エココラム   
 
 聖と俗のはざまにて「全米地球環境セミナーツアー」
松本 英揮        

 【プロフィール】 宮崎市生まれ。スライド映写機を担ぎ、折りたたみ自転車で日本、世界各国を講演。デンマークの環境政策、ルーマニアのエイズの子供たちとの出会い、弾痕だらけの壁のボスニア…など48カ国を訪れ、スライドショーを開いてきた。    

 「平和を目指して西海岸からNYに向かって歩き始めた時に落ちていた一片の木がNY(ニューヨーク)に歩き付くころ、仏の顔に彫り上がっていました」(=在サンフランシスコ造士さん)
 「この貧しく水もない砂漠のNM(ニューメキシコ州)。古タイヤをかき集め、風と太陽で発電し、美しすぎるゴミの家で雨水を4回リサイクルしたらこんな御殿が出来上がっちゃったよ」(=建設家)
 (NMのカウンターの角から)「今日は俺のおごりだ!みんなぱーっとやってくれよ!」(=NYハーレムのバーで筋骨隆々の黒人紳士)
 
 白人、黒人、メキシカン、アラブ系、アジア系、雑多な人々の表情は、真剣そのものの中にだんだんやさしさを帯び、皆、心で僕のトークを聞いてくれる気がした。以外だった。
 そして感動…。雑多な米国。サンフランシスコの大学院での初の地球環境スライドショー。みんな擦れていない。心は純だ。こっちが裸になって、地球の現実を自分で歩いた四十八カ国の写真と語りで伝えていけば、皆心で返してくれた。ありがとう。初の英語版スライドショーを終えた後は全身全霊を使い果たし、くたくた…。そしてやはりアメリカ。質問ははっきり鋭かった。途上国を食い物にしている組織に対してどういう運動をしたらいいか、ヒデキはイラクにいつ行くの?行ったらやって欲しいことがある…などなど。

 金門橋(注1)は大渋滞、農地は農薬と水不足で荒れに荒れ、クリスマス前の住宅街は決して趣味がいいとは言えないイルミネーションだらけ(皮肉なことに数週間後、SF大停電が起こった)。大量生産、大量消費、大量廃棄。無駄に作って粗末に使い、めちゃくちゃ捨てる…。地球を痛めつけて自分たちのこどもの未来をどんどんつぶしていく。その象徴みたいなカリフォルニア。そしてそれをずっと追い続けてきた日本の未来は…。荒れた土地を眼下に見ながらNMへと向かう。
 
 平原にドンと座っている黒い大地から研ぎ済まされた汚れのない気が放たれている。インディアンの人々は地球を傷つけず、七世代先の子孫のことまで考えながら時間を送り、今日の昼食を作っていた。聖地ブラックメサからの清浄な気を浴びながら…。
 
 ブラックメサから少し行くと突然ぐるり真っ黒に焼けた山脈が現れる。なんじゃこりゃー。2000年五月に野火の大火災で燃えた核実験場、ロスアラモス周囲の山脈である(注2)。「おー怖!」一発間違えたら大惨事だった…。原住民、少数民族の人々が済む大地にいろんな廃棄物を押しつけてきた、文明国家の大量生産・大量消費・大量廃棄の後始末ばかりさせられてはかなわない。

 学校が荒れている…。全米で2番目に貧しいニューメキシコ州。教育にかけるお金がない。州都アルバカーキの街を歩いているとSCHOOLZONEという看板に出くわす。「でも、小学校はどこにあるの?」「ここだよ」と指さされ手先を見てえーっつと思わず口がぽっかり…。その指先をたどっていくと粗末なプレハブが5つ置いてあるだけ。こんなとこで遊び、勉強まともな教育なんてできるはずないやろ!あーあこの街の高校生の卒業率は50%。上がっていくのは女子高校生の妊娠率ばかりだと嘆かれていた…。ニューメキシコの学校現場を見て、物質文明のぜいたくを極めた国のなりの果てを見た気がした。
 
 土壁のすてきなサンタフェの街並み。学校が荒れているでも子供たちのために立ち上がった人たちもいる。チュートリアル・スクールにリチャードさんを訪ねる。古い民家のドアをきーっと開けるといきなり「宿題をやる人は醜くなります」という文字がどーんと目に飛び込んでくる。「カリキュラムなんて入りません。好きな時刻に来て自分のやりたいことをやったらいいんです。」小柄で物静かなリチャードさんが6〜17歳の自由な時刻にやってくる子供たちを抱擁しながら語ってくれた。
 
 このスクールでも、ショーを開いた後に17歳のピアスを耳とまぶたに付けた男の子が握手を求めてきた。「ヒデキ、勇気をありがとう。僕ももう少ししたら世界に旅立つよ!」この男の子は小さいときから酒癖の悪いおとうさんと二人暮らし。一時期はつらくて自殺を考えたこともあるという。このチュートリアルで、仏教を学びヨガを体得して精神的に豊かになり、自由な空気の中で心が解き放たれることによって苦しんでいた人生に光がさし、自分の道を見つけて旅立とうとしている。
 
 アメリカも日本も物質文明のがけっぷちに来ている。子供たちの学校も全く同じである。すべてはつながっている。一心同体であろう。大人たちが地球の限界を敏感に感じ、地球と共に生きる生き方に変わっていくことであろう。難しいことではない。真に楽しく豊かな時刻を送っていけばそれでいいのである。
  この5〜10年の日本の大人がどう変わるかが地球の子供たちの未来を決めると言っても過言ではないと思う。そして物理的な物だけではない。意識が一つ変わることは何乗倍にも増幅し、地球の運命を変えていく。
 
日本の教育現場にも、敏感に感じ始めた人たちがチュートリアルみたいな空気つくり始めた。これは結構な勢いである。子供たちと共に大人も自由に豊かに解き放たれたい。

 大草原の真ん中にいきなりへんてこりんでユーモラスな、今にも笑い出しそうなUFO基地が現れた?真っ青な空、雪を少し抱いた山脈をバックに、それはひょうきんに建っていた。歩いて近づくと”EARTH SHIP”と書いてある。角のない、土を塗り固めたような柔らかい壁のエントランスから中にはいるとそこには光がさんさんと降り注ぎ、塗り壁と木の柔らかい暖炉の空間がそこにあった。「美しい!」と思った。さらに驚いたことにこの家はなんとゴミでできていたのだ。古タイヤ、空き缶、空き瓶…。そんなものを駆使して…。思わず楽しくなった。こんな風に楽しくエコロジーやっていきたい!胸が弾んだ。
 
 この船(家)をデザインした建築家が三十年前にニュースを見ていた。全米で二つの事件が起きていた。ホームレスと古タイヤの激増である。古タイヤは燃えるときダイオキシンを出す厄介者である。建築家はぴんと来た。古タイヤで安い家を作れば二つの問題は解決するじゃないか!そして出来上がったのがこのひょうきんな船だったのだ。この船はにこにこ笑っているが実はすごいことをやっているのだ。このNMも水不足で大変なことになろうとしている。(あのアメリカで、使いすぎた人にペナルティーを課そうかといい始めた。分かっていたらもっと早くやったらエエのになあ!)
 
 しかしだ!この地球船ではなんと水を四回もリサイクルしていた。台所の廃水(グレーWARTER)は屋内の植物で浄化。そして何とウンコ+おしっこ(ブラックWARTER)も屋外の植物で浄化!して…。この水のない土地で雨水を4回まわして自給していた。地球船はにこにこ笑いながら僕に語り掛けた。「ヒデキ、地球上に水不足は存在しないんだよ!少ない水でもちょっと工夫して大事に使っていけばいいんだよ!」。地球上で既にたくさんの人々が水不足に苦しんでいるときに乾いた平原でにこにこと笑いながら涼しい顔をしている地球船。今にもさわやかに飛んでいきそうだ。

 旅もやはり地獄と天国の繰り返し。タオスの丘の上に立つ中国人のおばあちゃん写真家の家で担いで歩いているスライド映写機のヒューズが飛び、デンバー(コロラド州)の空港で変圧器が消えてパニック状態も、JAZZのメッカ・ニューオーリンズで何とか立て直し、見渡す限りのクリスマスツリーの街、ブーン(N.C=ノースカロライナ州)の州立大学でショーを開いた後に首都、ワシントンDCに乗りこんだ。
 さすが、首都ワシントン。この自由なアメリカで裸足にゴムぞうり(サハラ砂漠で砂が暑すぎて三十円で買ったやつ)の僕の足を見て、主催者が本番では靴をはきますか?と聞いてきた。はけ、とは言わなかったが…。
 
 サンクスギビングの前なので楽しくやろうとマクロビオティークの料理人フエルナンドがなんと玄米のシソ巻きをたくさん作って、砂糖を使っていないケーキと一緒に会場に運んでくれた。
 感激!玄米菜食で砂糖を取らない僕にとっても、なによりのプレゼントだ。アメリカで玄米のシソ巻きが食べれるなんて!いつも持ち歩いている竹の弁当箱に残ったやつをたんまりつめて快適なアムトラック(列車)の二階でにこにこ笑いながらシソ巻きとケーキをほおばりながら、次のシカゴ(イリノイ州)へ向かった。
 (ワシントンでのショーが終わった後、日本の食材店とすし屋を同じスペースでやっている店に行った。入るといきなり宮崎関係のチラシが…。そう、店長は都城市出身。奥さんは宮崎商業のテニス部出身だった。今度ワシントンでショーを開くときは「宮崎県人会」でどっと押しかけますよ、といってくれた。どこの国でも頼るべきは宮崎県人か?)

 「おーさむ!」まだ夜明け前、ぞうり履きの裸足が冷たい、冷たい。シカゴの郊外の街で、日本で英語を教えていたエレンと空き缶を拾いながら歩いていた。
 家みたいに「ビン飲料だけにすれば、こんなゴミだらけにならないのに…」五ブロック位歩いてやっとリサイクルセンターへたどり着いた。そしていろんな廃材が置いてある中でおじさんに五百グラムくらいのつぶした空き缶を渡すと、何とアツアツのポップコーンと二ドル渡してくれた。 
 
 日本の約五倍のデポジット率。空き缶五百グラムで一食いける。愛隣地区(大阪府)のおじさんたちは四キロ拾わなければ一食食べれなかった。最終的にはデンマークみたいなビン社会に一刻でも早くもっていかなければごみ問題は解決しないが、第一歩としてデポジット率を引き上げて、回収を徹底させることが大切だ、と裸足の冷たさと共に身に染みて思った。
 
 いやいや、問題はそんなことではないのだ。なぜこんな寒い早朝から、エレンと二人で缶を拾わなければならないのか…。この街はシカゴ郊外の労働者の街。きらびやかな白人、文明社会と一線を画された街なのだ。エレンはその一角にある粗末な鉄骨作りの狭いアパートの暗いリビングを借りていた。住人はメキシコから来た腕っ節が強く、気の短い男だ。仕事仕事の不平、不満に明け暮れ、お金もあまり持っていない。ことあるごとにグアテマラから来た小柄でとても優しい奥さんを殴りつけ、虐待していた。そのせいか、愛くるしい一歳の娘は成長が極端に遅い。
 
 昨晩、図書館でのショーを終え、夜遅くにその部屋に戻った。するといきなり彼がエレンに文句を言い始めた。間を見て、彼は僕に笑いながらごめんねといってエレンを部屋に連れて行ったどうも言い合いになっているみたいだ。今朝、いつものように奥さんを殴りつけていたのでエレンが中にはいったらしい。それに対して男は怒っているようだ。
 
 ほとんどの富を1%に満たない人々が所有しているアメリカ。物にあふれ、一見きらびやかなアメリカ。 しかし人々の心に物質文明の限界を感じる。差別される人々は貧しさからくるストレスに暴力的に走る。そして差別する側の人々の心には陰りが見え隠れする。

 いてつくようなコネチカットの工場跡。コンドミニアムにて…。今にも凍てつきそうな川のほとりに素敵な煉瓦造りの工場を天井の高いコンドミニアムに仕立てた建物が立っている。小柄でくるっとかわいい目をした須木村出身の漆原さんは静かに語る。高校を出てから世界中を旅しNYにたどり着いた。NYでいろんな仕事をする内にNYを知り尽くした。
 
 NYを求めてくるに本の著名人、五木寛之や落合信彦、立木義浩 などにも案内してきたと言う。NYでもまれ、そしてここまで作り上げてきた仕事をスパッとやめて料理人の弟子入りをして包丁を持っている漆原さん。実に自然で力みがない…。
 
 彼にもコンドミニアムの壁にスライドを映し、川のせせらぎを聞きながら170枚のスライドを見てもらった。アジア〜アメリカ〜アフリカ〜ヨーロッパの西、そして東欧…。僕が語り終わると一言尋ねられた。
 
 「地球環境問題、最も大切で全てのことにつながる問題ですね。でも、大量消費の正反対をやってくこと、それを世界に伝えること、きつくないですか?」
 「いいえ、きつくありません。むしろ楽しいです。このショーをはじめた2年前に全てのことを吹っ切って地球の現実を伝え始めたときに人生の迷いを立ちきれたんです。これからは真実だけで生きていける」
宮崎をでて素晴らしい行き方をしている方がここにもいた。晴れ晴れとした気持ちでハーレムに向かった。
 
 125番街の駅で降り、10ブロックほど上がっていつもの安宿のベッドに体を投げ出す。アメリカのたびはいつもこの宿でフィナーレを迎える。
 小柄なおじさんと陽気なおばちゃん、2人の親切な黒人が「あんたはまじめだから信用しているよ」ケラケラ笑ってキーを渡してくれる。壊れた鍵跡が無数にあるドアのないシャワールーム。傾いた床に鍵のついたトイレットペーパー…。「地球を守るため、ベッドメイクお断り」部屋の使い捨ての備品は一切使わずと書いた紙をドアの下に滑り込ませておくと大柄な黒人男のメイドがそれを大声で読み、ケラケラ笑っている。
 
 街に出てバーに行くと、黒人紳士が今日は俺のおごりだ、とみんなに振舞いJAZZに会わせて踊る踊る。ズボンに下げているマイカップを差し出すとみんな寄ってきて「セーブウォーター?(水を節約?)」と言って笑う、笑う。調子に乗ってフンドシのヒモをチラッと見せて(僕は自分の体と地球のためにパンツをはいていない)「セーブ、ラバー?」と言うと「ゴムを守る」のつもりが「セーブラヴァー?」…なぜこのジャパニーズパンツが恋人を守るんだ?…またまた大爆笑。
 ずっと差別を受けつづけた黒人社会、その中で独特な文化が育ってきたハーレム。皆、居心地がいい、ほっとする。波乱万丈の全米スライドショーツアーはハーレムの夕暮れどきの群青の空にフィナーレを迎える。

注1:金門橋=ゴールデンゲートブリッジ
注2:ロスアラモス周囲の山脈には核実験を実施する国立研究所がある
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