しに、そっと籠の中を覗いてみた。 籠の中では雲雀の子が、茶色いまだら模様の背中をふるわせながら、ぴぃぴぃとか細い声を上げている。 「なあ!餌は、何をやったらよかろうの!」 やんちゃ姫は捨て吉を振り仰いで、尋ねた。昨日からずっと捨て吉は、物知りのお兄さんとして、やんちゃ姫の質問責めにあっていた。 「鳥の餌なら、厨掃き(くりやばき)の粟稗(あわひえ)や、屑菜(くずな)で十分です。あとで乳母(めのと)の君か誰かに頼んで、持ってきてもらうといい。」 「そうだ。先日いとこから貰った石竹(せきちく)の花が、元気ないのだ。そなた治せぬか」 「お城の庭師はどうしたのです」 「あれはだめだ。花がしおれたのは、わらわが構いすぎるからだという」 「…姫。お水は日にいかほど?」 「三度じゃ。わらわも日に三度食事をとるからな」 「やりすぎです」 そうこうするうちに昼も過ぎたので、そろそろ軽業師の芸を見ることになった。 座敷に並ぶお膳には、美食家の殿様が用意させた、様々な珍味が並んでいる。捨て吉は、その皿に顔を近づけて匂いを嗅ぎ、箸で割って中を覗いて食べている。 庭で軽業の一団が、昨日見逃した手妻(てづま)を披露している様子が、開け放した襖からよく見えた。 種も仕掛も無いというのに、くるりと手をひねれば、ひとつだった玉が、二つになり、四つになる。 踊り子が広げた扇子の先からは、幾筋もの水が噴き出しており、それが陽に透けて虹を作っていた。 なるほどすばらしい。料理の味もすばらしい。捨て吉の気分は上々であった。 その日の夕刻。引き留められながらも、捨て吉は武庫之庄を発つことにした。 「いやー。宴の残り物を、こんなに戴いてしまって。本当にいいのですか」 残った饅頭やようかんがたくさん詰まった包みを、大事そうに抱えて、捨て吉はうれしそうに笑った。 「捨て吉は甘い物が好きだから。それでも足りないぐらいだろう。それより、夏にはきっと遊びに来いよ。一緒に鈴虫を捕りをしよう」 そう言ってやんちゃ姫は、鳥籠を抱えたまま手を振った。捨て吉は、ぺこりとお辞儀をすると、街道に向かって歩き始めた。 何となく、自分の目指す物が見えてきたような気がして、それでもまだ、本当の修行はこれからだと、気を引き締める。 みんなの待つ難波へ帰れる日は、もうすぐである。 |