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街道沿いの小料理屋で、究極の山椒味噌に出会う。
宿に戻り、味の記憶をたどる。試行錯誤を繰り返し、木床に朝陽がひとすじの光条を投げるころ。「ちがう。何か、あと一味」捨て吉は、くだんの小料理屋に出向き、意を尽くして教えを請うたのだった。
旅の途中で、病の母を気遣う孝行な娘さんと行き会った。
「むすめさん。これは我が家に伝わる千年寿の清水。これを一口飲めば、百年も千年も寿命が延びると謂われる霊水です。本来門外不出の品なれど、あなたの孝心には、感ずるものがありました。一口差し上げましょう。帰って御母堂に飲ませてお上げなさい」
突然の雨…。
同じ頃、難波で。
「末尋屋」の女将は、雷鳴に驚いて軒端を借りた。白糸のごとき雨だれの隙間からは、暗く垂れ込めた雨雲が透かし見える。
向こう板の捨て吉が、いとまを告げてから、はや一月が経とうとしていた。
それでなくとも、道中に不自由は多いもの。ましてやこの雨の中、一体どんなふうに雨風を避けていることだろう。便りの無いのは無事の知らせ。取り越し苦労は身の毒というが。こんな日にはふと、心配は一陣の風のごとくに、心をよぎっていくのだった。
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