第十一回ご隠居横丁句会

二〇〇五年十二月十三日(火)午後七時半開会 銀座「くはら」

 第十一回句会は、忘年句会として上記日時、場所で開催しました。

 兼題は「日記買ふ」(古日記)「風邪」「河豚」

 参加者は荒谷黄昏さん、吉田鉄井さん、井上青軸の三人。高橋なには橋さんと米原幌櫃さんが投句参加。参加者が少ないので六句選とし、秀句二句に講評でした。



兼題の部


黄昏選                             

@富くじをお守りにして河豚づくし     (青軸)

〈評〉ぱっと飛びつく秀句がなく、わかりやすい作品を選んだ。河豚づくし、に心がある。毒にあたらないまじないの宝くじが、不景気な世の中を映している。

A瞳の腫れを笑って風邪のせいにして    (鉄井) 〈瞳=め〉

〈評〉女の句。笑って、に心がある。明るい感じがよろしい。

 ・風邪の子に甘えの風情ありありと    (青軸)

 ・酒熱いか国の河豚ひれうすけむり    (なには橋)

 ・あのころは汚れ白雨古日記       (幌櫃)

 ・跳びはねて落葉布団の軽さかな     (青軸)


鉄井選

@古日記めくって探す初デート       (黄昏)

〈評〉初デートの相手とは、もう別れているはずだ。つきあっている間は日記を探すはずもない。終わった恋を確認しているのである。実感を感じさせる。

A風邪の喉より痛さうな声ひとつ      (なには橋)

〈評〉痛いという感覚をそのまま詠むのではなく、声にその感覚をのせた。五感を超えたところに感覚を見つけた。

 ・跳びはねて落葉布団の軽さかな     (青軸)

 ・富くじをお守りにして河豚づくし    (青軸)

 ・日記買ふ坂まつすぐに海に入る     (なには橋)

 ・霜柱出発の声澄みにけり        (なには橋)


青軸選

@古日記にじんだ文字をなぞる指      (幌櫃)

〈評〉終わった恋。涙は読み返している今落ちたのか、それとも書いたそのとき落として字がにじんだのか。年を締めくくるいま、恋も締めくくる。

A霜柱出発の声澄みにけり         (なには橋)

〈評〉寒気ときれいな霜柱の朝、声も澄んで美しい。清少納言を引くまでもない。つきづきしい冬の朝をいい止めた。

 ・日記買ふ坂まつすぐに海に入る     (なには橋)

 ・日記買う荷風気取って清書する     (黄昏)

 ・古日記めくって探す初デート      (黄昏)

 ・風邪気味なの小さな咳する君がいて   (黄昏)



提出句一覧


なには橋

・日記買ふ坂まつすぐに海に入る

・風邪の喉より痛さうな声ひとつ

・酒熱いか国の河豚ひれうすけむり

・燃ゆるまま月のもみぢとなりにけり

・霜柱出発の声澄みにけり

黄昏

・古日記めくって探す初デート

・日記買う荷風気取って清書する

・崩れゆく時代を誌すぞ日記買う      〈誌す=しるす〉

・風邪気味なの小さな咳する君がいて

・河豚の候関門の友思い出す


鉄井

・筆買って机磨いて日記買う

・布団にて熱をあじわう風邪の昼

・瞳の腫れを笑って風邪のせいにして    〈瞳=め〉

・まろき目にまろき腹みえぬ肝の毒

・五線譜に並ぶ河豚たのしモーツァルト

幌櫃

・古日記にじんだ文字をなぞる指

・あのころは汚れ白雨古日記

・風邪ひけば人にうつしてなおす人

・くしゃみ風邪ラッシュも周囲は空き気味に

・いかにして切れども河豚は磨りガラス

・「ごめんね」と河豚のほっぺをつつきます

・河豚の腹よがりの声も酒に焼け

青軸

・三月ほど埋まらぬ日記のこりけり

・風邪の子に甘えの風情ありありと

・富くじをお守りにして河豚づくし

・跳びはねて落葉布団の軽さかな

・落葉たき山茶花数片まじりけり

席題の部

席題は「おでん」「漱石忌」

三句提出、二句選、二句講評です。

黄昏選                             

@大根をほろり煮ほどくはし二膳       (鉄井)

〈評〉ほろり煮ほどく、に心あり。なかなか練れている。女なら熟女、男ならロマンスグレー。中年のほろ苦い恋か。はし二膳で着地も決まった。

Aこころざし折れて流れて漱石忌       (青軸)

〈評〉漱石は天才のイメージが強いが、挫折もあり、悩みも多かった。詠んだ人の共感を感じた。

鉄井選

@トカトントン妻は津軽をむきにけり     (青軸)

〈評〉太宰の作品の中でも、トカトントンは好きなので。何も関係ないが妻が津軽を向いてくれる。うらやましいくらい幸せである。

A牛になれ肝に銘じる漱石忌         (黄昏)

〈評〉こころざしとどちらか悩んだが、野心的な牛をとった。同じことを言っていると思うのだが、状況をとらえるのか、意志を詠むのか、相の違いであろう。

青軸選

@大根をほろり煮ほどくはし二膳       (鉄井)

〈評〉煮ほどく、がうるわしい。はし二膳は何かを暗喩しているのであろうが、いずれにせよ、大根はおでんの中でとりわけ旨い。それを頂く人生も旨い。

A漱石忌神経病みつつ自信わき        (黄昏)

〈評〉漱石を敬愛する気持ちがよく見える。漱石を思うことでこの冬を生きる自信がわいたというのである。


提出句一覧

 

黄昏

・おでん屋で過ぎし世の蔭しのぶ晩

・漱石忌神経病みつつ自信わき

・牛になれ肝に銘じる漱石忌

鉄井

・大根をほろり煮ほどくはし二膳

・いそがしき朝食の膳におでんあり

・その面に日々出会いたし漱石忌       〈面=つら〉

青軸

・長湯してたこのおでんになりにけり

・こころざし折れて流れて漱石忌

・トカトントン妻は津軽をむきにけり